028 最悪の結末
丁度良い所で区切る為、短いです。
なるだけ待たせずに次の話も投稿しますのでご容赦をm(__)m
夢を、見ていた。
揺蕩う様な微睡の意識で、俺はソレを夢だと確信する。
目の前に展開される現実味のない光景は、混濁する意識の中でも取り分け過去の忌避感を想起させる。
――邪神降臨。
濃厚なる死の空気。
煙の様に飛び交う赤の飛沫の中心に、その存在は立っていた。
真っ黒な肌は生命の物ではない。
鮮血を思わせる真っ赤な髪。そこから見え隠れする額には紫水晶を思わせる結晶が埋め込まれていた。
何処かの民族衣装を思わせる風体をした男。
その姿は異形であり、四本の腕を生やしている。
手の先には長柄の槍を持ち、残った三本の手には、切り取った人間の首が掲げられている。
酷く見覚えがあるその顔は、血が抜け落ちて真っ白だった。
まるで作り物みたいな……だが、それは決して有り得ない。
塵の様に捨てられた胴体部が、男の足元に散らばったソレが、俺を逃がさない。都合の良い現実逃避はやめろと、主張する。
あぁ――あぁ――気が、狂いそうだった。
クロード=ディ=リアネス。
眠った様に目を閉じて、唇の端に血を着けた首。
ガルシア=ディ=リアネス。
恐怖と苦痛に彩られた様な形相が張り付いた首。
アルマナ=ディ=リアネス。
その視線は俺を見ていた。涙の跡が頬に残る首。
いいや、惨劇は彼等だけのものではない。
レシィ=クリムゾンは心臓を穿たれて死んでいた。
生気のない瞳で、口を半開きにしながら地面に座っている。
レイドとキルツの二人は、折り重なる様に地面へと倒れていた。彼等の胴体には大穴が空いており、下半身は見付からない。
瓦礫を背に臓物を吐き出した死体は、ディンハルトのものだった。
傍には苦痛に白目を剥くファングの死体もある。
首のない少女の死体……あれは恐らく、ユーリアのものだろう。
彼女の死体を背後から抱き、絶命しているのはカルナ。近くで倒れている男の死体はルディンのものだろう。
服装で分かる……上半身は消えて無くなっていたが、あのメイド服はルーシーだろう。四肢を切られて転がされているのはグエン。あの傷ではもう失血死している……。
瓦礫に潰されて死んでいるのは、マチュア=キュベレイか? 髪色でしか判別は付かないが、間違ってはいないだろう。近くにはアーサーやゲインズといった他の七聖剣の死体もあったからだ。
クルスはロア教師を庇って死んでいた。その教師も、クルスの腹から貫通した何かによって絶命。二人の死体はお互いを抱き合ったまま、その場に立っている。
崩壊する建造物。そこにあるリアネス王国の国旗を見付けた事で、俺は初めてこの場が王都である事に気が付く。
それはもはや、国の体を保ってはいなかった。
山となる兵の死体。民間人の死体。
それらの中心で俺は――ただ一人、目の前の存在と対峙していた。
満身創痍。荒い呼気。外見から体に傷の無い個所を見付けるのが困難という有様の中、夢の中の俺は血走った目で男を睨む。
決着は一瞬だった。
男の身体がブレた瞬間、俺は空間術を発動。攻撃を回避しようとしたのだろう。
だが、それが悪手だった。
男が振るう槍の斬撃は――空間を切断した。
歪みを盾とした俺は、そのまま袈裟切りにされて地へと倒れる。
『嘘、だろう……』
今際の際にて、夢の中の俺は呟きながら手を伸ばす。
その手の先には――見知った幼馴染の少女の死体があった。
『――キッチェ……』
血が流れる。命の灯が消えていく感覚を味わう。
絶望とは、この事を言うのだろう。
リアネス王国は滅亡した。
我神団は皆殺しにあった。
死は等しく全てに平等に与えらえる。
空を覆う破滅の前兆。
天空より空いた次元の風穴を見つつ、俺はこの世界・アズワルドが終わるのを確信する。
『――さらばだ、■■■■の残滓』
最後に、男が俺に向かって何を言ったのかは分からない。
次元からの閃光が世界を覆う。
逃れられぬ破滅の光芒。
照らされる光は神による福音なのだろうか。
圧倒的なまでの存在に、神々しい神意すら感じる。
――あぁ、そうだ。此処が生命の終着点。
打ちひしがれる思いを抱きつつ、俺はそこで完全に意識を手放す。
――ハインリヒ=セイファートは、死亡した。




