005 ルーシー=スカイバーンと買い物袋
「もう夕暮れだなぁ」
「ああ」
食料品を大量に入れた袋を手に持ちながら、俺とルーシーは取り留めのない会話をする。
ルーシー=スカイバーン。
歳の方は20前後だろうか。若い割には色々と苦労してそうな女だ。
成人した男性並みの背丈に、黒い長髪。
出る所が出て、引っ込む所が引っ込んだ容姿をしている。
素のポテンシャルは高く、スネップの趣味であろうガーター付きのメイド服も良く似合っていた。が――素行だけは如何ともし難い。
咥え煙草をしながらポケットに手を突っ込み、ダルそうに歩く様は、とてもではないが美少女とは言えない。
「……主人に対して、随分と雑だったな?」
「あぁ。だってムカつくだろう――アイツ。たまに泣かしたくなっちまう」
「だが、給金を貰っているんだろう?」
「ハッ! 関係ないね! アタシはアタシのしたい様に行動する!」
「ふん……厄介な奴だ」
「よく言われるさ――でも、まぁ」
「ん?」
「あの館の中では――アイツはまだ、救いがある」
「……救い?」
「救えないのは父親の――領主の方さ」
「ありゃぁ、いつか地獄に落ちるだろうな」――と。遠い目をしながら言うルーシー。
……他人の家の事だ。
……あまり突っ込むのも止めておこう。
そうこうしていると、やがて目的地であった教会へと近付いてくる。
「そろそろお別れか」
「だな。アタシにも持たせやがって」
「給金を貰ってるんだろう?」
「はいはい。――ま、こんくらいは喜んで働くよ」
言って、手に持っていた袋を俺へと渡してくるルーシー。
「……ちょっとした疑問なんだが……こんな大量の食糧、誰が食うんだ?」
「子供だ」
「……アンタの?」
「馬鹿が。奴隷だった亜人の子供達だよ。今日、買って解放してやったんだ」
「へぇ――そりゃまた。アンタ本当に良い奴なんだな?」
「いや、流れで偶然そうなっただけで――」
「照れるなよ……案外、可愛いところあるじゃねぇか」
「……」
面倒臭せぇな。
大体、何を言っても聞く気はないだろうコイツ。
押し黙る俺。
「アイツに聞かれなくて良かったよ。多分――アンタは不快になってただろうからな」
「……どういう意味だ?」
「最近になって、大量の亜人奴隷が売られる様になった。……意味は分かるか?」
――ああ、そういう。
――需要と供給か。
「原因は、南東の森の抗争か?」
「ああ。【猫】と【狼】の戦いだったらしい。金持ち共はこぞって武器を売ってたよ」
「……気分の良い話では無いな」
「小規模とはいえ、戦争だからな。そりゃそうさ」
切っ掛けは何だっただろうか?
互いの領土問題?
種族の違いによる不和?
子供が殺されたとか――そんな話もあったかも知れない。
知恵を与えたのは――邪神トゥールスレイ。
武器を持ち――立ち上がる事を唆した。
憎しみが憎しみを呼び、戦火は大火へと姿を変える。
完全に絶滅してしまった亜人もいれば、未だ憎しみ合い殺し合う部族もいる。
【猫族】と【狼族】と言うのは、その典型だ。
今では外で眺めていた人間達も、こぞって戦いの背中を押す始末。
連中にとっては小銭稼ぎなのだろう。
戦いを煽り、武器を売り、流れ着いた戦災孤児を奴隷とする。
――これではまるで、邪神と同じではないか。
話の流れから察するに、此処――ポンペイの領主もソレに絡んでいるのだろう。
「――途端に、もう会いたくなくなってしまったぞ」
「まぁそう言うな。言っただろう――アイツはまだマシだって」
「……」
「亜人に差別意識はあるかも知れねぇけど、父親のやってる事を理解してる訳じゃない」
「知らないから、罪は無いと?」
「違うさ。そう言うこっちゃねぇ。アイツは馬鹿で単純だから――今はどっちにも転ぶ」
「成程。中庸だと言いたい訳か」
「難しく言うねぇ? ――まぁ、恩を恩と感じる余地はある奴さ。切っ掛けがあれば、意識は変わる。後は環境次第ってところじゃねぇか?」
「それをアンタがやると?」
俺がそう問うと、ルーシーは鼻で笑い、
「冗談。面倒臭せぇ」――と、吐き捨てるのだった。




