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ハインソード・サーガ  作者: 威風
第3章 ~王都炎上、決意のハインリヒ編~
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047 チェスとの死闘~ナイト戦~

年内最後の更新です(^^)/

来年もまた宜しくお願いしますm(__)m


 斬撃と銃弾が交差する。放たれる弾丸は壁へと激突し、飛び散る礫が少年の頬を擦る。振るわれた剣は再装填の暇を与えずに次々に兵士を斬り倒していった。


 斬撃が狙うは敵兵の首。


 多数の兵に囲まれていた少年であったが、気が付けばその場には首無しの胴体が散乱していた。


 動く敵影は――ゼロ。

 少年は息を吐いて剣の返り血を振り払う。


 そのグロテスクな光景に息を呑むのは、先程まで緑の帝国兵に襲われていた少女――ユーリア=マイスティアであった。


 茶色いツンツン頭の少年――ルディン=シュトラウスは己の所業の残酷さに自覚はあったものの、傷を物ともしない敵兵の性質に加減をしてはいられなかった。



「大丈夫、ユーリアさん?」


「う、うん……ありがとう、ルディン君」


「もう少しで、王城に着くからね」



 怯えるユーリアに声を掛け、聖剣を鞘にしまうルディン。


 ……まさか自分が、ユーリアさんを救う騎士の位置に付けるとは。


 少女に手を差し伸べながら、そんな事を思ってしまったルディンは、流石に不謹慎過ぎると内心の下心を自制する。



「……」



 戦場の中で、心此処に在らずといった様子のユーリア。

 余程怖い思いをしたのだろう。

 一人皆と逸れて、帝国兵の闊歩する王都を歩いたのだ。


 少女の身には過ぎる過酷さだ。


 ルディンはそう思うと、彼女を労わらずにはいられない。


 ――ついでに、自身の事も今回の件で好感を持ってくれると嬉しいなぁと、下心を自制し切れずに彼が鼻の下を伸ばした頃。



「貴方――王国の人ですか?」



 横合いより、聞き慣れない少女の声が聞こえてきた。


 二人が声の方へと顔を向けると、其処にはフリルの付いた漆黒のドレスを身に纏った可憐な少女が日傘を差して立っていた。黒――よりも、色素が抜けた灰色の髪を腰にまで垂らし、透き通った肌に薄く頬には紅化粧を塗り、柔和な笑みを浮かべている。


 幻想的とも思える少女の美しさに、ルディンは一瞬見惚れてしまうが、彼女の右目にあった眼帯――黒地に金の刺繍が入ったその紋章を見て、気を引き締める。



「エイムス帝国の紋章……となると、君は帝国の?」


「マリア・ナイトです。その腰の聖剣……貴方、七聖剣ですね?」


「いや、俺は違――ッ!?」



 言い終わる前に、マリア・ナイトと名乗った少女は手に持った日傘のハンドルを引き抜き、露出した白刃をルディンの首元へと振り抜いた。


 ――仕込み傘!?


 驚愕しながらも聖剣を抜いて防御するルディン。堂の入った居合抜きに、彼は防いだ手を痺れさせながら舌を巻く。


 くるりと回転するスカート。花の様だと思うのも束の間。



「――いぎッ!?」



 左手に持った傘が回転と同時に振るわれ、腹部へと直撃。想像以上に堅く冷たいソレは恐らくは鋼鉄製のものなのだろう。衝撃でルディンの踵を浮かせる。


 流れる様な動作でルディンの胸部をヒールで蹴る少女。後方へと倒れる最中、見えた視界ではマリア・ナイトが白刃を煌めかせ――



「――アホんだらァッ!!」


「!」



 同時に放たれる数十の剣閃はしかし、毒を吐きながら横から現れた影によって、その全てを切り払われてしまう。



「ガ――ガフ!?」


「お前なぁ……秒で殺されそうになってどうするんじゃ!?」


「うぐッ」


「ソイツを預けたからにゃ、情けない戦いを見せんなっちゅーの」



 呆れた顔を引き締めながら、首元に灰色のスカーフを巻いた黒髪の少年――ガフ=コフィンは己の敵へと剣を向ける。



「……新手で良いの?」


「嬢ちゃん、七聖剣を探しとるんじゃろう? 運が良かったのぉ? 目の前の俺様がまさにそれじゃ! サインでもしてやろうか?」


「ガフ!? その子の相手は――」



 慌てて立ち上がるルディンを、後ろ手で制するガフ。



「今日は調子が良いんじゃって。俺様にやらせろ」


「――ッ!?」


「それに正直、昂っとる。――コイツ、強いじゃろ? マジで強いじゃろ? 床に着いたまま死ぬと思ってたというに、いやはや……人生っちゅーのは分からんもんじゃのぉ!?」


「……ッ」


「ルディンよ。剣士ガフ=コフィンの墓場は此処に決めたぞ! やはり俺様には戦地での仁王立ちの死に様が似合っとるわ!!」



 クカカ!! っと、狂笑を浮かべながら言い放つガフ。



 強敵――それも剣士の出現に気が昂っているのか。覚悟を決めた様なガフの発言に、ルディンは思わず顔を歪める。――死なせたくはない。傲慢かも知れないけれど、彼にはまだ生きるのを諦めて欲しくはないと、ルディンは心中で願うのだった。



