003 第一印象は大事です
「えーっと……ハインリヒ=セイファートって言います。頭が良くて喧嘩も強いです。地元じゃ神童って呼ばれてブイブイ言わしてました。よろしくお願いします」
適当な自己紹介の後、自分の席へと着く俺。
学園生活なんて初めてだからなぁ……勝手が分からん。
今の紹介で良かったのだろうか? 少し不安だ。
何だか、周りの生徒の反応も静かだし。
「それでは、仲良くやる様に」
言い残して、担任の冴えない教師は教室から出ていく。
その瞬間――
「ねぇねぇ、ハインリヒ君! ハインリヒ君って彼女いるの?」
「睫毛長くない? 顔も整ってるし、マジイケメン!」
「地元って何処出身なの!?」
「良くこの学院で飛び級なんて出来たわね!?」
「勉強が得意なのかしら? 教えて欲し~い!」
生徒――主に女生徒からの熱烈な歓迎を受け――俺は。
「……お、おう」
若干、引いてしまうのだった。
◆
授業を受けながら周囲の生徒を観察し、分かった事がある。
このクラスは、大まかに二つのグループに分けられるのだ。
一つは、貴族グループ。
家柄の良い彼等は、決まって貴族とばかり話している。
女子の方は俺に話し掛けて来たように、まだマシなのかも知れないが、男子の方は選民意識が強いのがはっきりと伝わる。
もう一つは、秀才グループ。
家柄では無く、実力で入学してきた生徒達の事だ。
上昇志向が強く、貴族の生徒に比べて余裕が無い様な印象。
何方かと言えば俺と似た立場だから、仲良くはしたいのだが……此方のグループからは誰一人話し掛けて貰っていない。
彼等のグループの中にも、それぞれリーダー格の存在はいる。
それが――クロードとガルシアだ。
貴族派のリーダーがクロード。
秀才派のリーダーがガルシア。
そうして、一人孤立しているのが、アルマナだ。
正直意外だったのだが、アルマナの奴……友達いないのな?
まぁ、周りを見て見れば癖の強い奴ばかりだし、同じ教室に王位を争う兄二人がいるのだ。そりゃ、おいそれと友人なんて作れないよな。分かっちゃいるが――コイツはキツイ。
この学院にアルマナのサポート役として来ている以上、このぼっちの状況を俺が解決しなきゃいけないって事だろう?
いやぁ、難しい。
正直、何も手が思い付かない。
ま、暫くは普通に学校生活を送って、周囲と溶け込むしかないな。
◆
ハインリヒが学院へとやってきて、一週間が経過していた。
貴族の女子にチヤホヤされる彼を見ながら、同じく貴族である男子生徒達は彼に対し、反感を抱いていた。
「気に入らねぇな、ハインリヒ=セイファート」
男子の一人が、声を上げる。
「ちょっと顔が良いだけだぜ? 女共も馬鹿だよなぁ? あんな庶民に熱を上げちゃってさ!」
「お前のお気にのローズもアイツにお熱だしな?」
「あぁ!? そういうお前だって、許嫁のケイトを取られて悔しがってただろうがッ!!」
「なッ!? それを言うかお前ッ!!」
「はいはいはい、止めろ止めろ!」
暴れそうになる生徒を、制止させる貴族達。
「……やっぱ、クロードに言った方が良いんじゃないか?」
小説を読みながら、一人の貴族がそう呟く。
「俺達みたいな下級貴族、相手にされる訳ないだろう?」
「そもそも、親衛隊の連中に阻まれて、近づけねぇし」
「貴族と言っても、所詮俺達は木っ端よ木っ端」
「何か、聞いてたら悲しくなってきた」
「……俺も」
「っていうか、今はハインリヒの話じゃねーの?」
「そうだ――ハインリヒだ! あの野郎は……ッ!」
「俺が――どうかしたのか?」
『……ッ!!!』
男子達が声に振り返ると、そこには大量の女子を引き連れた白銀の髪の少年――ハインリヒ=セイファートの姿があった。
「どうしたのーハインくぅん?」
「いや、ちょっと名を呼ばれた気がしてな」
「ピエール達じゃん、気にしなくて良いんじゃない?」
『うぐ……ッ!』
その、あからさまな差別に、ぐさりと胸を抉られる男子一同。
そんな時だ――
「おや――この本は?」
「あ……」
男子生徒の一人が読んでいた小説を、目敏く見付けたハインは、彼からその本を受け取りその頁を捲る。
「これは……ジュスティーヌ=モンティの傑作だな!」
「――!」
「じゅすてぃーぬ?」
「何それ? 知らなーい」
「多くは恋愛小説を書く作家の作品だ。一世代前に流行した名作。こんな本を読んでいるという事は、君は随分と博識な人なんだな?」
「え、いやそんな……お袋が読んでただけだし……」
「そうか。受け継がれる物があるっていうのは、良い事だよな。君達も知らないのなら読んでみると良い。彼、センス良いよ」
『へぇ~~ッ!!』
ハインリヒの言葉に、男子生徒を見直す女子達。
中には彼へと「面白い本があったら貸してよ」と、交渉しだす生徒まで出ていた。
さっきまでとは打って変わって――モテモテだ。
その様子に、ごくりと唾を飲み込む男子達。
「……おや? よく見れば君のその制服のボタン――」
「え!?」
ハインリヒの品評会は、こうして更に続いていく……。
「有意義な話が出来たな! それじゃ、また!」
言って、女子を伴いながら去っていくハインリヒ。
残された男達は思った。
『アイツ――めっちゃ良い奴じゃんッ!!!』
――と。
経過日数7日。
ハインリヒ――人心掌握率30%




