033 プログラムは進行中
聖女神杯とは――複数の競技からなる、クラス対抗戦である。
そこには学年の境は無い。
より良い成績を残した者が一位となり勝利する。
クラス成績の他には、個人の成績も発表され順位付けされる。
リアネス王族が重視するのは此処だ。
また、一般生もクラス成績が悪くとも、個人成績が良ければその分は外部に評価される。後の仕官にも繋がる部分である為、皆が必死となって競技に取り組むのである。
とはいえ――俺にとっての本番はその先だ。
クラスの連中には悪いが、此処は適当に流させて貰おう……。
そう思って、競技に参加しているのだが――
「弓術一位、ハインリヒ=セイファート!!」
『うおおおおおおおおお――ッ!!!』
「なんでやねん」
自身の天才さが恨めしい。
適当に手を抜いて参加しているのに、つい一位を取ってしまう。
「す、凄いよハイン君ッ!」
「貴様これで一位は何度目だ!? 段々俺は呆れてきたぞ……」
取りたくて取ってる訳じゃないんだけどな。
不甲斐ないこいつらが悪い。
ヨイショするルディンと、目を細めて呆れるクルス。
だが、俺は知ってるぞ?
「お前らだって成績は良いだろうが。クルスは体術二位。ルディンは馬術で二位を取ってるのを知ってるぞ?」
「ああ。そして全部お前に一位を取られたな」
「まさか馬術まで出来るなんてねぇ」
「うっ!」
いかん、どうやらヤブヘビだったらしい。
「まぁいい。実戦競技で共に戦えるのを楽しみにしているぞ」
「実戦競技? ……ああ、そう言えば、そんなのあったな」
「聖女神杯の一番の花なんだけどなぁ……」
「ルディン。こいつにそんな事は通用せん。今の所は貴様のおかげでクラス成績でも一位を独走しているが、実戦競技での成績如何では、それもひっくり返される恐れがある」
「教団組か?」
「ああ。連中、やはり手強い」
「各競技一位はハイン君。二位は殆どが七聖剣。この順位は変わらないけれど、上位以下の争いでは僕らは平均的に負けているからね」
「……アルマナ達はどんな感じだ?」
「王位争いか? さぁな。クロード王子の独走かとも思ったが、ガルシア王子もアルマナ王女も頑張っているぞ」
「結果が出てみないと、正直分からないね……接戦だよ」
「……そうか」
「……まぁ、庶民は庶民の悩みを考えるべきだろう。今はお互い、競技に集中しよう」
纏める様に言ったクルスの言葉に頷きながら、俺達は次の競技の開催場所へと歩き出すのだった。
◆
プログラム通りに進行していく聖女神杯。
12個の競技が終了した段階で、小休止が取られる。
既に昼を周った時刻だ。
此処で生徒も食事を取り、午後の実戦競技へと英気を養う。
会場を後にし、校舎の食堂へと移動する生徒達。必然、いつも以上にごった返しになる食堂だが、学院側もそれを考えてか、給仕の数は平常よりも多い。
まるで祭りの様な喧騒だな。
心中で零しながら、俺は空いた席へと座り込む。
『――あ』
思わず、同時に声を上げてしまう。
卓の隣には、七聖剣のディンハルト=シーザーが座っていた。
一瞬、立ち上がって別の場所へと行こうとも考えたが、それはそれで負けた気もするので、俺は構わずに座り続ける。
ムッとした表情をするディンハルト。
俺が退かぬと見るや、近くの給仕を手招きし、料理の注文をしようとする。どうやら奴も退く気はない様だ。
「チキン定食一つ。サラダの人参はいらねぇよ」
「俺はビーフだ。野菜は増してくれ」
「かしこまりました」と言って、調理場へと向かう給仕。
途端、無言の空気が互いに流れる。
「……ふん、人参抜きねぇ? 案外ガキっぽいんだな、お前?」
「ハッ、栄養面に気を遣ってんのか? 爺臭いぜ、ハインリヒ」
「鳥頭のお前がチキンなんて食ったら共食いだろう? 俺のものと交換してやろうか?」
「テメエ……相変わらず、口の減らねえ奴だなッ!」
「そっくりそのまま返してやるよ。なぁ、口だけ神童さん?」
「あぁッ!?」
「ディン、何を騒いで――ッ、ハインリヒッ!?」
また面倒な奴がやってきた。
キルツ=レヴァノフ。口を半開きにしたまま此方を見詰める眼鏡の男の顔を眺めながら、俺は内心で溜息を吐く。
ディンハルトと合流して、食事でも摂ろうとしていたのだろう。
他の七聖剣と違って、仲の良い事だ。
「何故お前がディンと食事を!?」
「偶々座った席の隣に居ただけだ。こっちは迷惑をしているよ」
「んだとッ!」
額に青筋を浮かべ、今にも俺に飛び掛からんとするディンハルト。流石に場所を弁えているだろうから、行動には移しはしないだろうが、面白い位に挑発に引っ掛かる奴だな?
