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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第3章 ~王都炎上、決意のハインリヒ編~
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005 ハインリヒ VS ガルシア


俺――ハインリヒ=セイファートは、最近毎日が楽しい。


初めは面倒だと嫌がっていた学院生活だったが、慣れてみるとこれがまた新鮮で面白い。


教わる勉強自体は大した事は無いのだが、一つの所に集まって皆で勉学に励むというのは、殊の外楽しいという事が分かった。


教室の中には――面白そうな奴も何人かいる。

卒業までの一年間、ダメもとで傭兵団に誘うのもありかも知れない。


「ふぅ……」


俺は書いていた手紙を封筒に入れ、椅子に座りながら伸びをする。

俺が学院へとやってきて、三か月。


一応、現状報告はしとかないとな。


テラン村の両親へと一通。

ポンペイの傭兵団へと一通。

キッチェの奴へと一通。


そして――最後のもう一通を手提げ袋に入れながら、俺は部屋を出て、便箋係の元へと向かうのだった。







今日の授業は、実技形式であった。

校舎の外の練兵場へと集められた俺達は、木剣を手渡され、二人一組を作らされる。


「一緒にやらない? ハイン君」

「ルディンか。別に構わないが――」


アルマナ――あのぼっちは大丈夫だろうか?


最初の頃に比べて大分マシにはなったが、それでもこういった授業だとあぶれてしまうのではないか?


そう言った俺の危惧を察してか、ルディン=シュトラウスという柔和な少年は俺に対してこう言った。


「大丈夫。ユーリアさんが見てくれるよ。……ハイン君は、本当にアルマナさんの事を気に掛けているんだね?」


「まぁな」


一応雇い主だし。


俺が此処にいる時点で、毎月安くはない金額が傭兵団へと振り込まれているのだ。報酬分の仕事はしないといけないだろう。


「そ、そのう……好きだったり……とか?」

「……」


照れた顔をしながら、俺に向かってそう聞いてくるルディン。

……何か、妙な勘違いをされてるなぁ。


バッサリ本音を言っても良いのだが、此処は誤魔化した方が面白い。


「ルディンはユーリアが好きなのか?」

「えぇ!? な、何でッ!?」

「さぁ、何でだろうな?」

「うぅ……」


顔を赤らめ、俯くルディン。

……少し意地悪だったかな?


「ピエールには内緒にしててやるよ。それと、恋愛ってのは駆け引きだ。それは剣とも似ている」


「……」


「今日はまぁ、そこら辺の両方を教えてやるよ」


「――なら俺は、ただ教えられるだけじゃないって所を、君に見せなきゃね?」



……ほぉ?

……言うなぁ、ルディン=シュトラウス。


面白いじゃないか。


お互いに木剣を構え、間合いを取る。

一枚の花弁が目の前へと舞うのを合図に、先手を取るルディン。


「おおう!?」


元より最初は見に徹するつもりであったが、思ったよりも鋭い突きを放ってきたので、思わず驚愕した声を漏らしてしまう。


「シッ――!!」


顔への突きを回避されたと見るや、俺の持つ木剣の内側を叩き払い、連続して胴を狙うルディン。


動きが洗練されている。

打ち、払い、薙ぎ。流れる様な三つの動作により、相手の反撃の機会を奪おうとしているのだ。


――上手いじゃないか!


