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攻撃と輸血

 イルシャワの森で、魔王の誕生に遭遇してしまった上に、何故か魔王から兄ちゃん呼ばわりされている。


 前世では兄弟だったと魔王は言い張るが、俺にそんな記憶もあるわけもなく、まずそんな突拍子もない話は信じられない。


 人懐っこい笑顔を俺に向けながら俺について質問をしてくる魔王に俺はこう答えた。


 「俺の名前はアイクだ。勇者村からこの森に住む為に来た。俺の生活を邪魔する者は排除させてもらう。」


 「へぇ、今の名前はアイクって言うんだね!僕も兄ちゃんと一緒に住みたい!ねぇ、いいでしょ?」


 「いいわけあるか!」


 すると、慌てて1体の魔族が声をあげた。


 「ま、待って下さい魔王様!!勇者村の出身とおっしゃってましたよ!?つ、つまりお兄様は魔王様を倒す為に育てられた最悪なお方という事になります!」


 最悪なお方ってなんだ。


 「え?兄ちゃんが僕を殺すの?・・・うーん、確かに魔王って退治されるものだものね。うん、兄ちゃんが僕を殺したいなら僕はそれでいいよ」


 「なら殺してやるよ!」


 俺は手始めに持っていた剣に風の魔法を込めて魔力を乗せた斬撃を繰り出す。


 もちろん、こんなわかりやすい攻撃が当たるなんて思ってはいない。


 (角度から見て上に飛んで隙を作るような避け方はしないだろう。避けるなら右だ。その場所を目掛けて魔法を撃ち込んでやる!)


 ズバァァン!


 即座に次の魔法を構築し、無詠唱で撃ち込もうとした俺の手が止まる。


 魔王は俺の斬撃を受け、衝撃で後方に吹っ飛んでいた。


 「「「魔王さま!!!」」」


 慌てて魔族達が魔王の側に駆け寄る。奴等もまさか魔王が無抵抗で受けるとは思っていなかったのだろう。


 「よくも魔王さまに傷を負わせたな!!」


 1体の魔族の魔力が怒りで禍々しく揺れている。俺はそれに怯む事もなく、改めて剣を構えたが、


 「やめろ・・・兄ちゃんに手を・・・出す・・・な!」


 上半身だけ起こし、血だらけになりながらも魔王は叫んだ。その肩から腹にかけて深く大きな傷があり、血がどんどん溢れている。


 「魔王さま!早く魔力で傷を塞いで下さい!」


 2人の魔族は魔王の側から離れず回復魔法をかけているようだが、魔族でましてや魔王なら魔力操作ですぐに自らの傷を塞ぐ事くらい簡単に出来るはずだ。


 怒りに震えていた魔族も、魔王の声を聞いた途端ハッとして、悲しそうな目を魔王に向けた。


 「魔王さま・・・このまま死ぬおつもりですか?」


 「うん・・・そう・・・なるね・・・。兄ちゃんには・・・ぜったい・・・手を・・・だすな・・・」


 「わかりました・・・お兄様には手を出しません。そして最後までお側にいます・・・」


 魔族3体は悲しそうな顔で魔王を囲んでいる。どうやら魔王の意思を尊重する事に決めたようだ。

 どいつもこいつも隙だらけだ。


 「あり・・・がと・・・」


 (とりあえずコイツが俺のことを前世で兄だったと本気で勘違いしているのは確実なんだろうな)


 俺が今まで戦ってきた魔族は皆、俺に傷つけられると怒り狂う奴ばかりだった。

 どんなに小さな傷だとしても“人間なんかから傷を受ける事”はプライドが許さない。魔王ならなおさらだろう。

 どんなに巧みに騙そうと企んでいても、自分が傷つけられる事でその本性を露わにするはずだ。


 だが、こいつは一貫して無抵抗のままあっけなく死を選ぼうとしている。


 俺は魔王じっと見据えていると、そんな俺に魔王は微笑んで、そっと目を閉じ、また仰向けに倒れた。失血死するまで待つつもりなのか・・・。


 (はぁ・・・一体なんなんだよ)


 俺は魔王の側までスタスタと歩いて近寄り、膝をつき無詠唱で回復魔法をかけた。


 一瞬にして魔王の傷が全回復する。


 「「「え!?」」」


 魔族どもは目を見開いて驚きながら俺と魔王の傷を交互に見つめている。


 さっきまで魔族が詠唱していた魔法は従来の回復魔法だ。本人の回復能力を底上げする魔法で、本人が弱っていればいるほど効きが悪い。俺に言わせると粗悪魔法と言えた。


 俺が魔王にかけた回復魔法は俺のオリジナルで、術者の魔力を使って破れた血管や組織を再生し破損箇所を繋げて回復する。総魔力量が多めの俺だからこそ遠慮なく出来る魔法だ。


