帰路
「もう来るんじゃないわよ!」
約束通りパンドラに剣を返し、代わりにアンゴラを連れた一行は、一度街に戻る事にした。
アンゴラの筋力低下もキッシュの貧血も、少しの休憩や処置によりすぐに回復した。
「その回復力は人間の比じゃ無いわね」
と、パンドラも驚嘆していた位である。
「それにしても、あの時の娘がキッシュと一緒に冒険家になってたなんてな」
「まさか、キッシュちゃんのお父さんがあの時の冒険家だったなんて、私もびっくりだよ」
帰り道の途中、キッシュが眠っていた間に発覚した事実が、二匹の間から聞かされる。
ネザーラが冒険家を志すきっかけとなった者こそが、他ならぬアンゴラだったのだ。
「それに、鍛冶屋の娘まで一緒に冒険家やってたんだな。家業は継がないのかい?」
「俺は工房でちまちま物を作るのは向いてないんだ」
結果としてキッシュのみならず、三匹共に、この死に損ないに振り回されていたのだ。
「おや、アンゴラさん。本当にお久しぶりです」
「やっぱりここに来ると、帰って来たって感じがするな」
街の集会所に戻った四匹は、チワに一通りのあらましを語って伝えた。
「やったのね、キッシュちゃん!」
「はい、やりました。これまでいろいろありがとうございました」
キッシュとチワは互いに手を握り合い、出会った時のようにブンブンと振り回した。
「そう言えば。キッシュちゃんは良いとして、ネザーラちゃんとラングールちゃんはこれからどうするの?」
チワに話を振られ、二匹はそれぞれの思いを語る。
「私はまだ、冒険家を続けようと思う。今回の件で、まだまだ知りたい事がたくさんあるって分かったから」
「俺も冒険家を続けるつもりだ。自分の目で確かめるまでは、どうしても認められねぇ事ができちまったからな」
「そう。それじゃあ、今後ともよろしくね☆」
新しい顧客を確保できたチワは、精一杯の営業スマイルをかました。
「……まあ程々にな。さて、そろそろ俺は行くわ。元気でな、キッシュ」
「あっ、私も行くよ。これまでありがとう、キッシュちゃん。またね」
「はい。それではまた」
冒険家続投を表明した二匹は、忙しなく新たな冒険に旅立っていった。
「さて、私達も帰るか」
「はい、お父さん」
それほど長い期間でも無かったはずなのに、家の敷居を跨ぐのはもうずっと昔のように感じる。それほどまでに、キッシュにとってこの冒険は濃密なものだった。
「ただいま。元気にしてたか?」
「あら、お帰りなさい。今回は……本当に……長かったわね」
父の姿を確認した母は、気丈に振る舞おうとしつつも、溢れる涙を抑えられなかった。
「……すまなかった」
「まったくよ……」
夫婦はそれ以上多くは語らず、ただ抱き締め合った。