その場で態勢を下げ、胴狙いの剣を回避。続く下段の打ち上げを飛んで回避。ルディンの背後へと回り込む俺。


着地までの間に木剣を背負い、続く衝撃を振り返らずに打ち払う。


「なッ!?」

「見え見えなんだよッ!」


振り返るとそこには、剣を弾かれた形のルディンの姿がある。

その態勢で放てるのは――上段からの打ち下ろしのみ。


「くう!」

「――終い!!」


来ると分かっている攻撃ならば、対処も容易い。

下段からルディンの柄頭を狙い、俺は剣を打ち上げた。


宙を舞う木剣。


「――あ」


手ぶらとなった彼の首元へと、剣を寸止めする俺。

ルディン=シュトラウスは、一拍遅れてそれに気付き――


「……参ったよ」


――言って、降参するのだった。







ルディンとの組み手を一段落させた頃、一人の男子生徒が此方へと近付いてきた。


「やるな、ハインリヒ」

「……ガルシア王子」


やってきたのは、ガルシア=ディ=リアネスだ。


短髪の黒い髪。浅黒い肌に筋骨隆々の肉体。

王子と言うよりも、何処かの傭兵と言われた方が納得する風体。


こいつが――第二位の王位継承者。

アルマナの敵か。



「王子はいらん、敬称もな。それよりも素晴らしい腕前だ。ルディンを相手に剣で勝利するなど、並大抵ではない」


「褒め言葉は受け取るが、生憎比べられるほど周囲を知らない」

「実感が湧かないから、喜びようも無い……か」


口元を歪ませ、笑みを浮かべるガルシア。


「不遜だな。そういう所はアルマナに似ている……」

「……」


「この時期の不自然な転入に加え、アルマナを立てる様な立ち回り……お前は、妹が雇った協力者なのだろう?」


「さぁ、どうだか?」


はぐらかす俺に、詰め寄るガルシア。


「妹は王位が欲しいと言ったか?」

「……」

「やらんよ。アレは――俺の椅子だ」


随分と、熱が籠もっているな。


「――意気込むのは結構だが、やり過ぎると不安なのかと勘ぐってしまうぞ?」


「不安?俺が?」

「アンタ、アルマナが怖いんだろう?」

「……」

「だからこうやって、本人でもない俺に釘を刺す」


「違うか?」と問う俺に、ガルシアは笑い――



「――剣を取れ、ハインリヒ」



――表情を消し、俺へとそう言った。


「ガルシア様!? 貴方が直々にやる事では――!?」

「控えろ、クルス」

「……ッ!」


クルス=オーグメント。

高い身長にガタイの良い体格。鋭い眉が特徴の青年は、ガルシアに窘められ、その動きを制止する。


「上には上がいるという事を、貴様には教えてやろう」

「そいつは少し、遅い話だな……」


言いながら、俺は手に持った木剣を軽く振るう。


周囲で組手をしていた者は、皆その手を止め、俺達に注目していた。


「ハインリヒ=セイファート……」

「ん?」


苦々しい表情で此方を見る男、クルスに振り返る。


「俺は、貴様の様な軟派者は好かん!」

「……はぁ」


「本当なら俺が貴様を倒してやりたい所だが、王子が言うのならば仕方がない。――負けてしまえ!」


「……随分な言い様だな? 軟派者だとして、腰巾着よりはマシだと思うがな?」


俺の言葉に、クルスはカッと頬を上気させる。


「誰が腰巾着だ!! 俺は軍人だ!!」


暴れるクルスを周囲の生徒が宥めながら、遠くへと連れていく。

軍人、ねぇ……。

学院の生徒の中にも、実戦を経験している奴はいるのか。

親が軍人だという家系なら、あり得なくは無いか。


「ハインリヒ……」

「お」


今度はアルマナか。

近付いてくる彼女は、俺の顔を見ながら小さく呟く。


「……やりすぎないでね」

「――ハッ」


アルマナの言葉に、俺は思わず笑ってしまう。


何だよ。

俺の事、分かってきたじゃないか。


「ガルシア君は強いよ、ハイン君」


ルディン=シュトラウスが俺の肩に手をやりながら、そう呟く。


「それは――本気のお前よりもか? ルディン……」

「!」


俺の言葉に、目を見開くルディン。

その手をやんわりと解きながら、俺はガルシアへと足を向ける。


「ハイン!」


背中に掛けられるルディンの声。


「――君が勝つ! 今、俺はそう確信した!!」


振り返らずに手を振りながら、俺は目の前の王子へと相対する。


「準備は出来たか?」


問い掛けるガルシアに、俺は何て事のない様に答える。


「常在戦場って言葉、知ってるか?」

「口が減らぬな……」

「随分注目されているが、本当に良いのか、俺と戦って?」

「負けた時が心配か?」

「そりゃ少しはな。お前の兄貴も見ているんだぞ?」


言って、俺は周囲の輪の中から、此方を見詰める金髪の青年の姿を指差した。


クロード=ディ=リアネス。

第一位継承権の王子様だ。此方はガルシアと比べて線が細い……女と言われても信じてしまいそうだ。


そんな彼が、取り巻きを連れて此方を見ている。

結果によっては、立場も無くなるだろう? そりゃ心配さ。


「……一つ訂正しておこうか」

「ん?」

「俺は、クロードを兄だと思った事は、一度たりとて無い」

「……そうか」


言いながら、互いに構えを取る。


問答無用。

緊張する空気に、静まり返る周囲。


先に動いたのは――ガルシアだった。


「――チェストォッ!!」

「……ッ!」


砂を蹴り、一瞬で間合いを詰めたガルシアは気合一閃。恵まれた体躯より上段斬りを振り下ろす。


凄まじい圧迫感を持って俺へと飛んできた一撃を、横にズレて回避。


直後――


「な!?」


肩からのぶちかましを敢行するガルシア。


無茶な動きだ!


