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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第2章 ~傭兵団結成!城塞都市の攻防編~
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009 最強の交渉術

カレル歴205年。

虹梟の月、双月の曜日。


亜人の子を解放し、一月を跨いだ日の事。


「よお! 来たぜ」

「……」

「んな嫌そうな顔すんなよ。こっちも仕事だから来てんだっつーの」


戦闘メイド――ルーシー=スカイバーンが、教会へと訪れた。


要件はアレだろう?

貴族のボンボン――スネップ=アノンドロワの【礼】という奴だろう。



……面倒臭せぇ。

……ただでさえ、傭兵団を作るのに難航しているというのに。

……この、余計な手間。



「……やっぱり、あの館に行かんといけんのか?」

「そう言われてはいるな」

「拒否権は?」

「無い」

「……」



一瞬、暴れてやろうとも思ったが、後の事の方が面倒なので、止めておく。

俺は溜息を吐きながら、ルーシーと共に、もう一度領主の館へと向かうのであった。







「――久しぶりだな。ハインリヒ君」

「……」


通された貴賓室には、見覚えのある男性の姿があった。


ザンス=クリムゾン。

以前見た甲冑姿ではなく、オフの様なシャツ姿で、彼は俺へと笑いかける。


っていうか……。


「――何で此処に?」


俺は浮かんだ疑問をそのまま口にしてみる。

此処はポンペイ領主の館だよな?

何故王都の騎士団長様が、こんな場所へといるのだろうか?



「スネップ=アノンドロワ君から、話は聞いている。――傭兵団を作るんだってね?」


「まぁ、はい」



答えになってない。というか、疑問を疑問で返されたな。


「必要なのは人員。それと顧客だろう。騎士団の伝手を頼ってみよう。何、こう見えて顔は広いんでね。パトロンには事欠かないよ」


「……協力してくれるっていう事で、良いんですか?」


俺の言葉に元から笑みを絶やさないザンスは、さらにその口角を引き上げた。


「協力。確かに協力かも知れない。だが――私たちの関係は相互利益の関係にあると言って良いだろう。所謂、ウィンウィン。という奴だ」


「win-winね……話を変えるが――スネップ君。これが君の言う俺への礼という奴か?」


「へ――?」


まさか話を振られるとは思っていなかったのだろう。

自分の家でありながら、所在無げに突っ立っている青年へと、俺は視線を向ける。


「あ、ああ! 勿論そうさ! 騎士団長であるザンス卿が君の事を探していたからね。きっと君の為になるだろうと思い、僕が連絡を取ったんだ!」


――俺の事を、探していたか。


誇るように胸を張りながら、そう言うスネップ。

成程、ザンス卿がね。

しかしこいつは、本当に扱いやすい奴だな。

政治とかもあるだろうに、貴族やってけんのか?と――妙な心配もしてしまう。



「俺にやらせたい事があると見た。――相違ありませんか? ザンスさん?」


「……ああ、その通りだ」



一瞬、苦い表情を浮かべながら、俺へと返答するザンス。

残念だったな。

相互利益と言いながら、随分と耳障りの良い事ばかりを囁いてくれた。

主導権を握ろうとしたんだろう?


――悪いが、そうはさせない。



「どうしても頼みたい事がある――その交換条件として、貴方はパトロンを紹介する」


「――ああ」


「そこに貸し借りは存在しない。貴方の願いも悪い案件であるならば――俺は拒否する」


「……」


「それで――いいですね?」


ザンス=クリムゾンは意気消沈した姿で、俺の言葉に頷いた。

訳も分からず、取り残されるスネップ君。

まぁ、いい仕事したよ。君は。

礼としては十分だ。


ザンス=クリムゾンはハインリヒ=セイファートとパイプを作りたがっていた。

恩着せがましくパトロンを紹介すると言っていたが、そうして欲しいのは自分なのだ。

後で――その恩を笠に着て、恐らくは俺に対し無茶な案件を振ろうとしていた筈だ。

だが、スネップ君の失言でその企みは水の泡。


残念だったな、ザンス。


話は終わった。

そう認識し、俺は貴賓室のソファから立ち上がる。


扉の傍に立つルーシーに先導され、外へと出て行こうとする。その時――



「――頼む!! ハインリヒ君!!!」

「え?」



ザンス=クリムゾンは、その場の床に直に座ると、頭を地面へと擦り、俺へと叫ぶ。

その姿は――東部、ガシュウ真国に伝わる最上級の礼。


――土下座と呼ばれるものであった。


「な、何を……ッ!?」


流石にこれには俺も動揺する。

何せ見た事が無かった。

自分の倍以上も生きた人間が――大人が――平伏する姿なんて。


初めて見たが――その様、衝撃が大きい。


正直、引いていた。




「娘の為――レシィの為!! 今一度王都に来て――あの子と戦って欲しい!!!」




「頼む……ッ!!!」と。


とんでもない態勢でとんでもない頼み事を言うザンス。


「レシィって……レシィ=クリムゾンッ!?」


驚愕の声を上げたのはスネップだ。


「王国最強。赤竜の生まれ変わり。付いた字名は【竜神】レシィ! そのレシィかッ!?」

「――ッ」


スネップ君の解説に、瞠目しながら此方を見詰めるルーシー。

いやいや、【竜神】なんて字名知らねーし。


余計会いたく無くなったわ。アイツ。


「娘は禁断症状に陥っている!!」

「……禁断症状?」

「竜の呪いだ。好戦欲が抑えられず、今にも正気を失いかけているのだ!!」

「……」

「原因の一端は、君にもある!」


なんでやねん。

俺は思わず心の中でツッコミを入れる。


「君は――娘に力を見せ過ぎた」

「む……」

「だが、責任を追求する気はない。今はただ――あの子と戦って欲しい!」


ゴツン、と。

再度額を地面に突けながら、ザンスは俺に懇願する。



「娘が――本物の化物になってしまう前に――ッ!!」


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