新米冒険家のそれぞれ・ラングールの場合
「それじゃ、最後は俺な。さっきも言ったが俺の名はラングール、猿の亜種だ」
二匹は頷き、続きを促す。
「俺ん家は鍛冶屋で、鉄なんかの素材でいろんな道具を作ってるんだ。だからか、昔からいろんな冒険家が遺物を持ち込んでは、鑑定を依頼して来る事があるんだ」
「つまりは、僕のお父さんも?」
「ああ。むしろ家に持ち込んだ数ならお前の親父がぶっちぎりだったと思うぜ。そしてその中の一つに、その剣があったんだ。その時俺の親父がその剣を調べたんだが、すげぇもんらしいぞ、それ」
「そうなのですか」
その時の鑑定結果によると、この剣は鉄とは異なる謎の金属で出来ていて、切れ味こそ普通だが、恐ろしく丈夫で軽いらしい。
同じ大きさの剣を鉄で作った場合、その重さは倍以上になるとか。
「おっと、話が逸れたな。それで俺が冒険家になった理由だが、昔から持ち込まれた遺物をずっと見ているうちに、こんな物を作ったニンゲンってのがどんな生き物だったのか興味が湧いたんだ」
「それなら、図書館に来て本を読むと良いんじゃないかな? 図書館にはニンゲンそのものに関する本もたくさんあるよ」
「やめてくれ、俺は文字が全く読めねぇんだ。昔ちょっとかじった事もあるが、ありゃ駄目だ。覚えられる気がしねぇ」
この時ネザーラはようやく、なぜラングールが図書館の話題を避けたかったのかを理解した。
「俺は頭で考えるより、体を動かす方が性に合ってるんだ。それに冒険家としていろんな遺跡を回ってりゃ、いつかニンゲンの生き残りなんてのにも出会えるんじゃ無いか、なんて思ってな」
「確かにそうかも知れないね」
「で。俺の得意分野だが、何と言っても道具の扱いだな。俺達猿の手は走るのには向いてないが、物は掴み易い構造をしてるからな。それもあって、木や崖を登るのも結構いけるぜ」
「それは羨ましいです」
全員の自己紹介が終わった辺りでキッシュ以外の二匹も食べ終え、やって来た店員が食器を片付けて行った。
「ところでキッシュ。お前、背中の剣は自分で振れるのか? 初めて見た時から気になってたんだが、まずそこから自力じゃ抜けねぇだろ、それ」
「はい。でも鞘ごと下ろせば問題ありませんし、両手でなら握って振れますよ」
「……そうか。お前がそれで良いならまぁいっか。それじゃ、互いに少しは知れた所で、そろそろ行こうぜ」
そう言うとラングールは立ち上がり、会計を済ませると外に出て行った。
「行くって、どこに?」
遅れを取った二匹は慌てて後を追う。
「遺跡だ。冒険家が仲間揃えて行く場所なんて、そこしかねぇだろ?」
急な展開に驚くばかりの二匹を引っ張りながら、ラングールは遺跡を目指し歩き始めた。