表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ハインソード・サーガ  作者: 威風
第2章 幕間~胎動する世界~
53/185

002 帝国・ターン~侵攻準備完了~


 カレル暦205年。

 赤雀の月、深樹の曜日。


 アーランド大陸東部。エイムス帝国の最下層・アーバングラウンドにて――私、アルメリアは人形劇に興じていました。


 豪華絢爛。

 煌びやかな自動人形が演じる、悲恋のオペラ。


 下層部には似付かわしくない大劇場にて、私は声を抑えながら、目元に浮かぶ涙を拭います。


 やがて来るカーテンコール。

 拍手喝采を浴びながら、一礼をする自動人形達。



 あぁ――私も、あんな風になれたならなぁ……。



 劇場から出た私は、余韻冷めやらぬ様子で、水溜まりを気にせずにステップを踏みます。



「あぁ! あぁ! 何故あなたはロミィなのッ? これが愛の試練だと言うのなら、これ程までに残酷な事は無い!」



 くるくると回りながら、今度はこちらの台詞。



「あぁ、ジュリア! 愛しき人よ! これが女神ククゥリエが課した試練だと言うならば、僕は必ずソレを乗り越える!」



 言いながら私は、物語に陶酔します。


 良い劇でした――本当に。この日の為に日々の賃金を稼いでいると言っても良いでしょう。


 自動人形……正式にはレプリクスって言うんでしたっけ?


 感情の起伏なんて、人間そのもの。アレが作りものから出た演技とは私には到底思えません。


 それとも、模倣だからこそ美しいのでしょうか?


 本物を目指し、けれど、決して本物にはなれない人形。その儚さにこそ私は美しさを感じていたのかも知れません。



「アルメリアも、あぁなりたいなぁ――」



 何かを演じられるという事は、何者にもなれるという事。


 記憶喪失の私には――それが酷く羨ましい。


 分かっているのは、アルメリアという名前だけ。


 他には何にも。


 偶々世話を焼いてくれた、食堂のカナリア叔母さんがいなければ、きっと今頃野垂れ死んじゃっていると思います。



「私も、何かになりたいなぁ……」



 呟きながら、スモッグの浮かぶ灰色の空を見上げます。


 突き立つ摩天楼は上層の人達の居住区です。その下に中層があり、此処は掃き溜めの下層エリア。


 マナを扱えぬ者達の最後の楽園。


 それが、科学技術の発展したエイムス帝国だと教えられましたが……私は余りピンときません。上層エリアの人達は、また違うのかも知れませんが、此処は水も空気も汚いですし、病気になる人だって多いです。


 おかげで、変な歌だって流行っています。



 ――やってくるよ、怪人イージー=ドゥ。


 ――泥の中から、闇の中から、仮面を着けて現れる。


 ――生き血を吸うよ、イージー=ドゥ。


 ――鉈で刻むよ、イージー=ドゥ。


 ――魂取るよ、イージー=ドゥ。


 ――下層エリアのイージー=ドゥ。摩天楼を見上げるよ。



 確か、こんな歌詞だったと思います。

 何とも陰気な……誰が思い付いた歌なんでしょうね、全く。


 ……別に怖くなんてありませんけど?


 良い趣味とは言えませんよね!



「……あれ?」



 考え事をしていたら、普段と違う道のりを歩いていた自分に気が付きました。下層エリアは細い道で入り組んでいるので、迷いやすく、治安も悪いので、女性の一人歩きには不向きな場所だったりします。


 もしや、また迷子!? 夜も段々更けて来ましたし、このままだと少し不味いかも……。


 そう思った矢先、私の背後から――ポチャリ。と、何か水物が落ちた様な音が響きました。



「え……?」



 振り返ると、そこには黒いアメーバ状のナニカが蠢いていました。一見すると御伽噺に出て来るスライムの様。けれど、スライムってあんなに黒々としたものだったでしょうか? 何とも不気味な……気色が悪い。


「キィ」と言った鳴き声と共に、黒いスライムはその身を分裂させていきます。一体どういう原理でしょう? 元の体積以上に増殖するスライムは、今にもこの細い通路を埋め尽くしそうな勢いです。


