父親の真実
予想通り、入り口に入るとすぐに下り階段になっていた。
かなり長く階段が続き、降りきったそこは、ノアのいた遺跡と似た構造の部屋だった。
「ちょっとあんた、良く見たら何でそれを持ってるのよ!」
そこに一人の少女が、怒りの形相で立っていた。
耳や尻尾は見当たらず、背丈はキッシュよりも小さい。ふわふわした長い真っ赤な髪を左右で結んでいた。
「それって、これの事でしょうか?」
キッシュは背中の剣を正面に抱え直した。
「そうよ、それ! 五年前に盗まれた守護者の剣!」
「僕達は、これをここから持ち去った動物を探しています。あなたはここの管理者ですよね、心当たりはありませんか?」
「何よ馴れ馴れしい……でも、ソイツなら知ってるわよ」
「!」
駄目で元々のつもりで聞いただけに、その返答は三匹を驚かせた。
「で、ソイツを見つけてどうするのよ?」
「彼は僕の父なんです。見つけたら、連れて帰ります」
「そう……なら、交換条件といきましょう。その剣を返してくれたら、その雄猫の居場所を教えてあげるわ」
「本当ですか!?」
キッシュは赤髪の少女にずいと近寄り、押し付けるように剣を手渡す。
「ちょ、ちょっと! この体は実体じゃ無いから受け取れないわよ。とりあえず付いて来なさい」
同じような構造の通路や部屋をいくつか通り抜け、辿り着いたそこに。
「お父さん!」
確かにキッシュの父アンゴラがいた。ただし……
「これ、生きてるのかな?」
「生きてるわよ! ……ギリギリだけど」
半透明の液体で満たされた、密閉された容器に入ったその体は微動だにしない。
「これは一体、どうなっているんですか?」
「コイツらは剣を持って行った数日後に、性懲りもなくまた来たのよ。だから今度こそこてんぱんにしてやろうと、全力で出迎えてやったわ」
「で、こうなったと」
「だって、あのタイミングであんな動きするなんて予想できなかったんだもん! 他の奴らは、コイツを置いてさっさと逃げちゃうし」
今、父がどんな状態なのかはキッシュには分からなかったが、もしこの娘がこうしてくれなかったら、父はとっくに死んでいただろう、と何となく思った。
「父を助けてくれて、ありがとうございます」
「いやいや、そもそも殺しかけたのもコイツだし」
「フン! 悪いのはコイツらなんだから。でも、医療施設管理者の威信に賭けて、コイツの治療はしてみせるわ。その為に必要な物も揃ったしね」
「やはり"えーあい"は僕達の味方なんですね」
そう言いながらキッシュは赤髪の少女の頭を撫でようとしたが、すり抜けてしまう。
「だから触れないって、ってかアンタ馴れ馴れし過ぎ。それはともかく、アンタ、コイツの血縁だって言ったわよね?」
「はい」
「それじゃあ、アンタの血をちょうだい。それも、かなり大量に」