だうみ村
俺と妹はウナガミ達に乗せられ旅行へ出かけることになったのだった。
それから旅行に行くまでの間、妹は毎日俺の家に通っていた。何故別居しているかと言えば両親を幼いころなくしている為に、住所が近い父方のおじさんとおばさんに預けられたというわけである。俺一人では妹の学費の面倒までみることは厳しい。
離れて暮らしているうちに、妹が巫女になって不思議パワーで霊の除霊をしている・・・らしい。
なんだそれ。
月に一度、何故かやって必ずやってくると思っていたが、俺に悪い霊が憑かないよう監視していたようだ。要は俺の為に巫女になったらしい。嬉しい話(?)だが巫女ってそんな感じのアレだっけ・・・一般人からしてみるとただのコスプレ中学生だ。やめてほしい。教育によくないと思う。今度おじさんとおばさんに聞いてみよう。
家に来るたび妹は、ウナガミ達と喧嘩していたようだが、最近は一人を『ウナちゃん』、もう一人にリボンをつけ『カミちゃん』と呼んでいる。
だって、わかりにくいんだもん――――ユイ(妹)
なんだかんだ仲良くしているようである。
一方のウナガミ達も満更でもない様子であったので俺も同じくそう呼んでいる。
ウナとカミの善悪についてと出自については結局のところ、旅行当日となった今日もわからないままだ。ただ、俺に害をもたらすのであれば機会は十分にあったはず。俺に異常はない。あるのは仕事疲れだけだ。最近やけに目が痛いので液晶ディスプレイをみるのを控えたいが仕事柄そうも言ってられない。だから今回の温泉旅行は本当に嬉しかった。はじめての有給に温泉で疲れを癒すんだ。温泉旅館へ向かうバスの中で俺は年甲斐もなくワクワクが止まらなかった。
「お兄ちゃん!ウナちゃんとカミちゃんがずるしてる!」
「違うんですご主人様ぁ!勝手にご利益パワーが溢れてババを引けないんです」「そうなんです!」
やはりトランプか。
「俺も混ざるとするか。たとえご利益パワーと言えども俺のポーカーフェイスと華麗なるプレイスキルについてこれるか?」
ババ抜きとは一見すると運だけのゲームだ。それは、大きな間違いだ。トランプの枚数は52枚、ババを入れて53枚だ。まずは全員が残した手札の数から読みあいが発生する。これは手札が偶数か奇数かで取るべき作戦が変わるからである。まずは引く順番争奪――――。
「ユイちゃん、ご主人様・・・すいません。揃っちゃいました。上がりです」「さすが私」
はい。ババ抜きは運ゲーです。
俺が罰ゲームのワサビーム焼きそばを食っているところでバスの運転手が目的地の名を告げた。
「次は『だうみ村』旅館前~『だうみ村』旅館前~お降りのかたはお知らせください」
「ついたな、ところで『だうみ村』って?検索してもあんまり出てこなかったんだけど、どんなところなの?」
俺はバスから全員の荷を降ろしてから近くにいたカミに尋ねた。
「はい。なんでも江戸前期より資料が残る歴史ある村らしいのです」続けてウナが答える「一度、火山の噴火で埋まって」
「噴火によりできたくぼみに湖と温泉が出たらしく」
「生き延びた人々が」
「再び村を起こした」
「また、その湖の神さまが火山からその人達を逃がした~とか、復興を手伝ったとか」
「いろいろ伝説が伝承される神気溢れる地なのですよ!」
ウナとカミが交互に教えてくれた。
「それだけいい神様の元なら悪い霊もよってこないだろうし、お兄ちゃんもゆっくり休めるね!」
「そうだな」と返したが、俺はそんなに憑かれやすいのだろうか?今までも知らないところで妹が守ってくれていたようだし、気づかなかっただけだろうか?現に自称神様に憑かれているのでなんともいえないのだが。
考え事をしながら俺はウナ達に続いて、旅館へ入っていった。まず目に入ったのは大きな龍が描かれた絵だ。
「これが湖の神様?」
「うーん、どうでしょうね?ご主人様?」
「これは泉から我らの先祖を守ってくれた神様のお姿を捉えたものと今日まで伝わっておりますじゃ」
急に後ろから聞こえた声にみんなで驚いた。
「失礼いたしました。ワシはこの旅館のオーナーです。さぁ客室にご案内いたしますので・・・」
「あれ?まだチケット見せてないのにどうしてわかったんですか?」
「実はこの旅館のお客様第一号があなた方なのです。」旅館のオーナーを名乗るおばさんは照れながら小さい声で言った。なんでも、町おこしの一環として観光業をはじめることにしたのだが、広告費を捻出できなかったのでアイス会社の社長の厚意により、懸賞での宣伝と懸賞に当たった人間の口コミを頼りに旅館をはじめたのだとか。
「大丈夫なんですか?」と妹が口走ってしまった。
「バカ!失礼だろ」
「ええんです。そう思うのも無理はありません。ですが、村の伝統と自然。食には自信がありますので3日間じっくり体験していってください。話しているウチに着きましたね。どうぞこちらの部屋です」
部屋には旅館の入り口にあったものと同じ龍の絵が飾られている以外は普通の和風旅館って感じだった。
「ワタシこういうの大好きなんです」カミがテーブルにあるお菓子に飛びついた。
「これなんですか?」妹も頬張りながら聞いた。
「村はずれの川で獲れる鰻を開いて乾燥させ、和菓子の生地と餡子を合わせたものですじゃ」
共食いじゃん。
「ん?待てよ・・・。ウナギが獲れるんですね?ってことは晩御飯にうな重とか出たりしますかね!?」
「ご期待に応えたいのはやまやまなのですが、川までかなりの距離がありまして・・・村おこしに使いたいとは思ってるんですが・・・やはりコストの関係で・・・」
ないらしい・・・。残念だ。やはり俺のウナギ欲を満たすのは・・・店長・・・あんただけだぜ。
「でも、湖と川繋がってますよね?ウナギいないんですか?」ウナが部屋の壁に掛けてあった地図を指さして指摘する。
「湖はカルデラなんですじゃ。川の主な水源は山頂の方。ですがこのカルデラ湖は地熱で温められた地下水と川の水がまざって温度が高いです」
その為に魚はあまりいないようだ。
「水質はピカイチです。飲料水としては最高のものですじゃ。そちらもどうぞ見学していってくだされ」
「そうだなぁ、夕食までの時間もあるし、見学に行こういかな?」
「はい、ご主人様!」「我らお供しますよ!」
「お兄ちゃんいってらっしゃーい」と手を振って妹だけは動こうとしなかった。
「いいのか?監視しなくて」
「だって・・・いいの!移動で疲れたから寝るね!」
旅行までの間で、仲良くしてたみたいだし、友人を監視するのはあまりいい気分ではないだろう。ここはウナとカミ、俺の3人で探検に繰り出すとしよう。