最高の愛称
魔王と魔族を家に連れて帰ったら、勝手に翌日から自分達の家のように暮らし始めていた。
そしてそのまま1週間が過ぎる。
最初は追い出そうか迷っていたが、実際コイツ等との生活は悪くなかった。
魔王は俺の研究や調合を手伝ってくれるし、かなり筋も良い。お陰でかなり捗っている。
ガイルは家の周りによく使う薬草や野菜の畑を作ってくれた。力仕事の他に植物などを育てるのが得意だったようだ。
ルルは料理と掃除が得意で、人間の俺でも美味いと思う料理を作ってくれる。
フィーは俺の知らない古代魔法や、魔族が使う魔法についてかなり詳しかった。魔法研究にもこれは生かす事が出来そうだ。
なので、なんだかんだ一緒に暮らすにあたって、俺にも利点があった。
そんなある日、みんなで昼食を食べながら俺は何気なしに魔王に名前を聞いてみた。
「そういえば、お前の名前は?」
「ん?僕の名前は・・・」
魔王が何か言いかけた所で、慌ててフィーが叫んだ。
「いけません!!!」
フィーの声に俺と魔王は驚くが、事情を聞いて納得する。
「実は・・・魔族にとって名前はとても大切なものなのです。私達、魔族は“本当の名”というものがあります。そして、その“本当の名”は誰にも知られてはいけません。勿論、同じ魔族に対してもです。」
「じゃ、お前らの名前も本当の名前じゃないってことか?」
「はい・・・。普段、私達は本来の名を隠し、愛称を名前として扱います。」
「愛称・・・アダ名か。」
「そッスね、俺らは本当の名前を知られたら“魂を縛られる”事になるッス」
「どういうことだ?」
ガイルの発言に俺は少し驚きながらも尋ねた。“魂を縛られる”なんて言葉からも相当に危険な気がする。
「んー、オレの本当の名前を知られた相手が例えばオレに『首を切って死ね』と言ったとするッス。そしたらオレはノータイムで自分の首を斬ってしまうッス。考える時間も余裕もないッスよ。」
とんでもないな・・・魔族が本当の名前を守りたがるわけだ・・・。
「私達は魔王様の魂から作られた存在ではありますが、代々の魔王様に仕えていた記憶は残っています・・・。本当の名を知られた者の末路も多く見てきました・・・。」
フィーの言葉にルルも悲しそうな顔をする。辛い記憶なのだろう。
「だからオレ達3人は、魔王様に絶対に名前を聞かないッス。愛称を聞いたとしても呼ばない事で魔王様をお守りするッス。」
「愛称なら大丈夫なんじゃないのか?」
俺の問いに気まずそうにフィーが口を開く。
「それが・・・今から800年程前の魔王様が本当の名前の大半を愛称として広く公表してしまい・・・そこから推測されて魂を縛られてしまった事件がありまして・・・」
「え、バカなのその魔王・・・」
魔王はかなり呆れた表情だ。
「オレが魂を縛られて死んでも魔王様は死なないッス。でも魔王様が死んだらオレ達も死ぬッス。」
ガイルは当たり前のように言い放ちながら旨そうに肉を食っている。
つまり、こいつらにとっては常識なのだろう。
(それなら俺も名前を聞かない方が良さそうだな)
そんな事を考えながらサラダを口に放り込んでいると、魔王が口を開いた。
「本名が連想できる名前じゃなきゃ良いんでしょ?だったらさ、兄ちゃんが僕の愛称を決めてよ。それなら本名はバレる事もないし、僕も名前を呼んでもらえる。僕は“魔王”なんて呼ばれるよりそっちの方が数倍嬉しいよ」
「ふぁ?俺が??」
サラダを吹き出してしまった。なんで俺が愛称を考えなきゃいけないんだ?!
それを聞いて手を顎に当てて少し考えた様子のフィーが
「・・・良いかもしれませんね」
と答える。ガイルとルルも“名案ですね!”みたいな顔をしている。まてまて。
「犬や猫じゃないんだぞ?なんで俺が気軽に魔王のあだ名を考える流れになってるんだよ?」
魔王は俺の前で両手を合わせて“お願い”ポーズをしている。本気かよ・・・。
(まぁ確かに役職名?で呼ばれ続けるのも嫌なのかもしれないよな・・・。ガイルも『村長』って俺らに呼ばれると不機嫌そうだったし・・・。)
俺は魔王を見つめながら腕を組んであだ名を考える。
「んー、じゃあ・・・シエル、でどうだ?」
“シエル”はなんとなく昔から好きな名前だった。理由はわからない。ただ、漠然と好きな名前だ。
それを伝えた途端、一瞬、見開いた魔王の大きな瞳から涙が流れる。そして涙を流しながらニッコリ笑って
「うん・・・最高に良い愛称だよ」
と、言ったのであった。
そんなに嬉しかったのか・・・気に入ったのなら何よりだ。




