再会
「……ん、んん……」
眠りから醒めたばかりのぼんやりする意識の中、前後の記憶を繋ぎ合わせながら、キッシュは周囲を見渡した。
「あっ、キッシュちゃん起きた?」
「気分はどうだ? パンドラが言うには、今のお前の状態は意外とヤバいらしいんだが」
「特に異常はありません。だいじょう……あれ?」
すぐに分かる異常は本当に無かったが、動こうとした瞬間に頭がふらつき、急激にバランスを崩した。
「まだ寝てなさい。仕方無かったとは言え、命に関わる量の血を抜いたんだから」
パンドラと名乗っていたような気がする赤髪の少女は、父の入った容器の前で何かをしていた。
「お父さんはどうなりましたか?」
「アンタからもらった血を使って、今治療中よ。大丈夫、経過は順調だから。さっきも言ったけど、アンタはそこで休んでなさい」
「ありがとうございます」
「礼なんていいわよ……」
それっきりパンドラは治療に集中し始めた。
「そうだキッシュちゃん、お水飲む?」
「いただきます」
ネザーラから水の入ったコップを受け取り、一気に飲み干す。
それだけでは足らず何杯もおかわりして、ようやくキッシュは一息ついた。
「ネザーラとラングールは、ここでどうしていたのですか?」
キッシュは実は、ネザーラがパンドラと話し始めた時には、すでに意識が朦朧としていた。それまでの疲労と動けないと言う状態が、あっという間に彼女を睡魔の餌食にした。
「私達は私達で、パンドラちゃんにこの遺跡を案内してもらったりしてたよ」
「そうでしたか……」
きっちり水分を摂り、当面の危機が去ったのを知ったキッシュに、再び強い眠気が襲って来た。
「お疲れ様。ゆっくり休むと良いよ」
ネザーラの優しい声を聞きながら、キッシュは今日二度目の眠りに着いた。
「……ぃ……ぉ……」
心地よい微睡みの中、懐かしい声が微かに聞こえる。
また聞けると信じて、今まで頑張ってきた相手の声。そしてもうすぐ……
「えっ?」
その事実に改めて気付き、キッシュの意識は一気に覚醒した。
「目が醒めたか、キッシュ」
今の声は夢では無い。
キッシュのすぐ隣に、冒険家になってまで探し続けた父が立っていたのだ。
「お、とう……さん?」
ずっと探し続けていたはずなのに、いざ目の前にすると、ひどく現実感が薄い。
それほどまでに、会えなかった時間は長かった。
「すまんな、長いこと帰れなくて。そして、こんな所まで迎えに来てくれてありがとな」
そう言って自分の頭を撫でてくれる父の手の温もりを感じたその時、初めてキッシュの中でその実感が湧いてきた。
「お父さん! お父さん……本当に、探したんですよ」
全力で抱き付き、もう何年も流さなかった涙を溢れさせる娘と、それを優しく受け止める父。
ここに、一匹の少女の冒険が終わりを告げた。