こう反応が良いと、俺もつい調子に乗ってしまう。
少しばかり、自重しとくか。
「……ハインリヒ=セイファート」
「ん?」
そう思った時だ。
キルツの奴が神妙な様子で俺の名を呼んだ。
「君も出るんだな、実戦競技に」
「あ? まぁ……出ない訳にはいかないだろう。多分」
「……」
クラスの代表五名を選出して行うチーム対抗、トーナメント戦。
・一対一の戦闘で、先に三勝した方が勝利する。
・一度試合に出た者は同じ試合には出れない。
・組み合わせは試合開始後は変更不可。
それが、実戦競技の基本的なルールだ。
説明しといてなんだが、よくあるオーソドックスな格闘トーナメントだと言えば分かり易いだろう。
他と違うのは、武器使用アリ。魔法使用アリ。という点だろうか?
そういう大会も探せば何処かにありそうな気もするけれど。
重要なのは、この競技……勝ち抜き戦ではないという事。
例え俺が勝ったとしても、残りのメンバーが負けてしまったら試合には負けてしまう。
勿論、金章組の連中は優秀だ。ちょっとやそっとの相手なら余裕勝ち出来る実力を持っている。が――問題なのは教団組だろう。
まず間違いなく、代表面子を七聖剣で固めてくる。
そうして、そうなった場合の此方の勝率は……低いだろうな。
「――で? それがどうかしたのか?」
思考し、固まったままの状態のキルツへと俺は問い掛ける。
隣にいるディンハルトの奴も、顔には出さないが興味津々の様だ。
「……実戦競技には、私は大将として参加する」
「!?」
「おい、キルツ!?」
突然の情報の暴露に、慌てふためくディンハルト。
一瞬、ブラフかとも思ったが……コイツのこの迫真の反応から鑑みて、嘘ではないのだろう。
ならば、尚更に解せぬ。
実戦競技における選出メンバー。その順番は戦術面に置いても重要な情報な筈。何故敵である俺にそれを教える?
此方の疑念が伝わったのか、キルツは俺の目を見ながら、はっきりと己の意図を口にする。
「――私と勝負しろ、ハインリヒ=セイファートッ!!」
「……なッ!?」
卓に両手を突いて、叫ぶキルツ。驚きはディンハルトのものだ。
「こんな機会はもう二度と無いかも知れない……どちらがより優秀であるか、白黒付けさせて貰う!」
「……俺がそれを受けるメリットは?」
「此方は正直に私が大将に選ばれるという事を君に話した。それだけで十分だろう?」
「……ふむ」
腕を組みながら、俺は視線を上にやりながら思案する。
「……レイドとの確執が原因か? 一応言っておくが、お前じゃ俺には勝てないぞ?」
「――ッ! ……それを決めるのは、君じゃないさ」
「――待て! 待て待て待てぇッ!!」
「何だよ、うるさいなぁ……」
立ち上がり、横から口を出してきたディンハルトに向かって、俺はうんざりした顔を向けてやる。
「聞いてねぇぞ、キルツ! 俺だってコイツと――ッ!!」
「すまん、ディン……だが、私は本気だ」
「ぐ――ッ!?」
誰に何を言われようが、一切聞く耳を持たぬ。
今のキルツはそんな様子であった。
熱い眼光を向けられたディンハルトは怯み、それで場が収まるのだと、誰もが思った次の瞬間――
「……先鋒だ」
「は?」
「俺は――先鋒だ!!!」
「……」
「――ディンッ!?」
ずり落ちそうになる眼鏡を指で直しながら、叫んだ相棒へと驚きのままに振り返るキルツ。
「悪りぃ、キルツ。今回ばかりは俺も引けねぇッ!!」
「……ッ!」
「ディンハルト=シーザーは先鋒で出る!! だからお前も先鋒で出ろ!! ハインリヒッ!!」
「……」
「いや待て! 大将戦に参加するんだ! ハインリヒ!!」
ギャーギャーと言い合いを続ける二人を眺めながら、俺は中々近付けずにいる、後ろの給仕さんへと視線をやる。
手に持った料理は大分時間が過ぎてしまったのか、出来立ての湯気は消えてしまっている。
「どうでもいいが……とりあえず、飯食わせてくれない?」
溜息を吐きながらの発言。そこから俺が料理を口にするのは、もう数分の時間が必要だった様だ。




