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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第3章 ~王都炎上、決意のハインリヒ編~
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039 実戦競技・決勝戦~VS.マチュア~


「無理無理無理無理ぃぃいいいい――ッ!!?」



身を捩り、文字通り泣き叫びながら出場を拒否するマチュア。



「行けぇ!! 行かねぇとぶっ殺すッ!!!」


「――いやよ!! いやぁッ!! いやぁッ!!!」


「見ろ! あの野郎のあの様子ッ!!」



ニコニコと微笑みながら「ハハッ」と笑って手を振るハインリヒ。



「完全に舐めているな……アレは……美しい、のか?」


「此処までやられて、黙って引き下がれるかってんだッ!!」


「ひ、ひぃぃ……ッ! でも、でもぉ……!!」


「でも、じゃねぇッ!!」


「これは……出るしかねぇんじゃねぇか……マチュア?」



恐る恐るといった体で、愚図るマチュアへと声を掛けるアーサー。



「だったらアンタが出てよッ!! アンタ、ハインリヒの事気に入んないとか言ってたじゃない!」


「――ばッ!? い、今は別に……そんな事ねーしぃッ!?」


「はぁ!? 相手が自分より強いと分かったらへーこらしやがってッ!! そんなんだからアンタはモテないのよッ!!」


「んぐッ!」



痛い所を突かれたとばかりに、胸を抑えて白目を剥くアーサー。



「登録した選手の途中交代は出来ない……それが出来るならば、私が代わりに出ている……分かっているな、マチュア君……」


「き、キルツ君……」


「これが最後だ――出ろ」


「……」



二人の男に強要され、悲壮感を漂わせながら舞台へと上がるマチュア。憐みの視線はアーサー、ゲインズの両名からだったが、そんなものを送られても彼女には何の足しにもならない。


そうして石舞台の上で対面を果たす、ハインリヒとマチュア。


試合開始の合図の前に、じろじろとマチュアの姿を観察していたハインリヒが、怯える彼女へと声を掛ける。



「……マチュア=キュベレイとか言ったか、お前」


「!?」


「サンクトでルディンをボコした内の一人だな? こうして相対するのは初めてだが……ふぅん? 成程……」


「あ、あの……私、その……」



何かを口にしようとするも、上手い言い訳が思い付かない。


ガチガチと震えながら「あの、その」と、埒も明かない言葉を呟いてしまうマチュア。



「……そこまで怯えられてもな」



彼女の様子を見て、心外だと愚痴を零すハインリヒ。


彼は対面するマチュアを落ち着かせるよう、ゆっくりと彼女に近付き、耳元で優しく囁いた。



「あー大丈夫。分かってるさ。全て上で踏ん反り返っているあの教皇が悪いんだろう? お前は命じられただけ――違うか?」


「――ッ! ……!!」



ぶんぶんと。首がもげる様な勢いで縦に振るうマチュア。

それを見て、ハインリヒの口からは安堵の呼気が漏れる。



――あれ? もしかして私――助かる?



それはマチュア=キュベレイの胸に浮かんだ密かな期待であった。


まだ……まだ安心してはいけない。


裏切られた時に、どれだけのショックが返ってくるか分からない。だから慎重に。慎重に見極めなければいけない。


己にそう言い聞かせながらも、見せられた小さな希望は、マチュアの中で急速に肥大化していく。



「こう見えて俺は女子供には優しいんだ。だからそう怯えるな。試合だって、俺なりには手加減してやるさ」



顎を持ち上げ、俯いたマチュアの顔を表に上げさせ、小さな子供へと言い聞かせる様にハインリヒは優しく呟いた。


不安と恐怖で一杯であったマチュアにとって、彼の言葉は何処までも甘く、優しく……



「――ま、借りは返してもらうがな……」



観覧席に座るプライスマーを見詰めながら呟いた彼の言葉など、彼女には届いてはいなかった。







『両者――試合、開始!!』



審判の声と共に、第三試合が開始されてしまう。


聖女神杯。恐らくはこれが最後の試合だ。


キルツやディンハルトには申し訳ないが、此処は体力を温存させてもらう。故に、面倒そうな奴等とは戦わない。


例え後で恨まれようとも、俺にとっての最優先は邪神戦に変わりはない。あっちは生き死にが関わってくるのだから、当然だろう。



さて――そうすると、この試合はどうするべきか。



対戦相手であるマチュア=キュベレイの実力は未知数。

まぁ多分俺よりは弱いのだろうが、何処までやったもんだろうか?


試合前、彼女に言った言葉は嘘ではない。


ルディンをボコした事。

関係のない生徒を殺した事。


随分と好き勝手な事をしてくれた女だという事は分かっているが、格下を嬲る趣味は俺には無い。


第三者が見れば甘いとも思われるかもしれないが、これが俺だ。


納得できない者がいるならば、そいつが代わりにやってくれ。


大体、部下の暴走は上司の責任だろう?

俺としては教皇――プライスマーとかいうオヤジの方が嫌いだ。


……話が逸れたが、様は加減具合が分からないという事だ。


相手は一応、七聖剣の一人だからな。

余りに適当過ぎる攻撃を仕掛けて、反撃されても面白くない。



「ま、いっか……」



何やかんかやと考えてみたものの、正解は見付からない。


取り合えず――殴るか。


死ななきゃ、回復も出来るしな。



大雑把な答えを己の中に見出した俺は、舞台上にありながら、未だ怯えを隠せないマチュアへと微笑を浮かべ――



――瞬間。俺は体内に宿る【気】を活性化させた。



「――ッ!!!?」



あぁ、驚いてる驚いてる。


第二試合の焼き直しの様な試合展開になってしまうが――許せよ。


これが一番楽なんだ。



驚愕に見開いた瞳が瞬きするよりも速く、マチュア=キュベレイの眼前へと現れた俺は、その拳を彼女の顔面へと振り抜いた。



「っこひゅ――」



頬から入った拳の衝撃が顔の全面へと行き渡り、飛んでいく首に繋がれた身体が足の爪先から宙を舞い、舞台外へと高速で吹っ飛んでいく。


口元から零れた音は言葉にはならず、重力を無視する様に飛び上がった身体は一直線に会場上部の観覧席近くの壁へと突き刺さる。


大砲でも直撃した様な粉塵と衝撃。


何が起こったのか? それを瞬時に把握できた者は少ない。


気が付けばハインリヒが動いており、

気が付けばマチュアが消え、

気が付けば壁から轟音が上がっていた……。


一般人の認識とやらは大凡そんな感じだろう。



――いやー、つまんねぇ試合だわ。



観覧席の粉塵が晴れると、そこには目に見えて狼狽しながら、怯えた瞳で此方を見詰めるプライスマーの姿があった。



『だ、第三試合……しょ、勝者は……』



試合状況を理解した審判が、遅れながら声を出す。


会場の様子は、混迷。


派手にやり過ぎた所為かな……? だが――



「借りは、返せた」



『勝者は――ハインリヒ=セイファートッ!!』



「――当然!!」



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