それぞれの入り口
「ここが次の遺跡、なんだが……」
深い森の奥、ラングールに先導されてやって来たそこには、周囲の木々よりも高い壁がずっと続いていた。
「で、これはどこから入るのかな?」
ネザーラの率直な質問にも表れている通り、入り口らしき扉の類いがどこにも見当たらない。
「それなんだよなぁ。一般的には……」
そう言いながらラングールは、上を指差した。
キッシュとネザーラは揃って首を左右に振る。
「だよなぁ。ネザーラはもしかしてとか思ったけど、木登り無理とか言ってた猫がいるし」
「さすがにこの高さは跳べないかな」
「他に入り口とかは無いのですか?」
「ある……って話だが、みんな上から入るせいで、実際にそっちから入ったって話を全く聞かねぇんだよな」
「とりあえず、そこを教えて下さい。ここを登るよりはマシかも知れません」
「あいよ」
壁から少し離れた所に、井戸の様な筒状に加工された縦穴が空いていた。
覗いてみると、底には水が張っており、本当に井戸っぽかった。
「この先が遺跡の中に繋がってる、って噂だ。でも、先がどこまで続いてるかは分かんねぇ」
「これなら、僕でも行けそうですね」
「逆に言うと、キッシュちゃんしか行けそうにないね。他に入れそうな場所は無いかな? ラングールちゃん」
「え~と、確かこっちに……」
井戸からさらに離れた場所に、一際大きな木が何らかの理由で根元から折れ曲がり、遺跡の壁に向かって傾いていた。
「この木を駆け登って、遺跡に跳び移った奴がいるって話を聞いた事がある。いかにもホラ話っぽいけどな」
「ううん、これなら私でも行けそうだよ」
「むしろお前しか無理だろうけどな」
入り口候補を見て回った三匹は、どうやって入るのかを話し合い、一つの結論を出した。
「よし。それじゃあ、それぞれ別の入り口から入って中で合流する。それで良いな?」
皆が頷き、その後それぞれ違う入り口に向かう。
ラングールは木を伝って壁を直に登り、キッシュは井戸の中を泳いで進み、ネザーラは巨木を駆け登って壁の上に飛び込んだ。