兎の本気
キッシュは早速、仲間になってくれるかも知れない兎の少女を探すため、集会所を出ようとした。
「……あれは」
「なんだ、もういたのね」
解放されている入り口の片隅に、兎の耳らしき突起物が見えていた。
「ネザーラちゃん!」
チワが呼び掛けると、兎の耳は引っ込み、猛スピードで走り去って行く足音が聞こえた。
「あらら、逃げられちゃった」
「……僕、追いかけて話をしてみます」
「そう。頑張ってね」
「ネザーラって、あの娘の名前ですか?」
「ええそうよ……ところで私、あなたの名前をまだ聞いてなかったわね」
チワに言われて、キッシュも自分がまだ名乗っていなかった事を思い出した。
「僕はキッシュと言います」
「キッシュちゃんね。了解」
「それじゃあ、行って来ます」
外に出て辺りを見回してみるが、それらしき姿は見えない。
しかし、足音の向かった方向とパターンは覚えているので、聴覚を頼りにネザーラの捜索を開始した。
「あっ」
ちょうど集会所の裏手にあたる場所で、こちらを見て驚いた顔をしている兎娘を発見した。さっき見た耳の部分と色や形が同じなので、おそらく彼女がネザーラだろう。
背丈はキッシュより少し高く、髪は茶色のショートボブ、服装はひらひらの多い可愛らしいものだった。
見た目が分かれば、視覚でも追う事ができる。
「待って……」
こちらが声をかけようとした直後には、彼女は逃げていった。
まさに脱兎。そのスピードは明らかにキッシュの全速力をも上回っていた。
「あれは、追い付けませんね」
正攻法では太刀打ちできないと判断したキッシュは、やり方を変える事にした。ここに来るまでに一度やった兎を捕らえる方法、あれをもう一度実践してみた。
まずはあちらに気付かれるよりも先に見つける。
これはすぐにクリアした。最高速は出せてもスタミナが無いのか、以外と近くで彼女は息を切らしていた。
次に足音を殺しつつ、相手に見えないギリギリまで近付く。
これもクリア。ちなみに今は無風なので、匂いを気にしなくても良いのが幸いした。
後はありったけの瞬発力で一気に飛びかかるだけだった。
「きゃあ!!」
今度も見事捕獲に成功した。
「た、食べないで……」
捕らえた兎娘は、完全に怯えきった表情でキッシュをじっと見ていた。
「今はお腹が空いていないので大丈夫です。それより、あなたにお話があります」
「……え?」
補食が目的ではない事を知った彼女の表情が少し緩んだ。