003 ハイン・ターン~命名、我神団~
カレル暦205年。
獅子の月、緑翠の曜日。
城塞都市ポンペイ、傭兵団本部にて――
「よっしゃお前らッ!! グラスを持てぇッ!!!」
俺――ハインリヒ=セイファートは、並べられた数々の料理を目の前に、席へと並ぶ連中に声を出す。
楽しそうにする、シュチャを筆頭とした子供達とキッチェ。
やれやれと言った体のルーシーとファング。
真面目なのはレイドとグエンだ。
優しい表情で、俺や周囲を見守るテレサ。
スネップとプレアは……おい、何でもう食ってんだ!?
ベリーも真似しちゃってるし! まぁ、良いか……。
「行くぞぉッ!! さん、ハイッ!!」
『――ハインリヒ! 誕生日おめでとうー!!』
言葉と同時に、グラスのかち合う音が広がる。
そう、この日俺は――ついに、15才の誕生日を迎えるのだった。
長かった……。
何か、非常に長かった。
「……自分の誕生日を此処まで盛大に祝わせる奴、初めて見たぜ」
「ハッ!俺からしてみりゃこんな規模、小さい小さい!」
呆れるファングに向けて、俺はそう言ってやる。
実際、昔は村総出で祝った事もあったしな。
「ま、ただ飯が食えるんなら、アタシは何でも良いけどな!」
「ルーシー、口にクリーム……」
「お、悪いなベリー!」
「平気……スネップより、世話掛からない……」
そう言うスネップはどうなっているかと言うと……。
「ヒィ! 亜人の子達が一杯!! ごめんよぉ、本当にごめんよぉ」
「……テレサお姉ちゃん、何でこの人泣いてるの?」
「さぁ、何でかしら?……そのままにしてあげましょう?」
「うん!」
泣き上戸か、アイツは……。
酒が入ってオイオイと泣きながら、シュチャへと抱き着くスネップ。平常時ならば完全に事案だな。
テレサが動かない以上は、問題は無いのだろうが……シュチャには面倒な事をさせてしまっているな。
「食ってるかー、二人とも?」
「先生!」
「隊長!」
俺が声を掛けると、レイドとグエンは、喜んだ顔をして此方を見る。
「……どうでも良いが、その呼び方、統一しないの?」
一応俺、先生でも隊長でも無いんだけど……。
呆れる俺に、二人は――
「隊長は、隊長ですから!」
「先生は僕の先生です!!」
――と、何とも素敵な言葉を返してくれた。
うん。――とりあえず、一周、周り終わったかな?
思いながら、俺はキッチェの隣の席へと腰を下ろす。
傭兵団も、随分と賑やかになった。
俺はポケットに入れていた手帳を取り出し、開く。
手帳の表紙には『傭兵団㊙人員名簿』と書かれている。
団員№01『レイド=レヴァノフ』【A~?】
団員№02『ルーシー=スカイバーン』【B】
団員№03『グエン=ドウェン』【C】
団員№04『ファング=コードレス』【A】
今の所、記しているのは戦闘員だけだが、充分だろう。
名前の隣は暫定的な戦闘ランクだ。
俺の独断と偏見で付けたから、皆には見せられないし、ランクだって正確なものではない。
あくまで目安として、クエストを任せる指標としている。
……出来るなら、テレサ=エンフィールもこの中に加えたいと思っていたのだが……断られてしまった。残念。
彼女の場合は孤児院の運営もあるし、仕方が無いか。
「ねぇねぇ、ハイン!」
「ん? どうした、キッチェ? おかわりならまだあるぞ?」
手に持った手帳をポケットに仕舞いながら、俺はキッチェに向かってそう言った。
「違うよー! そうじゃなくて、名前だよー!」
「は? 名前?」
一体、何の話をしてるんだ、コイツは。
「傭兵団の名前! 付けないのって話!!」
「傭兵団の、名前……」
考えた事も無かったが……確かに、これから必要かも知れない。
見れば、周囲の連中も俺とキッチェの話題に食い付いて来ている。
「はいはい!――ハインリヒ先生と愉快な仲間達!!」
「何だそりゃ、ふざけんなッ! 黒狼戦士団ってのはどうよ!?」
「まるで貴方が団長みたいじゃないですか!? 此処は正義の団という事で、ジャスティス・ガードというのはどうですか!」
「うへぇ……勘弁しろよ、そういうノリ……なら、煙草の銘柄で、セブン・ピースってのはどうよ?」
「喫煙者は貴方だけでしょう? コホン。決まらないのならば、此処は女神様の名を取って、アルフローディアというのはどうでしょう? 私としては、良い名前だと思うのですが……」
「うーん……」
あーでもない、こーでもないと。
騒然とする場。
「ハインは何か考えてるの?」
「……俺か、俺は――」
シュチャに言われ、俺は自身が考え出した傭兵団の名を口にする。
「決して散らない鉄の華……名付けて、鉄華――」
「――はいはい!は~い!!」
言い終わる前に、キッチェの奴が声を上げる。
何だなんだ、良い所で!?
無駄に元気なキッチェの奴は、紙とペンまで用意して、皆にその名を掲げて見せた。
「傭兵団――我神。神童ハインから取った、傭兵団の名前だよ!」
「……がしん?」
悪くは無いが……ちょっと、字面が強すぎじゃないか?
我神ねぇ……呼ぶ時は【我神団】と呼ぶのだろうか?
皆の反応は、と言うと……。
「ふーん、悪くねぇんじゃねぇか?」
「良いですね、先生の団にピッタリです!」
「恰好良いじゃん。アタシもソレに賛成!」
「お、俺も同じくです!」
――何だか、実に好評であった。
おいおい、良いのかこの名前……。
反対する奴は誰もいないのか!?
一人、まだコメントを出していないテレサへと、俺は思わず目を向ける。すると彼女は、何とも困った顔をしながら――
「恐れ多いとは思いますが……まぁ、ハイン君ですから」
と――有りなのか、そうじゃないのか、今一判断の付かない言葉を返してくれた。
まぁ、良い。
もうやけくそだ。
「決まりだ! これから俺達は、傭兵団――我神を名乗っていく!」
中身の少なくなったグラスを掲げ、俺は宣言する。
「新たなる俺達の門出に――乾杯!!」
夕方にもう一話アップします。




