034 全クラス対抗≪実戦競技≫開始
食事から戻ってくると、会場には五つの石舞台が設置されていた。
周囲四つの舞台でそれぞれ一回戦を行い、二回戦以降を中央の舞台で行うらしい。
つまり、一回戦は予選の様なものなのだろう。
全学年・全クラスの総数は――28クラス。
優勝するには四、五回は勝たなければいけない計算だ。
「で、組み合わせはどうだ?」
金章組の連中が集まる輪へと入り、俺はその中央へと声を掛ける。
「遅かったな、ハインリヒ」
「食堂で足止めを食らってな。これでも急いだ方だ」
「足止めって、何かあったの?」
「まぁ、その話は追々。それよりもトーナメント表だ」
「……はい、どうぞ」
「ん」
俺はアルマナから手渡された、羊皮紙に視線を落とす。
「一回戦は例年通り金章組はシードさ。二回戦は3-4と4-6、どちらか勝ち残った方とやるみたいだな」
「3-4と4-6……?」
「四組以降の数字は銅章組だ。いい加減覚えろ」
「つまり余裕って事だろ? 覚える必要性は感じないな……ん?」
「どうした?」
「四年の教団組がシードになってる」
「何?」
「ほら、ここ」
周りの奴等にも見えるよう、俺はトーナメント表の教団組の部分を指で指し示してやる。
「ほう」
「どれどれ……」
「ちょっと、きついっ!」
ぐいっと隣に近付いてきたクロードを起点に、アルマナが懐に入り、押す様にガルシア、クルス、ルディンが近寄ってくる。
こ、こいつらぁ……。
クロードに至っては腕に胸が当たってしまっている。
サラシを巻いていても、元の大きさは隠せないという事か?
いかん。平常心平常心。
前にいるアルマナにだけはバレない様にしなければ。
てか、こいつも結構密着してるんだよなぁ。
「……とりあえず、全員一旦離れろ! これじゃ話も出来んわ!」
『は~い』
渋々と言った体で、皆は俺から距離を空ける。
なんつーか……仲良くなったよな、本当。
「例年通りなら四つのシード枠は金章組が独占していた様だが、今回は1-1……金章組の一年が一般枠に収まっている」
実力的に言えばむしろこれが当然の様な気もするが、王国と教会というのは政治的な要因も絡んでくるので一言には片付けられない。
「教会側の勢力が強まってきている……?」
「……プライスマーか」
歯噛みをしながら、クロードは教皇の名を口にする。
思い出されるのは、宿泊学習に起こった七聖剣による事件。
あれも結局、学院側は何も対処できなかった。
証拠が無いというのも理由の一つだが、要因としてまず、教団の力が増しているという事実が大きいのだろう。
「奴等とやるのは決勝戦か」
「うん。綺麗に俺達の反対側だね。……狙ったと思う?」
「当然! 奴等ならやりそうな事だ!」
「その上で勝つ。そうでしょう?」
「サンクトでの借りは、この剣で返させて貰う」
「僕も――言いなりじゃないって所を見せてやるさ」
釣られる様に、周囲も「俺も!」「私も!」と、声を上げて戦意を滾らせる。どうやら、戦いに向けての士気は十分な様だ。
まもなく、実戦競技の開会式が始まる。
学園生活、最後の祭り――か。
沸き立つ生徒達を眺めながら、俺は空へと視線をやる。
未だ、マナの感知に異常なし。
邪神アルバルヴァ。
今日ほど、杞憂であってくれと祈った事は無かった。
◆
先鋒――ルディン=シュトラウス。
次鋒――クルス=オーグメント。
中堅――ガルシア=ディ=リアネス。
四年金章組が誇る前衛の壁は厚い。
全クラスの一回戦が終了した後、中央の舞台へと移った俺達は、勝ち上がってきた3-4の銅章クラスを相手に完勝。
続く三回戦では3-2の銀章クラスが相手だったのだが、此方も代表メンバーを変える事無く三勝、ストレート勝ちをする。
同ブロックに残っているのは、
・3-Eの教団組。
・1-2の銀章組。
・2-1の金章組。
この三クラスである。
「反対のブロックは……酷いなコレは」
「どうした、ハインリヒ?」
「見ろ」
此方に反応してきたクロードに、トーナメント表を見せる。
反対のブロックで生き残っているクラスは四つである。
・3-1の金章組。
・2-Eの教団組。
・1-Eの教団組。
・4-Eの教団組。
「これは……偏りが酷いな」
「対戦相手が殆ど味方だからな。八百長のし易い環境だよ」
眉を顰めながら、表へと視線を落とすクロード。
流石に、作為的なものを感じざるを得ないな。
俺は食堂であった二人の七聖剣の様子を思い出す。
暑苦しくはあったが、進んで不正をしようと思う輩とは思えない。
なら、仕組んだのは彼等の上だろう。
「奴等、万全な状態で上までくるかもな」
「……僕達は、勝てるだろうか?」
「一応、手は考えているさ」
「! 本当か、ハインリヒ!?」
此方を信頼し切った様なクロードの姿を眺めつつ、俺は少し申し訳ないと思いながらも、自身の≪策≫を彼女に明かした。
◆
『――勝者、アーサー=フィレモント!』
「っしゃ!! 余裕ッ!!」
石舞台の上で調子に乗って小躍りするアーサーの姿を見詰めながら、ディンハルトは腕を組み、浮かんだ疑念に思考を巡らす。
――相手が弱すぎる。
同じ教団組とは言え、四年生でなければこんなものか?
これなら、二回戦で当たった三年の銅章組の方がまだ歯応えがあったんじゃねぇのか?
……不愉快なのは、それだけじゃない。
教団組と当たる際にのみ変更された、代表メンバーの選出順。
自身は副将に配置されたが、それも気に入らない。
決勝に備えて体力を温存するという事は分かるが、あの程度の輩が相手ならば俺が疲弊するのは有り得ない。
むしろ、ハインリヒと当たる前に戦闘を繰り返し、己の身体を暖気したかったので、水を差された気分である。
・先鋒――マチュア=キュベレイ。
・次鋒――ゲインズ=ベパルス。
・中堅――アーサー=フィレモント。
そも、あの三人が固まって選出されたのも気に入らない。
自身が窺い知れぬ思惑が動いている様な感じがして、不快なのだ。
「不機嫌そうだな、ディン」
「キルツ……」
「十中八九、アレは何かやっているな」
「教皇の野郎の差し金か?」
「提案してきたのはマチュア君だったが、彼女の性格から選出順に意見をするのは違和感がある。恐らく上から言わされたのだろう」
「……分からねえな。そこまで分かって、何故言いなりになる?」
不愉快じゃねぇのかと、言外に己の相棒へと問い掛ける。
言葉を受けたキルツは薄く笑い、何てことない様に返答する。
「利害の一致だよ。少なくとも彼等は、私達を決勝に行かせる気がある様だ。ならば、私はそれに乗る」
「ハインリヒを、倒す為?」
答えは無かった。ただ、キルツ=レヴァノフは前を見る。
ハインリヒと戦いたいのは俺も一緒だ。
奴をぶっ倒したい。
ただ――キルツの場合はそれ以上に余裕が無いように思える。
これもまた、兄弟の関係に由来するものなのだろう。
……ガフの奴が此処に居れば、また話は変わったのかな?
益体もない事を考えながら、俺は一人溜息を吐くのだった。




