襲来
「いいんですか?」「追いかけなくて」
ウナガミ達が俺に追いかけるよう促してくる。
「いいんだよ・・・」
俺が言い終わるよりはやくドアが開き妹が叫んだ。
「よくないよ!」
続けて妹は捲し立てる。
「なんでいつもテキトーなの?そんなんだからいつまでも転職の決断ができないんでしょ!しかも!ワタシより小さい女の子連れ込んで!!しかもしかも!!双子!?両方!?ありえないよお兄ちゃん!サイテー!!お母さんとお父さん天国で泣いてるよ!!」
違うんだ!妹よ!!俺に喋る隙を与えてくれ!神様!!妹様!!
「その願い・・・!聞き届けました!」
捲し立てる妹よりも上回る声量でウナガミ達は叫んだ!
「我らウナギが神の2柱にて!ここに参る!音に聞いては目にも見よ!!」
「うっせーぞ!何時だと思ってんだ!」近隣から苦情が聞こえる。そりゃそうだ。
落ち着いたところで俺は妹に用事を聞くことにする。21時とは言え中学生が制服で出歩く時間ではないからな。
「なにしに来たって?それよりこの子達誰なの?お兄ちゃんまさか・・・」
「そうなんです。およよ。この人が今日からご主人様だって勝手に私達を買ったんです」
ややこしくなるから黙っててくれウナガミ!
「違うんだ!そう!居候なんだ!」俺にだって苦しい言い訳だってわかっている!頼むからお兄ちゃんを蔑む目でみないでくれ!ああ、妹よ!!
「いえ、神ですよ」
ウナガミが真剣な面持ちで答えた。
「そんなの、信じるわけ――」俺はそう思ったが妹は、ふーん。と、何処か納得したような様子だった。
「お兄ちゃん、昔から幽霊とかに好かれてたもんね」
「ユイ、お前・・・覚えてたのか」
「まぁまぁお話しはいろいろあるでしょうけど、玄関だとまた騒がしくして怒られちゃいますし、中へどうぞ」
ウナガミが妹のユイを中へ招きいれる。さも自分の家のようにしとるけども。
神様の導きで俺、ウナガミ1、ウナガミ2、妹の4人が1Kの一間にぎゅうぎゅうに詰まっていた。家族で食卓を囲むというのはこんな感じだったろうか?
最初に静寂を破ったのは妹のユイだった。
「神様はどうしてお兄ちゃんに憑いてるんですか?」
もっともな質問だ。というか俺も知りたい。まともな答えが返ってくるとは思わなかったが、やはりと言うべきかはぐらかす様に話はじめた。
「いやぁ、なんといいますか?偶然?」
妹は不服そうに追撃の手を緩めなかった。
「率直にいいます。離れてもらえませんか?」
俺と神2柱はチラッと目を合わせ、すぐに視線をそらした。
「お兄ちゃん、以前にも幽霊に憑かれてたことがあって・・・その時も自分の体力を分けちゃったりして大変だったんです」
ウナガミ達は申し訳なさそうに話しだす。
「あー・・・。離れられないんです。率直に言いますと」
「どうして!神様なんて憑いてたらお兄ちゃん!また、普通の生活できない!!今だってすっごい疲れてるし、何か関係あるんじゃないですか!」
「先ほど申しましたが、買われてしまったのです。それはもうホントに偶然だったのですが、契約です。私も神として一度受けた契約は破れません」
契約なんてしただろうか?俺が不思議そうにしているとウナガミが答えてくれた。それに疲れは残業疲れだ・・・と思う。
「願っていたでしょう?ウナギを食べる時に」ウナガミは指を振りながらニコニコしている。
そうだったか?そうだったかもしれない。
「いま!お兄ちゃんになんかしたでしょ!!」
「あらあら~?」
ウナガミはニコニコしている。
妹が寄って来て耳打ちする。「この人達、神様じゃないよ。気を付けて」俺は「まさか」と相手にはしなかった。
「それよりユイさんはどうしてこちらへ?」
「話そらさないで!アンタ達は何!正直に言わないなら――」
妹はいつの間にか立ち上がっていた。というか浮いていた。Airァアアア!?ナンデ!?
「ただの小娘と思って油断したみたいね!成仏させてあげるからっ!」
制服姿の妹は一瞬で消え去り、巫女さんっぽい女性がそこにいた。どうみても妹だった。
「びっくりです。でも、巫女さんなら私の神気を感じて頂けるのではないですか?」
「感じるわよ!ピリピリくる・・・こんな悪霊はじめて――――」
俺も黙ってはいられなかった。
「ちょ、ちょっ待てよ!なんだよ巫女って――」
「お兄ちゃんどいて!そいつ殺せない!!」
どこで覚えてきたの!そんなセリフ!!
「神だってんなら今すぐ奇跡の一つでも起こしてみなさいってんのよぉおお!」
「その願い。聞き届けましたっ!」
ウナガミが指をたてながらニコニコしているとインターホンが鳴り、全員の動きを止めた。
「宅配でーす」と、玄関から声が聞こえる。
「ほら!出ませんと!」
ウナガミがせかす。
「罠じゃないでしょうね?」巫女・・・妹は疑いながらも外へ様子を確認しにいった。その恰好で出るのか・・・。
荷を受け取ったらしい妹がドタバタ戻ってきた。
「お兄ちゃん!お兄ちゃん!すごっすごいコレ!みて!」
妹が俺の顔に近づけてきた封筒には「特賞!超当選!!ばりばり君家族旅行企画!家族全員『だうみ村』温泉旅館ご招待券同封」と書かれていた。
「そういえば、そんなアイスの懸賞に応募してたような気がする」
俺の言葉に妹は八ッ――――と我に返る。
「こ、こんなの偶然だってあり得るし・・・」
「まぁまぁ、私の奇跡かどうかはともかく。こんな素晴らしいものが当たったんですし、みんなで旅行に
でも生きましょうよ!」
二人目のウナガミも「妙案ですね!行きましょう!」と自演をしている。
「なんでアンタ達もついてくんのよ」
「そう言うなよ。それに旅行中一緒にいて監視してくれればいいだろ?」
妹はまだ不機嫌そうだったが、俺の心は決まっていた。いいじゃないか!温泉、有給消化、美味しいごはん!最高だ。
「ご主人さすがです!旅行もできて、私の無実も証明できて一石二鳥ってわけですね!」「流石です!」
「よっしゃ!来月は旅行だー!!」