帰らぬ父を探しに
あれから五年の月日が流れたが、未だに父親は帰って来ない。
娘キッシュも大きくなり、一般的に成獣と認められる年になっていた。ただ背はあまり伸びなかったため、幼い印象は拭いきれていない。
「本当に行くの?」
「はい。僕も冒険家になってお父さんを見つけ出し、連れて帰ります」
キッシュは荷物をまとめながら、母親にそう宣言した。
「それにしても、あなたにしては随分思い切ったわね」
「冒険家になる事自体は、昔から決めていたんです。世界中の遺跡や、そこに眠る遺物には興味があったので」
かつてニンゲンが作ったとされる数々の建造物は遺跡と呼ばれ、その中にある古い品々は遺物と呼ばれていた。
「そう言えば、キッシュは昔から、お父さんが持って帰る変な物が好きだったわね」
「……はい」
楽しかった幼い頃の記憶が、帰らぬ父への憧憬として、今なおキッシュの胸に刻まれている。
「ところでそれ、邪魔じゃないの?」
母親が指差したのは、彼女が背中に括り着けた剣だった。
「これは、お父さんが最後に残してくれた物ですから」
その剣は、柄まで含めるとキッシュの背丈とほぼ同じ長さがある。それを鞘に入れて背負っているため、はっきり言って自力ではそこから抜けない。
「それに、剣を持ってるって、いかにも冒険家っぽいです」
「いやいや。お父さんはそんな物装備してなかったわよ」
「そうでしたっけ?」
本当は知っているが、とぼけてみせる娘。
「その割に、服はいつものそれなのね」
「未知の場所へ行くからこそ、慣れた服が一番です」
そう言いながら、準備を締めくくるかのように、腰まで伸びた黒髪をリボンでまとめた。
ちなみに今も着ている彼女の普段着は、飾り気ゼロの白いワンピースである。
「ふぅ、そう言う妙なこだわりはお父さんそっくりね。とにかく、やると決めたからにはしっかりやりなさい。そして、お父さんと一緒に元気な顔を見せてちょうだい」
「はい、お母さん。それじゃあ、行って来ます」
こうして、キッシュの父を探す旅が始まった。
「まずは街に……」
各動物の亜種は総じて知能が高く、他の動物間での言語によるコミュニケーションを可能にした。
その結果、互いが協力して生活する様々なコミュニティ、すなわち街を各地に形成していたのだ。
キッシュはその中の一つ、父が冒険の拠点としていた街を、初めの目的地として定めていた。そこには、冒険家として活動するのに必要なものがある……らしい。
「楽しみです」
今までは特に用が無かったので行った事はなかったが、まだ見ぬ場所に好奇心が疼くキッシュだった。