だが、振り下ろしや体捌きの速度が思った以上に素早く、気が付けばその身体は俺の目の前へ迫り――


「ぐう!?」


衝突する瞬間。俺は身体を回転させる事で体当たりを捌く。

しかし、その衝撃は思ったよりも大きく、身体は重心がズレ、横に大きく飛ばされてしまう。


やば!足が止まった!


不利な態勢のまま、追い縋るガルシアの姿を視認した俺は、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


「セイヤ――ッ!!」

「――」


裂帛の気合を籠め、俺へと打ち込むガルシア。

その剣の振りに合わせ――俺は片手で木剣を振るう。


剣の軌跡をなぞる様に振るったソレは、俺の肩へと落とされる筈だった剣先を、地面へと導く。


「ぬう――ッ!?」


驚愕しながらも、続けざまに剣を振るっていくガルシア。

俺はそれを一撃、二撃、三撃と――悉く捌いていく。


一瞬焦ったが、もう終わりだ。


ガルシア=ディ=リアネス。


お前の動きは――もう見切った。







当たらない、当たらない、当たらない――!!


例え得物が木剣であろうと、鉄ですら粉砕する一撃を、ハインリヒ=セイファートは柳の様な剣で捌いていく。


何だコレは?

どんな妖術だ!?


全力で打ち込む俺に対し、奴の動きは最小限。

必然的に、息が上がるのは俺の方が先である。


しかし、だからと言って攻撃の手を止める訳にはいかない。

この猛攻があってこそ、奴は俺に対して反撃が打てぬのだ。


もし、この状況で俺が動きを止めてしまえば――その時は――



「ぐッ!?」



脳裏に浮かんだ敗北のイメージ。

俺はそれを振り払う様に、打って、打って、打ちまくるのだった。



……戦いが始まって、どのくらい経っただろう。



汗水を全身に垂らしながら、剣を振るう俺。

その姿は、周囲にどのように映っているだろうか?


クロードは、俺を嗤っているか?

アルマナは、俺を軽蔑するか?


ハインリヒは――こいつは、何故俺に打ち込まない?


反撃の隙なんて、疾うの昔に出来ているだろう?

業腹だが、コイツの力量ならすぐに終わらせる事だって出来た筈。


無様な俺を晒し者にして、喜んでいるのか?

だとしたら何と最悪な……。


「……じゃない……だろ」

「……?」


小さく何かを呟くハインリヒ。

俺がソレを意識した瞬間――ハインリヒは俺の肩に剣を叩き込む。


「ぐぅッ!」


受けも、回避も出来なかった。

急にやる気を出した!?

いや、終わらせられるなら、それで――


――構わない。そう俺が思った時、ハインリヒは鍔迫り合いを敢えてしてみせ、身体を密着させる。


一体、何を?


疑問に思う俺に、彼は周囲に漏れぬよう小さく呟いた。


「重心を落とせ、身体の芯がズレている」


「――」


「恵まれた体躯があるのなら、それを生かさない手は無いだろう。最初の体当たりはどうした? 手打ちの剣にいなされるなら、身体ごとぶつかれ! 持ち味を殺すな!!」


「……」


一瞬、何を言っているのか分からなかった。

意味が分かってからも、意味が分からない。


ハインリヒ=セイファートは、真剣な表情で、真剣な声色で、俺に対して改善策を提示しているのだ。


勝負をしている最中に、だぞ?


「――ふ、はは」


思わず笑ってしまった私を、誰が責められる?


その顔からは侮りや嘲りは微塵も見えない。

ただ――もっと来い。

もっとやれるだろう? やってこい、と。


言外に彼は――俺に対してそう言っているだけなのだ。


ガルシア=ディ=リアネス王子としてではない。


ただの一個のガルシアとして――彼は俺を見ていた。



「ハインリヒ、お前……ッ」

「ん?」

「いや――」


言いかけた言葉を、直前で止める。

代わりと言っては何だが――


「――全力でやろう」


俺の言葉に「おう!」と返すハインリヒ。

残る時間を全て注ぎ込み、俺達は剣舞を舞ったのだった。



むさ苦しくてすいません……。

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