001 ハインリヒ、学校へ行く
――夢を見た。
それは、何度も何度も繰り返し見た、私の終わり。
生まれてきた時から私は、自身の死を予見していた。
燃え盛る王都。
積みあがる亡骸。
近付く影は――私の、死だ。
漆黒の暴虐。
その影が持つ、禍々しき神剣に――私は貫かれる。
夢のヴィジョンはそこで、いつも終わりを告げる。
抗う術など何もない。
――予見は絶対だ。
……けれど。
『ありがとよ、アルマナ……』
深紅の髪色をした親友が、私に向かって言ったのだ。
『――私の代わりに、諦めないでくれて、ありがとう』
私の顔を正面から見据えて――レシィは私にそう言ったのだ。
馬鹿ね……。
そんな顔で、そんな事を言われたら。
私だって、運命に抗いたくなるじゃない。
鍵はきっと、あの少年が握っている。
「まずはそうね――王位を得る事から始めましょうか?」
言って、私――アルマナ=ディ=リアネスは、ベッドから立ち上がるのだった。
◆
カレル暦206年。
初月、黒土の曜日。
俺――ハインリヒ=セイファートは、何時もの様に傭兵団本部の団長室で執務をしていた。
現在、本部にいるのは俺一人だけ。
シュチャや子供達はテレサと一緒に孤児院にいるし、キッチェの奴もケーキ屋で働いている時間だ。
プレアの奴は……最近忙しいのか、ちょくちょく姿を消している。
傭兵団の活動?
ああ、勿論それはやっているさ。
今もザンスが持ってきた、討伐依頼をこなしている。
今日は2チームに別れさせてみた。
Aチームは、ファングとレイド。
Bチームは、ルーシーとグエン。
それぞれBランク級の魔物を討伐、素材を剥ぎ取りに行かせている。
一人余った俺は、溜まった書類を片付けているという訳だ。
面倒だが、これもまぁ団長の仕事だ。
一息を吐き、手元に用意していた果汁水入りのグラスを傾けていると、執務室の扉がノックされた。
――もう、帰って来たのか?
流石に早過ぎる様な? まぁいいか……。
「どうぞー」
机の上の書類に視線を落としながら、俺は適当に返事をする。
すると――
「よおハインリヒ! 久しぶりだなぁッ!!」
「……レシィ?」
満面の笑みを浮かべながら、団長室へと入ってくる赤い少女。
レシィ=クリムゾン。
王都にいる筈のこいつが、何でポンペイに?
疑問に思う俺に、レシィの背後にいた青い少女が、咳払いをする。
「アルマナ……お前もか」
「正確には、私が貴方に用事があるんですけれどね?」
「じゃあ、こいつは?」
「ただのオマケよ」
「おい!?」
ツッコミを入れるレシィに、くすくすと笑うアルマナ。
相変わらず仲の良い事で。
「……レシィには、私の護衛として付いてきて貰ったの」
「まぁ知ってる」
「なら、一々言わせんなよ……」
疲れた様に肩を落とすレシィ。
可哀想だから、そろそろ弄るのはやめてあげよう。
「で、本題は何だ? 俺に何の用がある?」
「ハインリヒ=セイファート。傭兵団【我神】の団長である貴方に、正式な依頼を持ってきました」
「……」
「父――シャルル=ディ=リアネスが、己の後継者を探しているのは知っているでしょう?」
「――ああ、シャルル王も高齢だしな。自身の子供から次の王を選ぶとかいう……アレだろう?」
「本来であれば、次期王は正室の息子であるクロード兄さんに決まっているのですが、父は自身の子供に平等な機会を与えようと考えています」
「……平等、ねぇ」
クロード=ディ=リアネスにしてみれば、不愉快な事だろう。
思わず、心中を察してしまう。
「王位を継承する者は、優れた者でなくてはならない。つまり、私達が王立学院を卒業する、今年が一番の勝負なのよ」
「卒業……? あー、そういう事か」
コイツ、飛び級してるのか。
兄と同じ土俵で戦う為に。
王立学院というのは、基本的に14才から入学し、18才までに卒業するのだが――俺と同い年のアルマナは今年で16才の筈だ。
つまり、二年も授業をすっ飛ばして、年上の連中としのぎを削っていたという訳だ。
普通の学校ならまだ分かるが、王立学院と言えば、リアネス中の俊才達が集まる名門だぞ?
よくやるなぁと、思わず感心してしまう。
「――そこで、貴方の力を借りたい」
「……?」
……え、何処で?
……今の話の流れで、俺が介入出来る余地なんて、あったか?
「ハインリヒ=セイファート。貴方には学院の中での私のサポートをお願いしたいのです。勉学での家庭教師の様なものから、課外授業での私を立てる様な行動、妨害を行う他の王族派閥の抑止になって欲しいの」
「……」
それってつまり……。
「俺に――学校に通えと? ……そういう事か?」
俺の言葉に、アルマナは頷く。
「期間は一年」
「……」
「貴方には――私と一緒に、王立学院へと通って貰います」
「……拒否権は?」
「無いわ」
……なんでやねん。
思わず、心中でツッコミを入れる俺であった。




