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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第2章 ~傭兵団結成!城塞都市の攻防編~
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026 ハインリヒ VS ファング~お前、負けたがってるだろ?~


「レイド、お前は此処で待機な?」

「ええ!?」


教会の礼拝堂で【狼】の亜人を鎮圧した俺は、相変わらずブツブツと何かを呟いているレイドに向けて、そう言った。


「な、何故ですか先生!? もっと先生の戦いを見たいのにッ!」

「……お前には教会の防備を頼みたいんだよ」


頭を掻きながら、呆れた様に俺は言う。


未だ外は亜人の暴徒で一杯だ。

第二、第三と、教会に攻めてくる輩が出ないとは言い切れない。


「単体で置いといても大丈夫そうな戦力は、今んとこお前だけだ」

「――ッ!」

「ガキ共を守ってやってくれ」


頼んだぞ。

と、言外に俺が言うと、レイドの奴は歓喜に打ち震え――


「お任せあれ!」


――と、元気な返事をしてくれた。……ちょろい。


「シュチャ。悪い、ちょっと行ってくるわ」


「ハイン、何処行くの……?」


「領主の館だな。面倒臭いが、あそこを落とされたらソレこそ連中の歯止めが利かなくなる。……シスター・テレサも、同じ事を思ったんじゃないかな?」


だから大事な子供達を放っといて、教会から飛び出したのだろう。


……戦える人だというのは気付いていたが――無茶をする。


「君の事だから、心配はしてないけど……シスターを頼んだよ?」

「任せておけ。お前も子供達を頼んだぞ?」

「――ん。任された」


プレアと会話を交わし、今度はキッチェへと、顔を向ける。


「行ってくるぞ?」

「うん!」

「怪我、すんなよな?」

「うん!」

「……」

「……えへへ」


本当に分かってんのかなぁ、コイツ。

茶色い癖毛を、わしゃわしゃと手で掻き混ぜてやる。


「隊長、俺達は――」


「都市内部の自警団と合流し、民衆を避難させろ。暴徒の鎮圧はそれからだ。分かっているとは思うが、集団行動は徹底しろよ?」


「了解!」


気持ちの良い返事をし、同僚たちへと指示を飛ばすグエンを見ながら、俺は安心して教会を飛び出した。




◆




領主の館へとやってきた俺は、その光景に困惑する。


壊れた玄関に、燃える石畳。

至る所で倒れている、自警団と思われる兵士達。



ボロボロの姿で膝をつく、ルーシー=スカイバーン。


倒れたまま顔だけを何とか動かす、テレサ=エンフィール。


泣き崩れ、何かを叫ぶスネップ=アノンドロワ。


困惑した様子を見せる、黒銀の【狼】


腹に矢を受けた――亜人の少女。



出遅れてしまった間に、何かあったんだろうな。

喚くスネップの首を掴み、持ち上げる【狼】


一見、絶体絶命の様子に見えるが――あの【狼】迷っているな。


ルーシー=スカイバーンは言っていた。

スネップの奴はまだ、大丈夫だと。

まだ引き返せると。


倒れた少女と、覚悟を決めた様なスネップの姿を見比べる。


「……成程、な」


ほんの僅か口元を歪めながら、俺は事件の中心へと近付いた。




「――やめておけ」




「!!!」



スネップを掴まえた【狼】に向けて、俺は声を掛けた。


……そんなに驚くなよ。

……気配は消していたが、もっと警戒していれば気付けただろうに。


……それだけ、目の前の事に集中していたのだろう。

……余裕がなかったとも、取れるがな。



「何だテメエ、いつからそこにいたッ!?」



【狼】の疑問に、俺は答えない。代わりにもっと近付いてやる。


「嫌々暴力を振るってどうする? 後で後悔するだけだぞ?」


「……な、にぃ?」


――射程圏内。【狼】の間合いへと侵入する。


「馬鹿が!」


空いた左手で俺を切り裂こうと言うのだろう。


その速度――欠伸が出る程、遅すぎる。


「――なッ!?」


薙ぎ払われた爪の一撃を、手でなぞる様にして逸らしてやると、目の前の【狼】は驚愕した様な声を上げる。


どうでも良いが、邪魔をしないで頂きたい。


俺が今、用があるのはお前じゃないんだから……。



「――まだ、息があるな」

「ハイン君……」

「泣くなよ、スネップ。……男だろう?」


言いながら俺は、倒れた少女へと屈み、回復魔法を行使する。


痛々しくも、突き刺さった矢を引き抜き――出血が加速せぬよう患部に集中して魔法を使用する。


青白かった少女の顔は、やがて血の気が戻っていき――



「スゥ……スゥ……」

「……よし」