 じりじりと後退していく私に気が付いたのか、スライムは勢い良くその身体を噴射し、私へと飛んできました。



「ひぃッ!?」



 ドン臭い私は、手を前に広げて、目を瞑ってしまいます。


 訪れる衝撃にビクビクとしながら、しかし、想像した衝撃が中々やって来ない事に疑問を抱き、恐る恐る目を開きます。


 そこにいたのは――巨軀の怪人でした。



「……イージー=ドゥ……いえ……?」


「……」



 カーキ色のトレンチコートに身を包んだ、仮面の大男。

 その姿は――歌と一緒だった。


 手に掴んだスライムを握り潰し、私を見詰める怪人さん。


 物言わぬ彼の視線を受けながら、私は――脳裏に浮かんだ言葉を口にする。



「……■■、■■?」


「――」



 頭が痛い。

 割れるような痛みです。

 脳裏に浮かぶ膨大な、抽象的なイメージ。


 硝子細工の眼球。黒い蒸気。下卑た笑いを浮かべる老人。穴を開けられていく身体。アイン。豹変した皇帝。鋼鉄の鎧。立ち並ぶ金管。薄暗い窓辺で――私は、私は、私は――ッ



 私は――機能を停止した。







 倒れた少女を抱えながら、イージー=ドゥは空を見上げた。


 雨の水滴を仮面に受けながら、じっと摩天楼を見詰める。


 その足元には、黒いスライムが複数蠢く。


「……」


 イージー=ドゥの足元が一瞬、発光する。

 バチリと言った、電気音。


 己を中心とした電光は石畳の地面を砕き、黒いスライムを全滅させる。身に纏う服が絶縁となっているのか、その電撃は彼のブーツより上へは上って来ない。


 抱えた少女や、焼けて消滅したアメーバに意識すら向けず、彼は摩天楼を見続けた。


 正確には、その中の最も高き塔。


 帝都城――ヴァン・クラウドを見詰めていた。



「……必ズ、這イ上ガル」



 怪人の――決意を秘めた様な呟きは、雨音に消えていく。







「ヴァイス・アームズの調整は完了したよ、博士」



 薄暗い室内で、男の声が響く。

 男の目の前には、一台の端末が置かれていた。



「クケケッ! そうか、遂に……では、動くのか?」



 集音機から発せられる声は、音割れもあるのだろうが、それ以上に声の主の所為で、汚い印象であった。



「博士にとっては試運転だが、我々にとっては大いなる戦だ」


「大いなるぅ?……クケケッ、クケケケッ!」


「……」


「精々、壊さぬようにな。――我が息子よ」



 言葉を最後に、プツンと、通信が切れる。



 暫しの静寂。

 それに身を浸しながら、男は溜息は吐いた。


 扉がノックされたのは、その暫く後であった。



「――入れ」



 言葉と共に、扉が開かれる。

 室内へと入ってきたのは、一人の男性であった。



「失礼致します、皇帝陛下」


「よい」



 言って、エイムス皇帝――グラム=ヴァン=エイムスは、目の前の男を見詰めた。


 マルク=シェトランド。


 エイムス帝国の第一軍、突撃隊長を務める男。歳は30後半。将校としては若い部類だろう。尤も、その顔つきは厳めしく、歳以上に老けて見えるのは、改造手術の代償か。



「リアネス侵攻の準備はどうだ?」


「全て、滞りなく」


「長かったな……」


「……」


「リアネスの事だけではない。マナを扱えぬ者として、差別を受けた我々が、頂点に立つまでの事が、だ」



 マルクは、皇帝の言葉に静かに頷く。

 帝国臣民であるならば、この思いは皆も同様である。


「大気や水を汚し、人間性を捨て我らはこの場に立っている」


「……」


「全ては、傲慢なりしマナの奴隷に鉄槌を下すため」



 腕を振り上げ、拳を握り――エイムス皇帝は宣言する。



「さぁ、幕を開けよう……王都侵攻の開戦である!!」



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング
アズワルド世界地図↓
html>
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