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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第2章 ~傭兵団結成!城塞都市の攻防編~
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033 追う者と追われる者


「ああああッ!!――あッ!?」


振り被った爪は空を切り、絶叫は困惑へと変わる。


肩で息をしながら――僕、ジェミナ=シンジケートは変わってしまった周囲の風景を見ながら、唖然とした。


「……何だ此処は? ハインリヒ!! 奴は何処へッ!?」


身体に負ったダメージは大きい。

腕を少し動かすだけでも、激痛が走る。


今現在の僕の身体を支えていたのは――怒りであった。


触れられた胸元を抑えながら、僕は歯噛みする。


女だと言ったのか……ッ!

この僕を、女だと……ッ!!


狼にすら成れぬ奇形の人狼と、蔑まれた。

男であり女でもあるこの身体を、幾度呪ったかは分からない。


「……ッ!!」


脳裏に蘇るは、汚され、尊厳を踏み躙られた――過去。

あれ以来、僕は自分自身を男だと思って生きてきた。


周囲の連中だって、一緒だ。

僕を女だと言う者なんて、誰一人存在しない。


存在しなかったのだ……今まではッ!


「ハインリヒ=セイファート……ッ!!」


僕を女と呼んだ。

僕の身体の秘密を知ったアイツだけは――絶対に許さない。


どんな魔法を使ったのかは知らないが、この場所には見覚えがあった。城塞都市郊外、南東に広がるハシュバル草原。


此処ならば、僕の足なら一日で元の場所へと戻れる。


「待っていろ、今すぐ――」


「何を、待つんだにゃ?」


「――ッ!?」


駆けだそうとした僕の背後から、胡散臭い語尾を付けた女の声が掛けられる。


ハシュバル草原。

そうか、此処はこいつ等の勢力圏でもあったな……。



「ニッキィ=ルー……」



忌々しく思いながら、僕は自身に声を掛けた亜人へと振り返る。


ニッキィ=ルー。

茶色い猫耳を頭に生やした、亜人の【猫】の女。

露出の多い部族装束に身を包み、凹凸の少ない身体を惜しげもなく披露する女は、一見すると年端もいかない少女の様である。


こいつが、亜人の中でも大部族である【猫】の族長だというのだから、驚きだ。


実際、戦闘力も大した事は無いだろうに……。

よほど周囲に媚びて来たのだろう。

正直、僕とは相容れないと思う。


「驚いたにゃ! いきなり現れたにゃ! どういう原理かにゃ?」

「……」

「なぁジェミにゃ」

「――ジェミナ、だッ」


「……細かい事は気にするにゃ。お前が此処にいるって事は、人間に負けたって事で良いのかにゃ?」


「誰がッ!? まだ僕は負けていないッ!!」

「そんなボロボロの姿で凄んでも、説得力無いにゃー」

「……ッ!」


「戦いは数だにゃ。幾ら人間が弱っちくても、アイツらは一杯にゃ。潰しても潰しても増えていく……数の少ないこっちはジリ貧にゃ。一部族の戦力で勝てる訳が無いんだにゃ」


……言われるまでもない。そんな事は、分かっている。


ポンペイへと攻めると決まった瞬間、僕は【狼】の敗北を確信した。

逃げるのにも、捨てるのにも躊躇は無かった。


なのに――


「ジェミにゃは分かっていたのに、何で態々戻ったのかにゃ~?」

「……」


「ウチの停戦交渉を聞いて、戦闘を止めたのもそう……ジェミにゃは強かったにゃ。たった一人でウチらを相手にして、こっちは殆どボロボロ。交渉に応じる必要なんて無かったにゃ?」


「……」


「何であんなに急いで、ポンペイへと戻ったんにゃ? 同族が嫌いと言っていたけど……矛盾するんじゃないかにゃ?」


「……黙れ」


「――結局のところ、君は中途半端ニャ。全てに置いて――」


言って、ニッキィは右手を挙げた。


瞬間――己の身体を、矢が貫いた。


「ぐ――ッ!?」


四方八方から降り注ぐ矢。

万全な状態であるなら躱せるソレも、今は対処が難しい。

両手両足に突き刺さった矢をそのままに、僕は駆け出す。


目の前の【猫】を、縊り殺す。


殺意を持って駆け出した足は――ニッキィから浮かぶ笑みを目撃し、進路を変更する。


「チッ――」


彼女を追い越すように跳躍し、そのまま草原を駆け抜ける僕。


ニッキィから一瞬感じた、死のヴィジョン。


ソレに舌打ちをしながら、僕は追い掛けてくる【猫】の兵士達を撒く様に走るのだった。







「惜しかったにゃ~」


言いながら、ウチは己の背後に潜む戦士へと視線をやる。


「……」


フィリル=シェラザード。

長身痩躯の黒猫は、普段通りの陰気な空気を醸しつつ、行っていた隠形を解除した。


一体全体、この身体で……どうやって隠れてんだにゃ?


自身の身長と倍する高さを持つ彼女を見上げながら、首を捻る。

まぁ、毎度の事だから別に良いけどにゃ!


「……行かせて……良かったの……?」

「部族のみんにゃには追撃を任せてるし、まぁ大丈夫にゃ!」


ジェミナ=シンジケート。

あの怪我であれだけ動けるとは……恐るべし戦闘能力だにゃ。


ポンペイに攻め込んだ【狼】共は、どう考えても終わりだにゃ。期せずして、これで殆どの亜人統一は果たされた。


見逃してやっても良いのかも知れないにゃけど――


「憂いは取り除くのが一番にゃ!」

「……じゃあ、追うね……?」

「任せたにゃ!!」


徹底的な追撃をしよう。

バイバイにゃ、ジェミにゃ。


次生まれてくる時は――【猫】だと良いにゃ!


音もなく、フッと、目の前から消えるフィリル。

相変わらず幽霊みたいにゃ女にゃ。

けど、その強さは一品。


今のジェミにゃでは、逆立ちしても勝てないにゃ。


「それにしても――にゃ」


城塞都市ポンペイ。

思った以上の魔境だったみたいにゃ。


王国騎士団が参戦したという話は無いから、都市の自警団が独力で解決したという事なんにゃが……それには違和感があるにゃ。


何より――遠目で見えた、あの竜巻。


ジェミにゃは「ハインリヒ」とか叫んでいたにゃー。


「天災でも、いるのかにゃー?」


「怖い怖い」と呟きながら、ウチは笑みを浮かべる。


周辺最大の部族は【猫】に決まったにゃ。

人間なんて、どうでも良い。


これでもう、おっかない事も終わりだにゃ。



「後は精々、勝手に戦い続けてくれだにゃ――人間共」


これにて第二章は終了しました!

続きは幕間。各勢力の視点から数話続き、三章へと続いていく形です。

面白いと思った方は、是非ブクマ&評価&感想などお願いします。作者のモチベになります!

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