022 宿泊SIDE:最後の七聖剣
今週分です。
誤字脱字報告、ありがとうございましたm(__)m
「くっ! おのれッ魔物共めッ!!」
「無理をするなクルス!! 君は学院の生徒だろうッ!?」
「自分は――軍人ですッ!!」
「おい!?」
生徒達が避難した宿泊施設。そこへと続く大通りは防衛の要だとして、多数の教師達が詰めていた。
剣を振るい、魔物と相対する者。
魔法を扱い、魔物を撃ち落とす者。
戦い方はそれぞれだが、何分敵の数が多い。
長年平和を甘受してきたサンクトには、満足に魔物と抗戦出来る戦力は存在していなかった。
必然的に学院教師達の負担は増える。
彼等も王国きっての名門の教師である。決して無能な訳ではない。
地を蠢く魔蟲の群れ。
空を覆う羽蟲の大群に、その対応が追い付かないのだ。
だからこそ、クルス=オーグメントは引く訳にはいかなかった。
――ハインリヒは、独自に動いている筈。同じ生徒であるアイツが働いている以上、軍役経験のある自分が遊ぶ訳にはいかない。
「ッ!!」
人間並みの大きさを持つ芋蟲型の魔物が、クルスの右腕へと飛んで噛み付いてくる。
「クルス!?」
「ぬ、おおおおお――ッ!!!」
腕の肉を噛み千切られる瞬間、クルスは二の腕の筋肉を膨張させ、地面へと倒れ込む事で芋蟲の身体をグチャリと潰す。
「……!! 大群に関所なしッ!! だが――ッ!!」
倒れたクルスへと芋蟲が一斉に集る。
「クルス――ッ!!」
叫ぶ教師の声も虚しく、折り重なった蟲達は山となり、クルス=オーグメントの長身を完全に見えなくさせてしまう。
その光景に、顔を青くさせる教師達。
だが――
「侮るなァア――ッ!!」
身体に大量の蟲をぶら下げながら、腰に力を入れ、その場から立ち上がるクルス。ボタボタと流れ落ちる血液は、彼の形相を更に壮烈なものに変えている。
一歩、二歩と、魔物を引き摺りながら歩く彼の前に、蟷螂型の魔蟲が立ち塞がる。
イビルマンティス。
体長三メイル。両腕の鎌で獲物を切り裂き、強靭な顎で食らう魔物。
冒険者ギルドでは討伐難度【A】ランクに設定されている。
鎌の刃先がブレた瞬間、イビルマンティスの鎌は芋蟲ごとクルスの右肩を切り裂いた。
様に――見えた。
「――ッ!!」
芋蟲の身体で隠れていた、肩に構えたロングソードが、イビルマンティスの刃を受け止めていた。
上体を倒し、頭の上を滑らせる様にして鎌をやり過ごしたクルスは、吹き飛んだ芋蟲のおかげで軽くなった身体を前進させ、イビルマンティスの胴体部に剣を突き入れる。
「チェストォッ!!」
気合と共に突き入れた剣を斬り上げていくクルス。堅い甲殻をバキバキと叩きおり、その刃は蟷螂の頭を両断する。
『――お、おおッ!!』
騒ぐ教師達の声を背中に受けながら、クルスは倒れる魔物から剣を抜き取り、肩で息をしながら背後を振り返る。
「――」
そこには、円陣を組む教師達の頭上に、人間サイズの蠅の魔物が飛び交う光景があった。
その数――十や二十では利かない。
此処まで、大量の魔物を相手取ってきた教師達だ。
その顔には、疲弊の色が濃く出ている。
「……」
疲労は、金章組であるクルスとて例外ではなかった。
――叶うならば、今すぐ床に就いて泥の様に眠りたいが……。
歯を剥き出しにし、口元を歪めるクルス。
「それは、貴様等を滅してからだな……ッ!!」
――痩せ我慢は大いにある。だが、それがどうした?
――己は戦でこそ輝く。……馬鹿なのだから!!
