生存競争
キッシュの実家は山奥にあるため、目的の街までかなりの距離がある。
その道中で。
「……お腹が空いてきましたね」
食糧を持ち歩く習慣の無い彼女は、食べ物は自力で確保するつもりでいた。
ここは山を下りてすぐの森の中、獲物は探せば簡単に見つかるだろう。そう考えたキッシュは、これまでに身に付けた経験や知識を使い、狩猟の体制を整えた。
まずは周囲の獲物に自分の存在が知られないよう、足音の殺しながら歩く。そして逆に周囲に他の動物がいないかを察知するため、聞き耳を立てる。
キッシュは猫の割に木登りは不得手であったが、この手の隠密行動は得意だった。
(いました)
しばらく慎重に探っていると、原種(かつての姿のままで生きている個体)の野兎を発見した。あちらはまだこちらに気付いていない。
空気の流れをチェックし、風下にまわりつつ、距離を詰める。
視覚、聴覚、嗅覚、そのどれか一つででも捉えられたらアウトだ。正面からの追い駆けっこでは勝ち目が無い。高い知能を持つ代わりに、亜種は身体能力(特に敏捷性)が劣る傾向にあった。
気付かれずに接近する事に成功したキッシュは、そのまま野兎に向かって飛びかかった。
「捕まえました!」
相手が逃げようと踵を返した次の瞬間には、キッシュの手が兎を捕らえていた。
「いただきます」
逃げ出さないように殴打で意識を奪ってから、生のまま貪った。
家でなら焼くなどの調理をしたりもするが、基本的には生で食べる。
「ごちそうさまでした」
残った骨は地面を掘って埋め、キッシュは再び街に向かって進み始めた。
食うか食われるかの生存競争は、この世界では日常である。他の動物に食べられる事は不運ではあるが、決して理不尽な出来事ではない。
それと同時に、この世界に存在する唯一の争いでもある。
「ここが、街……」
行き交う様々な動物。遺跡でも自然を加工した物でもない建物の数々。
そこに広がる風景の全てが、キッシュの想像を越えるものだった。
「……それにしても、妙に視線を感じますね」
実際、彼女は目立っていた。正確に言うと、彼女が背負った剣が。
新参者が珍しいだけだろう、と判断したキッシュは、気にせず街中に入って行った。
街の中は、キッシュにとって更なる不思議に満ちていた。
特に、屋根の下で大量の食べ物を調理している光景は圧巻だった。何でもお金と言う物と交換するのだとか。
そしていろいろ見て回っていると、目的の施設を発見した。




