004 誰がぼっちよ
昼の授業が終わり、休み時間が訪れると、アルマナは教科書を閉じて教室内の一角へと視線をやる。
――呆れた。
そこには、多数の生徒達に囲まれるハインリヒの姿があった。
王立学院の生徒というのは、何処か閉鎖的である。
実力主義の校風に、庶民と貴族が混ぜられた教室。
己に価値無しと判断されれば、即退学もありえるシビアな学院であるのだから、それは当然と言えるだろう。
だと言うのに――この光景は一体何なのかしら?
ハインリヒ=セイファートが学院へとやってきて、一ヶ月。
まだ、一ヶ月しか経っていないと言うのに……。
既に私よりも、結果を出しているじゃない。
サポート役の優秀さを喜べば良いのか、それとも自身の非力さを嘆けば良いのかしら?
そうこうしていると、彼は私へと近付いてきて――
「よ、アルマナ。飯でも食いに行こうか?」
――そう、爽やかに言ってくる。
実に、爽やかにだ。
「……」
何でしょうね、この違和感……?
……彼、元からこんな性格だったかしら?
大して接してきた訳じゃないので、断言は出来ないけれど――多分違かったと思うわ。ええ。
環境が彼を変えた……?
――え? こんな短期間で?
脳内で必死に頭を捻る私を尻目に、彼は遠慮する生徒達にも空気を読まずに声を掛けていた。
「無理強いは感心しないわよ?」
何も知らない彼に向って、私はそう言ってやる。
仮にも彼等は貴族なのだ。
王候補である兄達の前で、この私と仲良くなんかしたら将来にだって差し支えてしまう。
そんな私と食事? 嫌がるのも無理は無いわ。
「えい」
ポコンと。軽く私の頭に手刀を落とすハインリヒ。
『うわ――ッ!?』
それを見た周囲の生徒は、一同に引く。
やられた私でさえ驚愕しているのだから、そうでしょうとも。
曲がりなりにも王女である私の頭を、平民が叩く?
どんな神経をしているのかしら、この子!?
「ふん――そんなんだから、ぼっちなんだよ」
「――ッ!」
瞬間的に、一気に血の気が昇る。
「貴方ねぇ――ッ!?」
「――ああ、悪い。言い過ぎた」
「ぐッ!?」
怒りの声を上げる瞬間、手の平で待ったを掛けながら、ハインは私の出鼻を挫く。
――ぐ! 機先を制するのが上手い……ッ!?
「――だが言わせて貰うとな、お前のその態度が周囲との壁を作っているんじゃないのか? 無理強い? お前に彼等の何が分かる?」
言って、ハインは尻込みする男子の一人へと声を掛ける。
「なぁピエール。お前だってアルマナと飯食いたいよな?」
「え、そりゃぁ、まぁ……」
「ピエールだけじゃない。ルディンやユーリア……他の連中だって、気持ちは一緒だ。下手な遠慮は彼等を下げる事になるぞ? お前だってそれは、本意じゃないだろう?」
「それは……」
言い澱む私に、突然何を思ったのか、貴族科の少女――ユーリア=マイスティアが私の腕を取る。
「行こう! アルマナちゃん! ハイン君の言う通りだよ!」
「ゆ、ユーリア、さん……?」
唐突なちゃん付けに面喰いながら、私は興奮する少女に口元を引き攣らせた。
縋り付くユーリアの影に隠れながら、ハインリヒが薄く笑ったのを私は見逃さない。
――何か、仕組んだわね……ッ! 余計な事をッ!
「……そうだね。折角同じ教室になれたんだから、俺もアルマナさんとは仲良くしたいなぁ」
「貴方まで……」
驚く私に、照れた様に笑うルディン君。
一般科の少年、ルディン=シュトラウス。
貴族科の少女、ユーリア=マイスティア。
この二人の共通点は、何方も度が付くほどのお人好しという点でしょうね。生徒達が競い合う王立学院。そのトップクラスにありながら、こういった感性を持つ彼等は、教室内でも人気がある。
それを――ハインリヒは利用したのでしょう。
「俺も!」「私も!」――と、徐々に増えていく立候補者。
オロオロとする私を見物しながら、
「よし、じゃあ皆で行こうぜ! 今日はアルマナの交流会だ!食って食って食い捲ろう!! 飯代はアルマナが奢ってくれるぞ!」
――随分と勝手な事を、宣言するハイン。
私の思惑は別として、盛り上がりを見せる周囲。
これは何というか、アレね――
「――後で覚えておきなさい、ハインリヒ=セイファート」
経過日数31日。
ハインリヒ――人心掌握率60%
アルマナ――人心掌握率15%




