002 王都出発!~ハインの入学試験~
ハインリヒ=セイファートの王立学院入学の報は、傭兵団内部にも波及して伝わっていた。
中には――
「学院? あんな所、時間の無駄ですよ!? そんな事より、私と一緒に魔術を研究しましょう! まだまだ先生には教わりたい事が一杯あるんです!!」
反対し、難色を示すもの。
「学院って……? え、学校? アンタ、マジに年下だったんだな……いや、最初から知ってたけど、なんつーか、再確認させられたというか……ま、頑張ってくれや」
驚き、呆気に取られるもの。
「王立学院ですか……ッ!? 凄い事じゃないですか! 是非行くべきですよ! え? 拒否権がない? ……なら、尚更ありがたいじゃないですか! 何せ名門ですからね。通いたくても通えない人は一杯いますし、俺も昔、憧れていたなぁ……ッ!!」
賛成し、背中を押してくるもの。
「は? 学校……? うわー面倒臭そう……同情するわ。ま、アタシには関係ねぇ事だけど……」
同情しつつも、突き放すもの。
四者四様。
様々な反応が返ってきていた。
そんな中、次々と入学の手続きは進められ――
カレル暦206年。
獅子の月、深樹の曜日。
俺が、16才の誕生日を迎えた翌日。
「先生、行かないでー!!」
「頑張ってきて下さい、隊長!!」
「さっさと戻って来いよ、団長さんよ!」
「まぁ、適当にな……あ!お土産よろしく!」
「ゆっくり勉学に励んで下さいね、ハイン君!」
傭兵団の団員+シスターに見送られながら、俺はアルマナの用意した馬車で王都へと出発した。
気分は売られていく子牛の様。
思い思いの言葉を投げる仲間達に、窓から白い眼をしながら手を振り返す俺。
「ハイン!!」
「っ……キッチェか」
「寂しがらないでねー!!」
「……」
ブンブンと手を振りながら、馬車を追い掛け、叫ぶキッチェ。
「暇な時、遊びに行くからー!!」
「……ふん」
その言葉を聞いて、一度座りかけた動きが止まる。
「誰が寂しがるか、ボケー!! お前こそ、俺がいなくて泣いたりするなよッ!!」
思いっきり叫んでやる。
遠くで小さく「頑張るー」と言った返事は聞こえたが……実際どうだか。キッチェの奴は寂しがりだからな!
「ふふ」
「何だよ?」
「いえ、何も」
大股開きで席に座る俺へと、目の前のアルマナは生暖かい視線を送ってくる。
……チッ。何ともやり難い。
……これもそれも全部、能天気なキッチェの所為だ。
◆
馬車で揺られ、気が付けば王都へと辿り着いていた。
何も不測の事態が起こらなくて、何よりだ。
固まった身体を解しながら、馬車から先に降り、次に降りるアルマナをエスコートする。
本当ならレシィの奴の役割なんだろうが、アイツは別の馬車に乗っていたので、その代わりだ。
目の前に立つデカい門は、王立学院のものか。
あまりの敷地の広さに、此処からでは校舎すら見えない。
「一先ず、校長室へと行きましょう」
「こんな夜に、大丈夫か?」
「入学試験を合格しなきゃ、寮にも入れないから仕方が無いわ」
「……ちょっと待て、入学試験だと?」
聞いていないぞ、そんな事。
「簡単なペーパーテストよ。貴方なら余裕だわ」
「……」
押し黙る俺に、遅れてやってきたレシィが声を掛ける。
「どうした、何か問題でもあったかよ?」
「いや……ただ、面倒臭い事が増えたと思っただけだ」
「ふうん? 何でも良いが、私は学生じゃねぇから、護衛出来るのは此処までだ。門の外で待ってるから、手早く頼んだぜ?」
「はいはい……」
言って、俺はアルマナに案内されるがまま、校内へと入っていく。
城の敷地だと言われても、遜色ない程の豪華な庭を通り抜け、想像通りの巨大な校舎の中へと入っていく。
「此処でパーティーをしたら、盛り上がるだろうなぁ」
「そういう催しもあるわよ?」
「へぇ? 楽しかった?」
「相手をするのは、貴族の子達が大半なのよ?」
「成程、それは肩が凝りそうだ……」
話しながら歩いていると、やがて目的地に辿り着いたのか、目の前の両面開きの木の扉を、アルマナはノックする。
「――どうぞ」
返事と共に入った室内には、一人の女性が立っていた。
青白く長い髪を上で纏めた髪型。細長いフレームの眼鏡の下、その目元にある泣きボクロが印象的だった。体のラインに沿う様なスーツは、彼女の女性的な胸元には苦しそうに見える。良い歳を行っているのだろうが、際立つのはその美貌だろう。大人であるとしか、答えようがない。
「――貴方が、ハインリヒ=セイファート?」
値踏みするかのような視線を送られながら、俺は黙って頷いた。
「娘から優秀な子だと聞かされていますが……成程。余計な口を利かない点は好感触ですね」
「……どうも」
言いながら、俺は――娘?と、心中で疑問を呟く。
「紹介が遅れたわね。私は王立学院の校長をしています、フルセア=ディ=リアネス。アルマナの母――と言えば、分かりますね?」
「――はい」
全く分からないが、とりあえず良い返事はしておこう。
「娘の推薦があったとはいえ、編入はそれ相応の試験を得てから、承諾されます。ハインリヒ君は――娘と同じクラス。つまり、飛び級を希望しているという事で相違ありませんね?」
「はい」
初耳ですが、はい。
「――となれば、試験もその分難易度の高いものになります。例え不合格になったとしても、肩を落とさぬように」
言いながら、フルセアという校長は俺を隣の部屋へと案内する。
アルマナとは暫しのお別れらしい。
にこりとした表情で手を振る姫様には、何か一言言ってやりたかったが、そんな時間も存在しない。
通された室内で、用意された机の席へと座る俺。
筆記用具は……ああ、貸してくれるのね。
助かった。
てか、こういうちゃんとしたテストとか、初めて受けるんだが、大丈夫だろうか?
