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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第3章 ~王都炎上、決意のハインリヒ編~
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018 襲来・モンスターパーティ~漆黒の旋風~


「おいおいおいおい……なんじゃこりゃーッ!!」


砂浜で寝ていた俺は、唐突に飛び起きて叫び声を上げる。


「どうしたの? ハイン?」

「どうもこうもないわい!!」

「ひゃひ!? うぅ~ひゃいんがいじわうする~!!」


そのままの勢いで、ぐいーっと、俺の顔を覗き込んできたキッチェの奴の頬っぺたを延ばしてやる。


「……何を遊んでいる、ハインリヒ?」

「クルスか……」


呆れた様な表情で声を掛けてきたのは、先程まで海でひと泳ぎしてきたクルス=オーグメントだ。


他の連中は……皆どっか行っちまったか。


……実戦でのこいつの実力は良く分からんが、今は猫の手も借りたい状況だからな。致し方ない。



「お前、魔物との戦闘経験は?」


「む? 藪から棒に一体何だ? 軍人だから当然あるが――」


「装備は?」


「あそこにあるだろう」



クルスが顎で差した先には、パラソルの下、リュックと共に一本の長剣が置かれていた。



「お前、海にも武器を持ってきてるんだな……」


「常在戦場。軍人であるならば当然だ」


「……おかしな奴だが、まぁ合格か」



言いながら俺は、自身の鞄の中からこの島の地図を取り出す。誰かがはぐれた時用の備えだったのだが、こんな形で役に立つとは思わなかったな。



「見ろ」


「?」


「防衛拠点として使えそうな建造物に丸を付けておいた。後は魔物の侵攻口だが、南は岸壁だからな。浅地になっている北からの数が一番多い。此処からだと少しは時間が稼げるかも知れん。とにかく、砂浜にいる者は全員宿泊施設へと避難して貰うぞ。時間との勝負だから、お前は手分けをして――」