思い、駆け出すクルス。
「――止まれ」
「ッ!?」
その足を、聞き覚えのある声が制止させる。
振り返るとそこには、一人の教師が立っていた。
人形の様に白い肌。白い髪。純白の白衣を来た――真っ白な少女。
「ロア=ハーレス……」
白い君とも称されるその少女の手には――剣が握られていた。
「その剣――」
目を見開き、問うクルスに構わず、ロアは己の【聖剣】を抜く。
「さぁ……【異端】を見せ付けろ――エーティー」
最後の七聖剣・第七位【異端】エーティー。
所有者であるロアの声と共に、聖剣はその真の力を発揮する。
電光の様なマナが、彼女の周囲へと発生する。
その光に、少女の白い身体が透き通ったと思った瞬間――
――ロア=ハーレスは飛んでいた。
『――ッ!!』
驚愕する周囲に構わず、飛んでいる魔物達の頭上を取ったロアは、己が手に持つ聖剣を――捏ねた。
意匠も何もない水銀の様な剣。
曲がりなりにも剣の形を取っていたソレを、ロアは手で丸めて瞬時に球体に変化させ、地上へと投げ付けた。
「――散れ」
言葉と同時に球体は宙で分解。刃の雨は蠅型の魔物へと降り注ぎ、その身体をズタズタに切り裂いた。
「……ッ」
――無作為な攻撃。だが、あの剣は地上の教師達を避けた……?
――ある程度、操作が効くという事か……?
クルスが思案する中、蠅型の魔物を全滅させたロアは、地上へと華麗に降り立ち、散ってしまった己の剣を手元へと呼び寄せる。
「やはり出力が弱い。私ではこの程度が限界か……使用者を選ぶ武器……これでは、量産化は夢のまた夢だな……」
ぶつぶつと何かを呟くロア。
「七聖剣……だったのか?」
王立学院の教師でありながら、教会の関係者。そんな相反する彼女の素性に疑念を抱き、クルスは再度目の前の少女へと問う。
「ロア=ハーレス――貴様は、何者だ?」
◆
宿泊施設のロビーへと避難したカルナは、怯えるユーリアの手を握りながら、窓の外の戦いを見詰めていた。
「あのメイド服の女……」
独特な形の大剣を振るい、次々と魔物を切り裂いていく黒髪メイドの女性の戦いを見詰めながら、カルナは考える。
――ハインリヒ=セイファートの仲間。
――傭兵の、我神団と言ったか……ご苦労な事だ。
戦える教師達はその殆どが出払ってしまった。
各地に散らばり防衛線を築いているのだろうが、此処を守る人間が2、3人しかいないというのは、どうなのだろう?
幸い、施設までやってくる魔物の数は少なく、現状の戦力でも何とか足りている様だが……。
「か、カルナさん! あれッ!」
「……魔物の増援か」
やはり、な。
取り零しが出て来たか。
この学院の連中は欲張り過ぎたんだ。
戦力を薄く広く配置したのは悪手。捨てるべきものを捨てていれば、今頃こんな状況にはならなかっただろう。
「あの女だけでは抜かれるな……」
「魔物がこっちに来るって事?」
「……」
言って、ガタガタと震えるユーリア。
成績優秀者とはいえ、所詮貴族のお嬢様だ。
目の前の魔物には竦むか。
いや、それは彼女に限った話ではないだろう。
此処に避難してきた生徒全員が、不安と戦っている。
ユーリアが、私の手をぎゅっと強く握る。
……綺麗な手だ。私とは大違い。
怯えるユーリアを見ていると、私は何だか、不機嫌になっている自分に気が付く。
「……チッ」
「あ!?」
舌打ちをしながら、私は握られた手を振り解く。
一瞬見せた悲し気な表情が、妙に胸を貫いたが――知った事か。
「私が出たら、すぐに入口を閉めろ」
近くにいた生徒へと声を飛ばし、私は施設の入口へと足を向け、その扉へと手を触れる。
「本当に、目立つ訳にはいかないというのに――」
誰にも聞かれぬよう、呟き。自嘲しながら、私は魔物が蔓延る施設の外へと出て行くのだった。




