011 再戦~ハインリヒ VS レシィ~
まずはその拘束を解いてやる。
無詠唱――風の第二魔法『エア・ブレイド』をレシィへと発動。
木で出来た荷車は風の刃に切り裂かれ、木片を散らす。
が――彼女を拘束する鎖には、傷一つ付かなかった。
……良い物を使っているな。
……聖術が埋め込まれた神秘の鎖。
あの状態の――レシィ=クリムゾンを拘束している鎖だ。
生半可な物である筈はない。
それこそ、竜族種でさえも捕えておける代物を用意したのだろう。
俺がそう考えた時――
――レシィ=クリムゾンは、それを力任せに引き裂いた。
「……ッ!」
攻撃による防衛本能。
俺としては軽く放ったつもりであった風魔法が、彼女の闘争本能を刺激した。
「うがぁああああああ――ッ!!!!」
猿轡を噛み砕き、目隠しを力任せに剥ぎ取り――レシィ=クリムゾンは咆哮する。
気合で、空気が震えた。
「来るかッ!?」
予想通り、俺へと目標を定めたレシィは、一直線に此方へと突っ込んできた。
――接近はさせん! 横から吹き飛ばす!
体術で敵わない事は四年前に学習した。もはや、同じ土俵で戦おうだなんて思わない。
無詠唱、風の第四魔法『エア・――
「――」
――駄目だ! 無詠唱魔法が間に合わない!?
驚異的な脚力により、一飛びで俺の懐へと入り込んだレシィは、万力の様な握力で拳を固め、俺の腹部へと砲弾の様な一撃を叩きこむ。
「……ッ!」
直撃の瞬間。
俺は横合いから発動した風の魔法に吹き飛ばされ、難を逃れる。
風の第四魔法『エア・ハンマー』
レシィ=クリムゾンを補足するのが不可能だと早々に気付いた俺は、自身にその魔法をぶち当て、回避手段として利用した。
……少し、痛かったがな……ッ!
尚も追い縋るレシィに向けて、俺は崩れた態勢のまま親指を弾き、音速弾を放つ。
体術の技法――指弾と呼ばれる技である。
「……意にも介さんかッ!」
ごろつき相手に使った技程度では、時間稼ぎにもなりはしない。
無詠唱、土の第五魔法『アース・グレイブ』
突進してきたレシィに向けて、カウンターとなるよう大地を隆起させ、彼女へ突き刺す。
「――ぐぅうッ!?」
自身の脚力も合わせた攻撃だ。流石にコイツは効いただろう。
まぁ本来は突き刺し、敵を両断する魔法なのだが――レシィに至っては強い突きを食らった様なダメージで済んでいた。
肉体の耐久度の違いが窺える。
吹き飛ぶ彼女へと、追撃の手を加えていく俺。
無詠唱、風の第四魔法『エア・ハンマー』で彼女をかち上げ――
無詠唱、水の第六魔法『ハイドロ・プレス』で押し潰し――
無詠唱、土の第五魔法『アース・グレイブ』で四肢を突き刺し、釣り上げる。
そうして詠唱魔法。
火の第八魔法『アグニ』を完成させた俺は、極太の炎熱波をレシィへとぶつける。
「が、ぁ……ッ!」
ダメージは、確実に蓄積していた。
未だ上空に浮かんだ彼女へと、回転を加えながら跳躍する俺。
――飛燕襲撃脚。
回転の勢いを威力に加算。
体内の気を足へと一点集中し――振り下ろされる踵落とし。
その一撃を、俺はレシィ=クリムゾンの後頭部へと振り下ろした。
「があぁああああ――ッ!?」
空中から地面へと叩きつけられるレシィ。
石畳を砕きながら、彼女はその場へとうつ伏せに倒れる。
「……ふぅ」
地面へと着地をした俺は、思わず息を吐いてしまう。
疲れた……。
大量の【マナ】と【気】を消費してしまった。
その分だけ、ダメージは負わせられたとは思うが……。
俺は、倒れるレシィへと視線を向けた。
「あぁ――痛てぇ……何だ何だ? いきなり……何が起きたぁ……?」
言葉を発しながら、その場から立ち上がるレシィ。
まぁ、そうだよな。
これで終わる筈がない。
分かっていた。分かっていたよ――俺には。
「よぉ、四年振り」
「……」
俺は意を決して、奴へと話し掛ける。
「あんまりにも酷い寝相だったから、叩いちまった。悪かったな」
「……あぁ、構わねぇ。っていうか、何だよコレ? 何だよこの状況……?」
レシィは周囲を見渡しながら、そう問い掛ける。
訓練場の石舞台は――罅、割れ、焦げ、と。
散々な有様だ。
その外には、驚愕した表情で此方を見詰める姫様・ザンス・騎士団員の姿があった。
「それに、お前だよ――ハインリヒ」
レシィは俺を見詰めながら、声を掛けてくる。
「何でお前が此処に? 何で私と?ーー何で……私は……」
「……」
何でと言われてもな。
お前の父親に頼まれたから。
お前が竜の呪いに負けて暴走しやがったから。
説明をしろと言われれば説明は出来るが――そういう事じゃないよな?
「……ぅッ」
レシィは。
レシィ=クリムゾンは、その眼に涙を流した。
「……泣くなよ」
「……ん」
俺は軽く引きながら、奴に向けてそう言った。
感情が激しい奴というのは、涙脆いというのは聞いていた。
聞いていたが――こんな場面で泣くなよ。
意味が分からなさ過ぎて、引いてしまっただろうが。
「ご、ごめ……感情が、溢れちまって……痛みも何も久しぶりで……そんな中で、お前が私の前に現れるから――嬉しくて」
「……」
何か気が付かない所で、随分好かれていたらしい。
全く、複雑な気分だ。
こんな良く分からん雰囲気じゃ、終われないだろう。
俺だって、収まりが付かない。
「アルマナ――レシィに剣を」
『――ハインリヒ!?』
呼び掛けたアルマナと、目の前のレシィが同時に驚愕の声を上げる。
だが、俺は止まらない。
これで最後だ。完全な決着を着けて、金輪際コイツとは、もう二度と戦わん。
そうする為にも――俺は、完全装備のレシィ=クリムゾンに勝利する必要があった。
「不完全燃焼は嫌だろう?全部、出し切りたいよな?」
「……ああ」
「許す。――お前の本気、神童ハインが受け止めよう」
「――」
「文句は……無いな?」