「ちょ、ちょっと待てハインリヒ!? 話が見えん!!」


「……」


「何だその面倒臭そうな面は!? 魔物!? 避難!? お前の言っている意味が何一つ俺には分からんぞ!? この平和な砂浜に何処に魔物の気配が――」



尚も話を続けようとするクルス。


時間が無いって言ってるだろうに……。

俺は溜息を吐きながら――奴の額に指を翳す。



「――ッ!?」


「……どうだ、見えるか?」



外部からのマナの知覚範囲の拡大。多少は苦しいかも知れないが、これで俺の言っている意味が理解出来ただろう。



「……ぷはっ! こ、これは――ッ!?」


「やばいって事、理解できたか?」


「……」



俺の問いに、クルスの奴は遅まきながら頷いて見せる。



「……島全域のマナを知覚した……? ハインリヒ、アレが貴様の普段の視界なのか……? それに、あの有り得ない程の魔物の量……アレは一体……?」


「さぁな? そこまでは俺も知らん。ただ、ぼやぼやしていると大量の死人が出るというのは確かだ」


「……教師に、協力を仰いでくる」


「聞く耳を持つか?」


「ロア教師なら……恐らくは」



お前が惚れていた教師か。……今は任せるしかないな。



「ハインリヒ――貴様はどうする?」



クルスの問いに、俺は笑って答えてやる。




「――魔物退治は、傭兵団の仕事の一つだぞ?」







海の離島サンクトは、此処数十年もの間、魔物の脅威とは縁遠い島であった。


沖合などに出れば海中に生息する魔物などに襲われるという事例も無くはないが、少なくとも地上の島内で危険な魔物が出現したという話は聞いた事が無い。


故に、観光地としての人気も高く、貴族が愛用する。


そんな平和な島に――今、異変が起きていた。


家畜が騒ぎ、鳥が逃げ出す。


海の遠来から聞こえる鳴き声は、決して穏やかなものではなく――

その島の住人達に、久しく感じなかった危機感を抱かせた。



さざ波の向こう側から――その大群はやってきた。



木々を食らい羽を鳴らし、牙を嚙合わせる兜蟲型の魔物。

地を這い、糸を吐いて獲物を捕食する芋蟲型の魔物。


その他にも多種多様な魔物――何れも昆虫型のものが、島を埋め尽くさんとばかりにサンクトへと集合していた。



暗雲の様な魔物の姿を森の中で眺めながら、七聖剣・マチュア=キュベレイは眉を顰める。



「うわ……きもッ」

「全部昆虫型の魔物かよ。逃げ遅れた奴は悲惨だぜ? アレ」



対岸の火事の様に、あくまで他人事の様な物言いをする彼等。

そんな彼等の様子に、怒りを覚えた人間がいた。


「全部、君達が仕組んだんだなッ!? 関係ない生徒も殺して!」

「んー?」


ルディン=シュトラウス。


捕縛される前に手荒い扱いを受けたのだろう。

彼の身体には、至る所に青痣と切り傷が浮かんでいた。


「関係ない訳じゃないんだけどな~コレ」


言いながらマチュアは、胸から血を流して死んだ生徒の死体を、爪先でツンツンと蹴る。


「……ッ!!」


殺された生徒と、ルディンの間には何の縁もない。


だが、平然と人の尊厳を踏み躙る彼等に対し、ルディンは怒りの念を抑えられなかった。


「――ぐぅッ!?」


マチュア=キュベレイへと飛び掛かろうとしたその瞬間、彼の背中にアーサー=フィレモントの踵が乗る。



「おぉい!? 雑魚が調子に乗ってんじゃねぇぞ!? 立場理解してんのかぁ? お前、今から俺達に殺されちまうんだぜぇ?」


「……ッ!」


「何を初耳みてぇな顔してんだよぉ? 見ちゃいけねぇものを見たんだ。当然だろ? それとも何か? 金章組なら殺されねぇとでも思ったのか? はは――馬っ鹿馬鹿しい!」



言いながら、アーサーは聖剣の刃をルディンの首元へと当てる。



「そういう特権意識、一番腹が立つぜ……本当ならじっくりと虐めてやりてぇ所だが……」


「アーサー君、じ・か・ん♪」


「へぇへぇ、分かってるよぉ女王様。――まぁそういう訳でな、あんま相手もしてられねぇんだ。悪りぃな?」



心底興味が無さそうに、アーサーは軽くそう言ってみせた。



「――」



――死ぬ?

――ここで俺は、死ぬのか?



ルディンは息を荒くしながら、動かせる範囲で必死に視線を周囲に巡らした。



「哀れな者よ……」


同情するかの様に、肩を竦めるゲインズ。



「ばいば~い♪」


にこやかな笑みで此方に手を振るマチュア。



「ほんじゃま、さよならっと」


芝を刈るかの様に、作業的に剣を振り下ろそうとするアーサー。



「――あ! あああ! あああああああああッ!!!」



咆哮は、最後の足掻きだった。


その叫びが彼等を喜ばせる結果にしかならないと知っていても、ルディン=シュトラウスは声を張り上げるしかなかった。


走馬灯の様に浮かぶ短い人生を回帰する。

その叫びは現状を打開する事は出来なかっただろう。


ただでさえ、凶悪な七聖剣が――三人。


如何な金章組とはいえ、この状況は覆せない。



しかし――それでもだ。



命が尽きる時の、最後の煌めき。



最後の――声。




彼の叫びは――漆黒の聖剣を、その場に呼び寄せる事に成功した。




「――ッ!!!! ガフ=コフィ――ッ!?」


「オラぁぁぁあ――ッ!!!!」



その場に現れた黒い旋風は、ルディンへと振り下ろされた聖剣の一撃を防ぐと、そのままの勢いでアーサー=フィレモントを弾き飛ばし、左拳での強烈な一撃を彼の顔面へと叩き込む。


「ちょっと!?」

「む――!?」


「きさんらァ――ッ!!!」


木々を薙ぎ倒し、五メイル先まで吹き飛んだアーサーは、ガフ=コフィンの拳の一撃で昏倒。


驚き、行動が遅れたマチュアを庇って前に立つゲインズだが、獣の様な猛襲で連撃を繰り出すガフに押され、遂にはその顎先に踵を食らい、動きが止まった所を滅多打ちにされてしまう。



「嘘でしょうッ!?」



七聖剣二人が瞬殺された事実に、マチュアは戦慄する。



――こんなに強かったの!? コイツ!?



「じゃァッ!!」


「ひッ!!」



横薙ぎに振るわれた第二位【蒼輝】――エグリゴリの一撃に、マチュアは己の六位【深淵】エギンガルを取り零す。



「ひ、ひぃぃ……ッ!!」



無言のまま近付いてくるガフに対し、悲鳴を零すマチュア。


その場に尻餅を突きながらじりじりと後退する姿は、もはや七聖剣のものではなく、ただの小娘の様であった。



「!」



マチュアへと近付くガフへと、一匹の羽付きの魔物が飛来する。


振り返り様、聖剣の一撃で魔物は消滅させたが、飛来する数は徐々に増していく。



「――チッ! 命拾いしたのぉ……ッ」


「――ッ」



まるで路傍の石でも見るかの様な冷たい視線をマチュアに投げながら、ガフ=コフィンは倒れたルディンを片手で担ぎ、その場から退散するのだった。



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― 新着の感想 ―
[一言] さっそくの更新有難うございます♪ 明らかになった神童ハインの視界、ルディン絶望からのガフ救出には燃えました!ガフはいつか裏切るだろうとは思ってましたが、今話読むとここしか無いって場面でした…
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