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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第2章 ~傭兵団結成!城塞都市の攻防編~
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024 これが、最後の一押し


テレサ=エンフィールとファング=コードレスの戦いは、以前の夜の焼き直しの様相を見せていた。



「あのシスターも、アタシより強い……だが……ッ」



己が獲物を杖代わりにし、その場に座り込みながら、繰り広げられる戦闘を目で追うルーシー。


ファングの黒炎が、テレサの剣を吹き飛ばす。


「――ッ」


幾度となく攻撃のチャンスを掴んでいるにも関わらず、テレサの剣はあの炎に遮られ、ファングへと一撃も与える事が出来ていない。


相性が悪いのだろう。


自身を中心とした範囲型の技を持つファングに対し、テレサの獲物はその重量が軽すぎる。


よって――


「くッ!」


「ははは!どうした!? あの夜の――俺に手傷を負わせた技は見せねぇのかよッ!?」


反撃として振るわれた爪の一撃を、テレサは肩に受けてしまう。


その場所は――以前ファングが傷を付けた場所と一緒であった。


当然――偶然のものではない。



「出せよ、いい加減」


「――ッ」



――全力を。



彼はシスターに向けて、言外にそう言った。


テレサ=エンフィールがその実力を隠しているのは、以前の戦いから明白であった。


それが何なのか分からないが――しかし、ファングは癪であった。

己の実力を最大限発揮せぬまま、己と渡り合おうとしているのだ。



――舐められている。と、彼が感じても仕方がないだろう。



「く……ッ!」



テレサは一瞬、周囲へと視線を向け、歯噛みする。


彼女の予想を超え、目の前の人狼は強かった。

苦戦はするだろうと考えていた。


だが――負けるとまでは思っていなかったというのが本音である。



――慢心……ですね……。



無論、自身が全力を出せば――話は変わるだろう。


冷静に己と青年の戦力を見比べて……それでもテレサは、自身の勝利を疑わない。


ただ――全力を出せれば。だが――



「行きます……」



ソード・ウィップを手元に戻し、連結させ、長剣へと変形させる。

剣を横に。刀身に指を添えた構えを見せるテレサ。


その様を見たファング=コードレスは、息を吸い――




「――がっかりだぜ」




――そう、吐き捨てた。






「はぁ……ッ! はぁ……ッ! はぁッ!!」



スネップ=アノンドロワは走っていた。


護衛のメイド。

ルーシー=スカイバーンに言われ、彼は館の裏口から外へと出て、続く路地を駆け出していた。



目的地は、分からない。


決めていなかった。


ただ――自分が領主の息子だと。

誰もが分からない場所へ行きたかった。



「壊せ!壊せ!」

「ポンペイはお終いだッ!!」

「亜人を解放せよ!! 自由を取り戻せッ!!」

「壊せ!!壊せ!!――壊せ!!!」



「ひぃ――ッ」



目を瞑り、耳を抑えながら、しゃがみ込むスネップ。


大通りの方から大量の亜人達が押し寄せるのを見て、彼は思わずその態勢を取った。


……まるで、呪いだ。


彼等の言葉――その全てがこの街の領主。及び、自分に向けられている様に感じてしまう。


いや、実際そうなのだろう。

ポンペイで最も大きな資産家はアノンドロワ家である。


父デネッブが音頭を取って、街の商人や貴族と結託し、亜人達の戦争に介入したのが、事件の原因だ。



――恨まれるのも、当然である。



「母さん……怖いよ、母さん……」



アノンドロワは終わりだ。

父さんは殺されても仕方が無い事をしている。


僕もきっと――同罪だ。


路地の中央にしゃがみながら、頭を抱え、嗚咽を漏らす。


何でこんな事に……夢なら覚めて欲しい……ッ!


そんな事を考えていた時。


ふいに――後ろから、背中を押された。



「――ッ!?」



地面へと、無様に転がるスネップ。



『はははッ!』



大通りの方から――誰かの笑い声が聞こえたが、それもすぐに何処かへ行ってしまう。



「う、つつ……ッ」



一体何だ? 誰かの悪戯……?


眉を顰めながら、擦り傷を負った肘を手で押さえ、立ち上がる。


するとそこには――




「……ベリー?」




――倒れ伏す、亜人の少女の姿があった。



「……いや……ちょっと、待ってよ……」



意味が分からない。

意味が分からなさ過ぎて、口元が思わず歪んでしまう。



奴隷の少女――ベリーの腹部には、一本の矢が刺さっていた。



小柄な身体だと、矢も大きく見えるんだなぁと。

スネップは他人事の様に感じていた。


現実感が、なかったからだ。


燃える街と【狼】に命を狙われる現状。

亜人の少女に庇われ、助けられたという現実。


それに――頭が追い付かなかった。



「ごほッ!……ごほッ!」

「!?」



咳き込み、血を吐き出す少女。

そこでようやくスネップは動き出し、彼女の元へと近寄った。



「……スネップ、無事……?」


「――」


気遣い、スネップを心配する様な表情を見せる少女。


彼女のその様子に――スネップは、キレた。



「……ぶ、無事って――何がだよぉッ!!」



それは、激しい怒りだった。



「――何なんだよ、その姿はッ!? 何で僕なんて庇ったッ!?」



胸を鷲掴みにされる様な、怒りだった。



「お前ら亜人にとっちゃ、アノンドロワは敵だろうがッ!? 憎めよッ!! 命を掛けて、何で助けるッ!!?」



「……」


「お前らは……お前はァ……ッ」



息を切らしながら、ベリーを見詰めるスネップ。


薄く、微笑んだ表情を見せる少女。


傷が痛むのだろう、頭から水を被ったかの様な汗を掻きながら、荒くなった呼吸を整えて、彼女はスネップへと声を出す。



「優しく、してくれたから――」



「――は?」



「……スネップ、ケーキ、くれた。……美味し、かった……ッ」



「――」



にこりと微笑み、ベリーはそんな事を言う。


――ケーキ?


――僕が、靴で踏みにじった、アレの事か?



――あんなもの、もはや食べ物ですらない。



――それなのに。



「うう!! うううううう――ッ!!!?」



両手で頭を押さえ、髪を無茶苦茶に掻き毟る。


理解できない!理解できない!理解できない!理解できない!!



「やめろよぉ……そう言うのさぁ……ッ」



「……」



少女はもう、何も答えなかった。

答える気力すら、もう無いのだ。


「釣り合いが取れないッ!! 命を代価にするなッ!! そんなもの貰っても、僕は全く嬉しくないッ!! 」


礼には礼を。

働きには、働きを。



それがアノンドロワの家訓。


いや――僕のポリシーだ。


だがこれは――明らかにやり過ぎだ。



「返せないだろう……ッ! こんなもの……ッ」



涙を流し、鼻水を流し、スネップは少女の身体を抱きしめた。

べったりと、流れる血がスネップの衣服を汚していく。


そうして――暫くして。



「――僕が、間違ってたよ……」



誰に聞かせる訳でもなく、スネップは呟いた。




――貴族なんて、クソくらえだ。




「ベリー……」

「……」



僅かに残る少女の体温を感じながら、スネップは少女を抱きかかえ、歩き出す。



スネップ=アノンドロワは、こうして道を引き返したのだった。



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