……落ちたら、さっさと帰ろう。
俺は内心決意を固めながら、用意されたテスト用紙を机に置く。
どうやら、まだ内容は見ちゃいけないらしい。
裏返しにしたままの用紙に目を落としていると「それでは、開始して下さい」と、校長からの合図が出される。
「……」
溜息を堪えながら、テスト用紙をひっくり返し、内容を確認する。
「――」
俺は、その内容に思わず校長の目を見てしまった。
彼女は俺の視線に気付いているとは思うが、何も言わない。
おいおい……。
何だ、この内容……。
ふざけてるのか……?
滅茶苦茶――簡単じゃないかッ!?
王立学院って、一応リアネス王国一の名門校なんだよな?
何だ、このレベルの低さ。
簡単すぎて、すいすい答えが書けてしまうぞ?
正直、肩透かしだ。
このレベルの問題ならば、三才の頃の俺でも余裕だっただろう。
「……」
いや、待てよ……?
そうか、そういう事か。
アルマナの奴め、根回しをしておいたな?
試験という形式は必ず取らなければいけないが、その内容を変えてはいけないという事は無いのだろう。
母である校長と結託し、俺に簡単な問題を出したのだろう。
試験開始前に、高難度であると繰り返し言ったのは、それを俺に言外に伝え、安心させる為か。
全く、余計な真似を。
だが、それならば気兼ねなく解いてしまおう。
「終わりました」
言って俺は、十分も経たない内に答案を校長へ返した。
「……もう、良いのですか?」
「時間を掛けるのも馬鹿らしいですからね」
夜も遅いし、此処までお膳立てされたのなら、パッパと終わらした方が互いの為にもなるだろう。
そのまま席を立ち、アルマナの待つ校長室へと戻る俺。
「よう、終わったぞ?」
「……まだ、十分しか経っていないけれど……?」
「待たせるのも悪いしな」
「……」
「あ、でも、結果が出るまでは待たなきゃいけないんだっけか?」
「面倒だなぁ」と呟きながら、俺は別室の校長が帰ってくるのを、今か今かと待ち続けた。
そうして――十分後。
「合格です。此処に貴方が泊まる宿舎の地図を用意しました。コレを持って、今日は休みなさい」
「お!ありがとうございます!」
「……アルマナは、少し残る様に」
「はい……」
何だ、何か話でもあるのか?
ま、それなら仕方がない。
「それじゃ、俺は行くぞ?」
「ええ、また明日会いましょう」
軽く別れの言葉を口にしながら、俺は校長室を出ていく。
いやー本当に、簡単で良かった良かった。
◆
ハインリヒが去った室内で、取り残されたフルセアは、アルマナを見詰めながら、溜息を吐く。
「とんもない子を連れて来たわね……アルマナ?」
「お母さん、ハインの答案は?」
「全問正解……それも最速で」
フルセアの言葉に、思わず息を呑むアルマナ。
「退学したレイド君も優秀だったけれど、彼は桁が違うわね」
「……」
「良く、あんな人材を見付けた事……いや、そもそも、眠っていた事に驚きが隠せないわ」
言って、フルセアは椅子へと腰掛ける。
「本気で狙うのね……王位を」
「……はい」
「昔から何を考えているのか、分からない子だったけれど……」
「そうする事しか、道が無いのなら――」
力を付ける事で、あの結末を回避出来るのならば――
「――私は、リアネスの王になります」
宣言するアルマナと、目を逸らすフルセア。
「……辛い道よ?」
「元より、覚悟の上です」
「……なら、私には何も言えないわね」
寂しそうな母の呟きを聞きながら、アルマナは一言を添えて校長室から出ていく。
――母が私の身を案じているのは分かっている。
――だからこそ私は、あの結末を変えなければいけないのよ。
一旦、更新は不定期になります。
早めに続きを出せるようにしますので、何卒お願いします。