 「兄ちゃん・・・僕を殺さなくて・・いいの?」


 不安そうな顔で俺に尋ねてくる。


 傷は塞がっているが、大量に出血をしているので魔王の顔は青白い。


 「・・・俺に危害を加えないならな。」


 命を助けてしまった以上、こう答えるしかない。


 「うん・・・それはもちろんだよ・・・僕は兄ちゃんの役にたって・・・守れる存在になりたいんだ・・・それだけは信じて・・・」


 そう言い終わった途端、魔王は意識を失った。


 咄嗟に手が出て支えた魔王の体は冷えていた。大量に出血していたのだから当然か。


 「・・・おい、お前ら。腕を出せ」


 「「「えっ!?」」」


 急に俺から魔族どもに話しかけた事で動揺しているようだ。


 「今からコイツに輸血する。コイツと同じ血液の型が居ないか調べるから、早く目覚めさせたければさっさとしろ。」


 「「「は・・・はいッ!」」」


 俺は一時期、魔族の血液についても研究をしていた事があった。


 魔族の血液は大きく3種類に分類される。血液構成としてはは、ほぼ人間と同じだ。ただ、魔族の方が血中の魔力濃度がかなり濃い。


 人間でも型が合えば輸血は可能だが、一時期に魔力が極端に低下する。因みに魔族から人間への輸血は型が合ったとしても出来ない。膨大な魔力に人間の身体は耐えられないのだ。


 俺は魔王を支えていない方の手で土の上に小石で魔法陣を描き、手をかざして発動すると魔法陣の文字をなぞるように白く光った。次に乾いていない魔王の血をその中に垂らす。


 同じ要領で3体の魔族の血液も確認する。


 「あの・・・何をしているのですか?」


 恐る恐る尋ねてくる魔族に俺は片手で作業をしながら短く“検査だ”と答える。


 「よし、お前ら同じ型だな。血をコイツにもらうぞ」


 運良く3体とも同じ型だった。そして3体とも輸血という治療手段を知らないようなので、詳しく説明する。


 「「「そういう事でしたら幾らでも我らの血をお使い下さい!」」」


 と、言うので本気で遠慮なく死なない程度に使わせてもらった。

 

 お陰で魔王の顔色は大分良くなったようだ。まぁ代わりに魔族どもはグッタリと地面に臥している。


 かなり遠慮なく血を抜いたので、恨み言のひとつでも言われるかと思っていたのだが、


 「魔王様はこれで良くなりますか?・・・本当に良かった・・・」


 などと言っている。


 (本当に変わってる奴等だな・・・)


 そして地面に臥しながらも俺に頼み事をしてきた。


 「・・・どうか出来れば、魔王様が目を覚ますまで、そのまま抱えていていただけますか?魔王様にとっては、私どもより・・・アイク様に抱えて頂いた方が嬉しいはずなので・・・。」


 (まぁ、こいつにしてみたら俺は前世で大好きな兄貴ということになるんだよな・・・)


 「はぁ・・・わかったよ」


 俺はため息をついてから、小さな魔王を抱えて地面に座り直した。


 3人の魔族は心配そうに魔王の顔を見つめながら、側を離れようとしない。


 「魔族でも心配したり思いやったりするもんなんだな・・・」


 思わず俺は呟いていた。


 それを聞いて、髪の長い男の魔族は微笑む。


 「私たちは“特別”なのです。」


 「どういうことだ?」


 「私達3人は、魔王様の復活と共に魔王様から直接、命を与えられる者です。代々の魔王様に側近として仕える私達は、その時の魔王様から性質も性格も与えられるのです。魔王さまが死んでしまえば、この身体から魂も消えてなくなる存在・・・ですので、その時の魔王様が例えば人間を蹂躙して征服を望むようなお方なら、私達も魔王様の希望を叶えるべく攻撃的な性質と性格を持って生を受けます・・・ですがこのお方はそうではない。家族を愛する心をお持ちです。」


 (なるほど・・・だから今まで俺が戦ってきた魔族と違うのか・・・)


 俺はここまで感情豊かな魔族を見た事がなかった。黒い瞳、黒い髪、赤い目、ツノと真っ黒な羽根。見た目は人間と違うが、こいつらには好感が持てた。


 丁寧な話し方をする長髪の男の魔族の名前はフィーというらしい。よく話をすると、とても温厚な奴だった。


 もう1人の短髪でガッチリした体格の男の魔族はガイルと名乗って来た。

 こいつは話すうちに敬語が取れて、語尾に「〜ッス」と付けてくるようになった。こっちが素なのか。


 「さっきは怒りに任せて攻撃しようとしてすいませんッス・・・魔王さまが傷つけられたと思ったら、つい頭に血が昇ってしまったッス・・・」


 ガイルはしょんぼりしている。


 「いや、俺も悪かったよ」


 「じゃあ、なかったことにしましょうッス!」


 調子の良い奴だな・・・まぁいいか。


 「わたしの事はルルって呼んれ下さいれす!」


 女の魔族は俺にそう言ってきた。・・・が、なんだか見た目が変わっている。先ほどまで成人女性サイズだったのだが、今は幼女サイズだ。服もしっかり幼児サイズになっている。


 「初対面の相手にナメられないよぉに変身してたんれすよ〜」


 「あ・・・そうなんだ?」


 (と、いうことはこっちが本来の姿なのか?ガイルと同じで話し方も変わってるな・・・)


 ルルはまだチカラの入らない身体でプルプルとしながら立ち上がり、舌っ足らずな喋り方で「よろしくお願いしますれすぅ〜!」と頭を下げてきた。


 「あ・・・ああ、よろしく・・・」


 3人と会話をし、それなりに時間は経過したが魔王はまだ意識を取り戻していない。


 魔族の3人が魔物を警戒してくれてはいるが、そこまでしてここに留まる理由もなかった。


 「仕方ない、俺の家で魔王を休ませよう」


 俺は魔王を抱えたまま立ち上がった。


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