冒険家になるために
そこは冒険家と称される(称する)者達が、情報や物資の交換を行うために設けられた施設らしい。
キッシュは何も考えずに入ってみたが、調べていたのはこの施設の存在までだったので、具体的な利用方法は検討もつかない。
「あら。あなた、ここに来るのは初めて?」
しばらくキョロキョロしていると、突然後ろから声をかけられた。
「……はい」
「ここに来たって事は、あなたも冒険家になりたいのかしら?」
「はい、そうですが……」
いきなり現れた、犬の亜種らしきその女性は、慣れた様子で一気に捲し立てて来る。
キッシュはその勢いに気圧されていた。
「あら、ごめんなさい。私はここで案内をしてるチワって言うの。慣れていれば自分達で勝手にできるけど、あなたのような動物も結構来るから、そのためにここにいるのよ」
「そうでしたか」
すると、チワと名乗った女性はキッシュの姿をジロジロと見回し始めた。
「……あの」
「う~ん、何て言うか……」
最終的な視線の先は、明らかに背中の剣だった。
「あなたを見てると何か思い出すのよね。変なこだわりを持った猫」
「もしかしてそれは、僕のお父さんでは?」
「あなたのお父さん?」
キッシュはチワに、父が冒険家をしていてよくここを利用していた事、そして五年前から行方不明である事を伝えた。
「えっ! あなた、あのアンゴラさんの娘さんなの? そっかぁ。最近姿を見ないと思ったら、まさか行方不明になってたとはねぇ」
「はい。なので僕自身が冒険家になって、お父さんを連れ戻したいんです」
「分かったわ。そう言う事なら、私も応援してあげる!」
チワはキッシュの手を取り、ブンブンと振り回してくる。
「あ、ありがとうございます」
「それじゃあ、まずはここの使い方を教えるわね」
チワの説明を要約すると、ここは集会所と呼ばれ、本当に冒険家同士の交流の場としてのみ機能しているらしい。
「まあ、ある程度の情報ならこちらでまとめて公開したり、遺物の鑑定や買い取りをする事もあるけどね。だから慣れないうちは私を頼ってちょうだい」
「はい、ありがとうございます。では早速ですが、冒険を始めるにはどんな準備が必要ですか?」
「そうね……やっぱり一番は仲間を作る事だと思うの」
「仲間、ですか」
「そう。自分じゃできない事でも、他の誰かならできるかも知れない。そうやって互いの長所を活かせば、できる事や行ける場所がぐっと増えるわよ」
その言葉を聞いたキッシュは幼い頃、父が同じような事を言っていたのを思い出した。
「なるほど。でもそんなに都合良く見つかるでしょうか」
「それがいるのよねぇ。昨日、あなたと同じように冒険家になりたいって娘が来てたのよ。兎の娘なんだけど、今日も来るかも知れないから探してみたら?」
「はい、そうします」
こうしてキッシュは、冒険家としての第一歩を踏み出した。