011 保健室のファーストキス~少女は昨日より強くなる~
誤字脱字報告ありがとうございました! 助かります(*'ω'*)!!
感謝のジェットストリーム土下座(*ノωノ)!!
『――貴女は男になるのよ』
ステンドグラスから陽の光が差し込む、教会の礼拝堂。
僕の目の前で跪く母は、有無を言わせぬ様な声色で、そう言った。
『もしも女だと知られてしまえば、貴女はシャルルに捨てられる』
シャツの前を開け、肌を露出した格好の僕。
その胸に、母の爪が食い込んだ。
『こんなもの……ッ』
それは、怨嗟の籠った呟きだった。
母の言葉を他人事の様に聞きながら、僕は顔を上げる。
プライスマー教皇が何とかしてくれる。
だから、何も気にしなくて良い。
貴方はずっと男でいれば良いの。
他の兄妹は勿論、誰にも女だと知られてはいけない。
貴女だって――愛されたいでしょう?
『……うん』
頷く私。
そうだよ、私は愛されたい。
お父さんに愛されたい。お母さんにだって愛されたい。
アナタがそれを望むのなら――私は私を殺そう。
試練の女神ククゥリエ。
教会に鎮座する、その女神像に私は問う。
――これで、良いんですよね? と。
弟であるガルシアが羨ましかった。
己を偽る事をせずに、周囲に認められている様が、憎い。
妹であるアルマナが怖かった。
予見の王女。全てを見通す様なあの目が、私を見るのが恐ろしい。
仮初の王子。
偽りの仮面。
ああ、僕は……私は……何処まで行き、一体、何処まで――ッ
◆
「――ッ」
「……起きたか、クロード」
「……ハイン、リヒ?」
ぼやけた頭で、声のした方へと視線を向ける。
白銀の髪の少年。ハインリヒ=セイファートがそこにはいた。
一体、何が……? 思ってようやく、自分がベッドへと寝かされている事に気が付く。
ゆっくりと上体を起こし、顔に手をやる。
えっと……何があったんだっけ?
ハインリヒ……私と一緒にピアノを弾いた少年。私の事をちゃんと見てくれている……? アルマナの味方。私の、敵……。
上手く働かない頭で、状況を整理していく。
……そうだ。授業で走らされて、アルマナに酷い事を言われて、倒れて。私は、わたし、は……。
「――ッ!」
思い出した!
完全に思い出した!!
「ハインリヒ! お前、僕のこと……ッ!!」
「……ようやく、頭がはっきりしたか」
「――ッ!!」
ハインリヒのその言葉に、私は顔面を蒼白させる。
知られた。
女だと知られてしまった。
決して――決して誰にも知られてはいけなかったのに……ッ!
「終わり、だな……」
「あ?」
「性別を偽っていたのがバレたんだ。――私はもう、終わりだ」
「……」
「父に……母に愛される為に、私は自身を男だと偽っていた! 18年生きてきて、ずっとだ!」
それが今、終わる。
「……肩の荷が下りたよ……」
自分でも情けなく思う程に、震えた声でそう呟く。
もう、体裁も何も取り繕えない。
「クロード……」
「アルマナの言ってた通りだ。私が王になれば、この国は滅ぶ。それが未然に防げただけ、良かったのかも知れないな……」
「……おい、何を捨て鉢に……ッ」
言いながら、ハインリヒは私の腕を掴もうとする。
「――やめろ! 触るな!!」
優しくして欲しくない。
アルマナの味方のハインリヒには、特に。
だが、そんな私の気持ちを知らずに、ハインリヒは私の肩に手をやった。触れ合った場所から、じんわりと彼の体温を感じる。
「女であろうと、男であろうと――お前はお前だろう?」
「――ッ!」
「震えが止まらないなら、俺がこうして止めてやる。だから……えーっと……あまり深刻に捉えるな! 何かこっち、すげぇ悪い事した気分になるしな! それに俺、意外と口は堅い方なんだぞ? そこまで心配するこっちゃねぇって!」
胸板を叩きながら、ハインリヒはそう言って私に笑い掛ける。
こいつは、本当に――
「――軽いな、馬鹿」
「お、おう……」
身体をそのまま前に倒し、私はハインリヒの胸に顔を埋めた。
能天気。馬鹿。自己中。ノリが軽い。王子に不敬。傲岸不遜。八方美人。女たらし。空気を読まない。――本当に、馬鹿。
思い付く限りの悪口を頭に思い浮かべながら、それでも震えが止まってしまう自分に嫌気が差す。
そっか……。
そういう事か……。
私は、誰かに私を認めて貰いたかったんだな……。
「……私の事を告げ口すれば、アルマナの王位は確定だぞ?」
耳元で、ハインリヒへとそう呟く。
ガルシアでは、アルマナは止められないだろう。
器が違い過ぎる。
「それって、意味があるのか?」
「……意味?」
「ちゃんと競い合った上で決めなきゃ、ズルいだろ?」
「……」
やはり、ハインリヒは何処かズレている。
私はそれを好ましいと感じているが――アルマナはどうかな?
「だからさ、お前もすぐに諦めるなよ」
「……」
「まだ勝負は終わってねぇって」
諦めるな、か。
――そうだな。確かに、私は諦めたくない。
王位を。そして――お前を。
自然と――自分でも驚く程に自然と――
私は――ハインリヒに口付けをした。
「――え?」
「……」
目を見開き、呆然とする銀髪の少年。
その顔が愛おしくて、私は思わず小さく笑ってしまう。
「王族の唇を奪うだなんて、お前は不敬な男だよ……」
「いや、奪うって……え?」
己の顔が火照っていくのを感じる。
「これは――二人だけの秘密だぞ?」
微笑む私に、ハインリヒは困った様な顔をしながら、小さく頷いた。
あぁそうさ。妹にだって負けはしない。
私にだって、譲れないものが出来たのだから。
日間ランキングも意外に上がっててびっくり。
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