023 教会、割れたよ
「ははは!弱い弱いッ! 先生! 見てますか僕の活躍ッ!?」
「あーはいはい、見てる見てる」
戦場で見せた俺のマジック・バレルを模倣しながら【狼】達を殲滅していくレイド=レヴァノフ。
やっぱコイツ、センスあるわー。
内心で思いながら、俺はもう片方へと視線を向ける。
「学生に後れを取るなッ!! スリーマンセルで行くぞッ!!」
「――おうッ!」
グエン=ドウェンと言ったな。
若き兵士が号令を出し【狼】へと連携攻撃を仕掛けていく。
練度で言えば低いのだろうが――士気が高い。
先程の戦場での勝利。
高揚感が未だ残っているのだろう。
「……こっちも大丈夫そうだな」
言いつつ、俺は腰に抱き着いてきたシュチャの頭を撫でる。
怖かったんだろうな。
顔を埋めたまま、肩を震わせる彼女。
「――安心しろ。俺が来たなら全部オールオッケーだ。問題ない」
「……うん」
「まぁ暫くは――泣け」
「ん」
こくりと、頷くシュチャ。
他の亜人の子よりも、この子はお姉さんなんだよな。
だからきっと、泣かなかった。
泣けなかったのだ。
こんな状況でも。
「ハインリヒ君……遅いよぉ……」
「プレアか」
声を掛けてきたプレア=トリィへと、俺は視線を向ける。
全身ボロボロ。随分と無茶をしたらしい。
……此処に入ってくる時、彼から少し、異質な空気を感じたが――あれは一体なんだったのだろう?
「随分と男前になったじゃないか? イメチェンという奴か?」
「……テレサさんにもモテるかな?」
「その顔で迫れば一発だな。きっと良い鞭をくれる」
「そんなぁー」と言って、頭を抱えるプレア。
笑い合う俺達。
――うーむ。やっぱりコイツは、ドマゾだな。
「――ハイン!」
そうして最後は、キッチェの奴だ。
「――おかえり!」
「――おう!」
満面の笑みを浮かべ、俺の帰還を喜ぶキッチェ。
大して留守にした覚えはないのだが――ま、いいか。
茶色い癖毛は相変わらずだな。
胸は大きくなってきたか?……いやまぁ、どうでも良いけど。
こうしてまじまじと、キッチェの奴の事なんて観察しないからな。
改めてみると、随分と女らしく――
「――それ、傷か?」
「あ、うん。さっき突き飛ばされちゃって……」
「ふぅん」
ドジな奴。
俺達がそんな話をしていると――
「うわあぁあッ!?」
自警団の奴等が、悲鳴を上げて此方へと飛ばされてくる。
「チッ――やるッ!」
衝撃で此方へと地面を滑りながら、グエン君が歯噛みする。
「ふざけやがってッ!! 人間共が――ッ!!!」
怒りで我を失い、でたらめに腕を振るう【狼】の亜人。
恐らくはアレがリーダー格なのだろう。
手下と比べて数段、強さが違う。
「陣形を整えるぞ! もう一度突撃を――」
「いいよ」
「――隊長ッ!?」
腰にいるシュチャの肩をポンポン叩き、退いてもらう。
驚くグエンに手をひらひらと振りながら、俺は暴れる【狼】へと足を向けた。
「ふざけやがって! ガキがッ!! ガキが――ッ!!!」
無防備に接近する俺に気が付き【狼】は怒りのままに突進する。
「――先生ッ!?」
「――隊長ッ!!」
此方へと叫ぶレイドとグエンの声を無視し、俺は右手に【気】を集中させ、手刀の形を作る。
「――ッ!」
振り下ろされる爪の一撃。
それが俺の頭を切り裂く瞬間――
「……ぁ?」
【狼】の腕が――宙を舞った。
肘より先が消失した事に、唖然とする彼。
その眼に映るのは、腕を振りかぶった状態の俺の姿だ。
「じゃあな」
轟音と共に、一条の線が、【狼】の身体を走った。
線は地面を砕き、壁を裂き――教会を割っていく。
「!!!!」
声にもならない声を上げ、驚愕の表情を張り付けたまま、血を吹き出す【狼】の亜人。その身体は俺の放った手刀により、右肩から斜めに袈裟切りにされていた。
「あ……あ……あ……ッ」
「建物ごと……素手で……ッ?」
ぶるぶると歓喜に打ち震えるレイド。
信じられないものを見たと、口を開けたまま目を見開くグエン。
残る【狼】達が抵抗を辞めたのは、そのすぐ後であった。