――その傷を、全快させる。



「――ッ!!!」



驚愕に目を見開く、両者。

亜人の男に至っては、掴んだスネップを思わず放してしまっいる。



よろよろと、少女へと近寄るスネップ。

穏やかな寝息を立てる少女の手を取り、スネップは――泣いた。



「う、ううううう!! ベリー……ッ! ベリー……ッ!!」



「良かった……良かった……」と、嗚咽を零す貴族の少年。



そんな彼の様子を目の前にした【狼】は――動けなかった。


こいつも、随分と迷っているなぁ……。


まぁ、俺には関係ないけど……。



「……ん?」



そう、思っていたのだが――何故か【狼】君は俺へとガンを飛ばす。



「随分と引っ掻き回してくれたなぁ――ガキッ!」

「……」

「聖術師か何かか? 素人目にもレベルの高けぇ回復魔術だった」

「……」

「だが――直接の戦闘ならどうだろうなぁ?」



やる気十分と言わんばかりに、目の前の【狼】は俺へとその爪を伸ばして見せる。


あぁ、成程――そういう事か。




「お前――負けたがってるんだな?」




「――ッ!!?」


「乱暴な言葉使いで誤魔化してるつもりか? 戦意が薄い。気力も萎えている。だが――それでも止まれないから、俺に介錯を頼んでいるのだろう?」


つくづく、面倒臭い男だ。


スネップ=アノンドロワに感化され、その怒りは雲散している。

もう戦う理由など無いというのに……自分では決して止まれない。


――不器用な奴。



「――まぁ、嫌いじゃねぇよ」



「!!」



「ちょっとだけで良いなら、相手してやるさ」


「……人間がッ」



さぁ――来い。



「そんな台詞、吐いてんじゃねぇ――ッ!!!」



叫び、俺へと突進する【狼】


その身体には黒炎を纏い、その毛皮も相まって見るからに熱そうだった。


なので――消火する。


無詠唱多重奏展開。水の第六魔法『ハイドロ・プレス』


滝の様な鉄砲水が、前方に展開した魔法陣から放出される。


「当たるか! んなもんッ!!」


空中で姿勢を制御した【狼】は、迫り来る大質量の水を回避する。


が――足元がお留守だ。


「――なッ!」


「読み通り」


亜人の【狼】が着地する瞬間――その足元に『ハイドロ・プレス』の魔法陣が展開される。


だからこその多重奏。

水とは――落ちるばかりが芸ではない。


「ぐわ――ッ」


下からの水の噴出に【狼】は、宙へとその身を飛ばされる。

濡れた毛皮に黒炎は燻りを見せるも、その炎は鎮火される。


故に――無防備。


無詠唱多重奏展開。雷の第四魔法『ライトニング・スピア』


「!!」


四方八方。

次々と展開される魔法陣に【狼】は顔を青褪めた。


放たれる紫電十閃。雷撃の槍が次々と【狼】の身体へと突き刺さり、その肉体を焼いていく。


幾ら亜人の耐久力が並外れていようと、コイツは効くだろ?


水で電気を通りやすくしている、オマケ付きだ。


射出される雷の槍に貫かれながら、落下する【狼】の姿を確認し、風の第三魔法『エア・クリエイト』を行使する。


作り出すのは……これもまた槍で良いだろう。


下手に間合いを詰めて、反撃を食らっても面白くはない。



「さて、上手くできるかな?」


何分、長物を扱うのは久しぶりだ。



落下を待ち受ける俺へと【狼】は、苦し紛れに両腕を伸ばす。

気絶していてもおかしくないダメージだろうに。


その根性に――敬意を示そう。



偃月――瞬撃槍。



交差する瞬間、両手両足心臓を狙った完全同時六連撃。


それが――完全に入った。



「――」



亜人の【狼】は吹き飛ばされ、石畳を転がっていく。


「うおッ!?」


館の壁――丁度ルーシーの3メイル隣に激突し、奴はその動きを止めた。


「……生きてるか、おい」

「……ッ」

「あ、起きた」


――てか、起こすなよ。


完全に気絶させるつもりで攻撃したんだがな……結構固い。

まぁ、流石にもう動く事は出来ないだろう。


「くそッ、足が言う事効かねえ……」

「足だけじゃないだろう。手、凄いプルプルしてるぞ?」


痙攣してんじゃん。雷の受けすぎじゃね?


「バケモンか、テメエ……」

「……すっきりしたか?」

「此処まで一方的にやられて、すっきりすると思うか?」

「……」


プレア=トリィなら、或いは――


「真剣に考えてんじゃねえよ――ったく……」

「……」

「――名は?」

「ん?」

「俺を倒した奴の名を知りたいって言ってんだよ!」


亜人の【狼】から発せられた、事実上の降参宣言。



俺はそいつを聞くと、にかりと笑った。



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