017 嵐の前~狼達の咆哮~
夜の闇を、篝火の灯が照らしている。
空は満天の星が煌めき、風は穏やかに男の前髪を揺らした。
ある草原の一角。
そこを拠点として、テントを張った集団がいた。
その者達は、皆、獣の耳を頭に生やす――亜人であった。
集団の中、獣耳のない――黒き青年が声を出す。
「……兵隊の準備は?」
青年の問いに、彼よりも年上と思われる亜人の男が答える。
「完了している。号令をくれればいつでも行けるぜ?」
「そいつは頼もしい」
「なぁファング?【猫】の奴等は本当に放っといて良いのか?」
問い返された言葉に、青年――ファング=コードレスは吐き捨てる様に返答する。
「【白狼】が何とかするだとよ」
「……ジェミナか。アイツも何を考えているのやら……」
「……」
ファング=コードレスは思考する。
【白狼】――ジェミナ=シンジケートは幼馴染の親友だ。
だが、その在り方は自分でさえ、測れない。
ウルフディアンの中でも特異な白い体毛を持つ青年。
長い白髪を揺らしながら、気だるげな眼差しで、奴が先日俺に言った言葉を――思い出す。
『――興味ない』
『ッ!? 人間共が亜人のガキ共を奴隷にしてるってのにか!?』
『……だから?』
『――お前は、何とも思わねえのかよッ!?』
『弱肉強食が僕達の掟だろう? ファング……その子達は、弱かった。だから食い物にされた。――それだけだ』
『……襲撃には、参加しねぇってのかよ?』
『今、人間族を敵に回す意味が分からない。【猫】は上手く立ち回っているよ【熊】や【象】――少数だが、侮れない武力を持つ部族と手を組み、此方を潰しに来ている』
『……』
『逆に聞きたい。これ以上敵を増やして――君はどうする気だ?』
『そんなの……』
躊躇する俺に向けて、ジェミナの奴は天を仰ぐ。
『――まぁ……どっちでもいっか』
『……は?』
『色々話したけど、面倒臭くなった。どっちみち族長は君なんだし、好きにすれば良いんじゃない?』
『……おい。さっきと言ってる事が全然違うじゃねぇかッ!?』
『一緒だよ』
『はぁ!?』
『僕は君達と一緒にはいかない。【猫】達を迎え撃つ』
『……』
『君が動けば奴等も動くよ。だから挟撃されないように抑えるさ』
『おい、俺達に部隊を二つに分ける余裕は……』
『――だから、僕一人で行く』
『ひ、一人で……か?』
『終わったら合流するから――気にしないでね』
「何考えてんだか分かんねぇけど――俺は奴の実力は信じている」
俺の言葉に、周囲の面々は黙って頷く。
ウルフディアン最強の男が誰であるのか――皆、分かっていた。
「決行は明後日だ。日が昇ると同時に人間の都市――」
ぐるりと、北の方角を見詰めながら、ファングは叫ぶ。
「城塞都市ポンペイを――陥落させるッ!!」




