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亜種とニンゲンとAIと

「分かりました」


 自分の血を要求されたキッシュは剣を鞘から抜き、刃を自分の腕に当てた。


「ちょ、ちょっと待ちなさい! ホント調子狂うわねアンタ。そんな事してもまともに採れるわけないじゃないの」


 どこからともなく機械の腕が表れ、キッシュの手から剣を取り上げた。


「採血ってのは、医療行為の中でも重要かつ繊細なものなのよ……なんて言っても分からないか。とにかく、一滴たりとも無駄にしないようにちゃんと採るから、こっちいらっしゃい」


 そこには、背もたれが頭の上まである大型の椅子があった。その周囲には細い管がいくつも走り、アームレストに集約していた。


「そこに座って。もっと奥、そうそこ。じゃあ腕をここに置いて……」


 等、矢継ぎ早に指示を出しながら、採血の準備が整っていく。


「じゃあ始めるわよ。ここに針を刺してそこから血を採るから、心の準備をしといて」


 キッシュの腕の内側に針が刺され、採血が開始された。


「しばらく動いちゃ駄目よ……ふぅ、これで良いわ」


 各操作が終わると、さっきまでのピリピリした感じが抜け、落ち着いた空気に変わりつつあった。


「あの~、そろそろ良いかな?」


 これまでただ付いて来るだけだったネザーラが、躊躇いがちに赤髪の少女に声を掛けた。


「パンドラよ。で、何?」


「前の遺跡でノアちゃんから聞いたんだけど、私達亜種はパンドラちゃんによって"作られた"って本当?」


「……ええそうよ。アンタ達は、真っ当な進化の過程でその姿になった訳じゃない。完全に絶滅し、遺伝子情報だけになった人間の因子を、いろんな動物に埋め込んだ結果生まれたのがアンタ達よ」


「なんでそんな事を」


「アタシ達AIも、所詮人間によって作られた道具に過ぎない。人間がいなくなれば、やがて朽ち果てるのみ」


 そう語るパンドラには、さっきまでのような強気な態度は見られない。


「だから、なるべく早く人間と同等の知能を持つ生き物を作って、アタシ達の手入れができるようにしなきゃいけなかったのよ」


「……」


 生き残りたい。

 それは全ての動物にとって、いや、例え命を持たないものにとっても共通の、根元的な欲求である。

 手段はどうあれ、ネザーラにはそれを否定する気にはなれなかった。


「俺からも、一つ良いか?」


 今度はラングールがパンドラに質問をぶつけた。


「本当に、ニンゲンはもうどこにもいないのか? お前達が見つけられないだけで、どこかに隠れ住んでる可能性とかは無いのか?」


「完全な姿での人間は、もういないわ。残念だけど、それは断言できる。アタシ達のネットワークを使えば、世界中の様子を完全に調べきる事ができるわ。見逃しなんてあり得ない」


「……そうか」


「強いて言えば、アンタ達亜種と呼ばれる動物の中に、人間の因子が残ってるわ。しかもアンタは元々猿よね? もしかしたら、遠い未来のアンタの子孫が、限りなく人間に近い生き物になってるかもよ」


「そうか……」


 聞きたい事を聞き終えた二匹は、それっきり黙り込んだ。

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