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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第3章 ~王都炎上、決意のハインリヒ編~
93/185

038 実戦競技・決勝戦~VS.???〜

長くなったので分割します。


「おい、ゲインズ! 生きてるか、おい! おい!!」


「ぐ……」


「あ、起きたわよ」


「見事にやられたな、お前」


「……面目、ない」



倒れたゲインズを見下ろしながら、溜息を吐く七聖剣の面々。


ディンハルトに言われるまま、ゲインズを叩き起こしたアーサーであったが、続く彼からの怒りの予感に知らず冷や汗を垂れ流す。


とばっちりを受けぬ様に、その場から後退りをするマチュアを恨めしく見詰めながら、アーサーはディンハルトの出方を待つ。


が――



「……ありゃぁ、相手が悪かった」



返ってきたのは、意外にも冷静な一言。


目を丸くしてディンハルトを見詰めるアーサーとマチュア。彼等の視線の意味には気付いていたが、それには構わず、ディンハルトは先程の試合を回想する。



――速さだけなら、俺をも越えていたかもな。



「刃が潰れていて良かったな。ゲインズ。――お前、死んでたぞ?」


「……不覚は、美しくない」



ギリッと。歯を噛み締め、悔しさを露わにするゲインズ。



「ともあれ、二敗は痛い……」



今まで黙していたキルツが、横から声を上げる。


ハインリヒとの戦いに入れ込み、教団組に関心を失った様子の彼だったが、流石にこの状況に危機感を覚えたのだろう。



「正直、この展開は予想していませんでした」


『……』



静かに責める様なキルツの言葉に、七聖剣の面々は押し黙る。


ディンハルトとて、私情に走り過ぎる今のキルツには言いたい事は沢山あった。だが、第一試合で勝手に降参した手前、ソレを口にするのは憚れる。



「教団組が先制して二勝。そこから調整することはあれど、逆に敗北するとは考えてもいませんでしたね……」


「……調整?」



キルツの呟きに、疑問を口にしながら周囲を見るアーサー。

勘付いたのは、マチュアとディンハルトの二人だ。



「ねぇ、キルツ君……もしかして――」


「――俺達が先に二勝していたら、金章組に負けてやるつもりだったのか? ハインリヒと戦う為に……?」


「……」


ディンハルトの言葉に、キルツは答えない。


その無言が、何よりの答えだった。



「おい!!」



堪らず、キルツの胸倉を掴むディンハルト。


キルツがハインリヒとの試合に並々ならぬ想いを抱いているのは知っている。


知っているが、それでもコレは団体戦だ。


教団組という枠組みの中の代表として彼等は此処に立っている。多かれ少なかれ私情を挟んでいたディンハルトでも、キルツのこの考えは許容出来なかった。



「――離せよ、ディンハルト」


「て、テメエッ!!」



あくまでも冷静に、見下ろしながら言うキルツに、さしものディンハルトも怒りを押し殺せない。



「ちょ、おい! 仲間割れとか!?」


「や、やめなさいよ! 二人共!」


「喧嘩は、美しくない……」



アーサー、マチュア、ゲインズの三人も、これには慌てて仲裁に入る。金章組との試合の最中。しかも、プライスマ―教皇の見ている前で、これ以上の無様を晒す訳にはいかなかった。



「いいぞー。もっとやれ、もっとやれー」



『……へ?』



能天気に喧嘩を囃し立てる声により、彼等の動きは一同止まる。



「馬鹿、な……」



愕然とした呟きは、キルツ=レヴァノフのもの。


見知った声の主。それだけならば、まだ良い。まだ許せる。

混乱を加速させるのは、彼の立つその場所にある。



「何で、テメエが……舞台の上にッ!?」


「ん?」



白銀の髪のハインリヒ=セイファート。


石舞台の上にしゃがみながら、眼下の七聖剣を見下ろし、彼は薄く笑って平然と求める答えを口にする。




「だって、次の試合――俺の番だし」




『――ッ!!!』



顎が外れるかと思う程に、口を広げて驚愕する七聖剣達。


ああ。


ああ、ああ――やられた。


最初からそうだったのだ。


ハインリヒは真面目に勝負する気など更々なかった。



ストレート三勝勝ち。



これだけを狙っていたのだろう。


ディンハルトは当然として、キルツ=レヴァノフと試合う気など最初から無かった。だというのに――親友。さらに仲間とすら仲違いを起こし、ハインリヒと戦う為に勝利の調整すら視野に入れていたキルツの心中たるや、想像に難しくは無いだろう。


ハインリヒの魂胆を全て理解した時、キルツは何を思う?



答えは――無だ。



「……道化か、俺は」


『……』



大きく息を吸い、吐き出しながらの小さな小さな呟きは、七聖剣全員の耳に入ったが、誰も何も口に出来なかった。



落胆と、失望。



眼を思いきり瞑り、こみ上げるものを押し止めたキルツは、自身の胸の内にどうしようもなく熱くドロドロとしたものが噴き出してくるのを感じた。



「ハインリヒィ……」


「はい?」


「ハインリヒ、ハインリヒ、ハインリヒ、ハインリヒィ……ッ!」


「……そう連呼しなくとも」



余裕綽々のあの態度が許せない。


自身の怒りが想像出来ない程、鈍くは無いだろうとキルツは確信している。この試合に対する意気込みは既に伝えた。それら全てを分かった上で、ハインリヒは自身の気持ちを踏み躙ったのだ。



「……絶対に許さん」



冷静沈着。理知的な生徒として通ってきたキルツ=レヴァノフの熱い怒り。それは、相棒である隣の男にも伝播する。



「ふ、ふふふ。ふははははは!」



辛抱堪らずとばかりに笑い声を上げるディンハルト。喜びでも楽しみでもない。彼は、怒りの激情でもって笑っていた。


チラリと、キルツへと視線をやるディンハルト。



「――はは。はははははははは!!」



感情は伝わる。笑いは伝染する。



「うわ、こっわ」



彼等の様子を眺めながら、若干引き気味に正直な感想を口にするハインリヒ。



「どうでも良いが、早く次の対戦相手は上がって来てくれないか? もう名前も発表されただろ?」


「対戦――」


「――相手?」



ぐるりと。


ディンハルトとキルツの両名は、血走った眼で第三試合の出場を予定していた者へと振り返る。



「――へ?」



キョトンとした顔で、顔を引き攣らせる少女。



――第三試合。



『ハインリヒ=セイファート対、マチュア=キュベレイ』



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