「――お二人は、仲が宜しいのですね?」



 そんな二人の様子を見ながら、マリア・ナイトは目を細めて微笑みを浮かべる。その表情には他意は無く、ただ眩しい物を見詰める様にルディン達へと顔を向けていた。



「国だけではない。人まで素敵……帝国で生まれた者は原則として死ぬまで外へと出られないから、特にそう思ってしまうのかも……他者とは追い落とすもの。そうした価値観が当たり前となった帝国とは明らかに違う王国の精神。正直、羨ましいと感じています」


 目を伏せながら、マリアは言う。


「なんじゃ、素直な嬢ちゃんじゃのぉ? じゃが、結論を出すのは早計だとも俺様は思うけどな?」


「そう、言いますと?」


「王国も王国で阿漕な所はあるって話じゃ。俺様の様な孤児に人体改造やらせる国じゃからな。おかげで余命は幾許もなし……ま、こんな時代じゃそれも仕方が無いわな」


「――っ」



 息を呑むのは横で話を聞いていたユーリアだ。笑い話の様に明るく話すガフだが、しかし、これが王国の現実。



「そう……此処も一緒なのですね。楽園は、何処にも無い……」


「……いいや?」


「?」


「楽園ならあるぞ? 切り結ぶ間合いをこそが剣士の楽園じゃ」


「貴方は……いえ」



 何かを言おうとしたマリアは、その言葉を止める。

 ガフの背中から感じる熱気。

 

 放たれる事を今か今かと待ち望むその様子を目にして、彼女は静かに目を伏せ――唇を弧に歪ませた。



「――面白い」



 片方の目を爛々と輝かせ、マリアは両手に持った剣と傘を逆十字に構える。矢を引き絞る様に徐々に姿勢を低くし、剣を構えるガフ=コフィン。ルディンとユーリアの二人が固唾を飲んで見守る中――遂に、その時は来た。



「オラアアアアアッ!!!」


「笑止ッ!!」



 漆黒の影が獣の様に地を這い、可憐な少女へと猛襲を仕掛ける。

 

 剣の軌跡とは到底思えぬ縦横無尽のその剣戟を、マリア・ナイトは流麗な動きで捌いていく。時に打ち合い、時に手を出し、時に足を出す。その攻防。目にも止まらぬ速度で行われる技術の応酬は、まるで円舞でも踊っているかの様であった。



「!?」



 均衡を崩すのはマリアだ。彼女は迫り来るガフへと傘を開き、己の身体を隠す行動へと出た。



「絡め手かッ!? しゃらくさいのォッ!!」



 剣を横に振り、目の前に広げられた傘を吹き飛ばすガフ。



「あ」


「一刀千刃。刮目して見よ。これが我が剣――」



 ――サウザンド・ブレード。



 開けた視界へと見えた少女の姿は、三歩遠く。


 外された眼帯。その奥に蠢く四つの赤き瞳孔に睨まれたガフは、次いで飛んでくるであろう刃に身を固めた。



「――ッ!!」



 気が付けば、ルディンはその場から飛び出していた。


 己がガフに救われた時の様に。

 

 その焼き直しをする様に二人の間合いへと飛び出した彼は、マリアが放った千刃をガフの横に立ち、共に切り払う。が――



『――ガァッ!!?』



 百、二百といった所で、捌き切れなくなった二人は身体を切り裂かれながら地面へと突っ伏した。


 首は未だ胴体に着いてはいたが、その被害は甚大。



「チッ……やられた……ッ!」



 怪我の度合いが大きいのはガフ=コフィンの方であった。皮一枚で辛うじて繋がった状態の己の両足を見下ろしながら、同じく倒れ伏した友へと、彼は血を吐く様に叫ぶ。



「ルディン! ルディン叫べ!!」


「が、ガフ……?」


「お前の持っとる聖剣を覚醒させるんじゃ!! それしかもう勝機は無いッ!!」


「聖剣……」


「俺様はもう戦えん……完敗じゃ!! だが、お前は同じ様に死なんでも良い!! 良いか! 叫べ聖剣の名を! それが覚醒の――」



 トスリと。ガフの胸に白刃が突き立つ。



「ごめんなさい」


「え?」



 その光景に、ルディンは痛みを忘れて呆けてしまう。


 謝罪を口にしながら、ガフから剣を引き抜くマリア・ナイト。


 ユーリアより上がる悲鳴。


 血溜りに倒れたガフが此方を向き、徐々に動かなくっていく姿を見ながら、ルディン=シュトラウスは聖剣の柄を握った。



「……エグリゴリ」



 呟く声に聖剣は微弱に反応するも、それはすぐに消える。


 ……あぁ、そっか。叫ばなきゃいけないんだっけ……?


 混乱した頭のままで、傷だらけの身体を動かし、その場から立ち上がるルディン。



「なにやってんだよ……」



 それは誰に向けた言葉だったのだろうか。


 壁を背に息も絶え絶えの様子で顔を上げ、瞳だけをマリアへと向けながら、ルディンは震える右手を左手で押さえる。



「なに、やってんだよぉ……ッ!!」



 それは、純粋な怒りであった。

 堪え切れないと言わんばかりに、目を瞑り、涙を流すルディン。


 彼は怒っていた。敵であるマリアへと――否、勝手気ままに生きて死んだ、ガフ=コフィンへと怒りの念を向けていた。



「ふ、ふざけるなよガフ……!! 勝手に助けて、勝手に死んで……身勝手過ぎるだろう!? 俺は! 俺だって!! お前に!!!」



 ――生きて欲しかったのに。



「……ごめんなさい」


「……」



 謝罪の言葉を口にしながら、ルディンへと歩を進めるマリア。


 ほんの少しの邂逅であったが、彼女の人と成りは決して悪ではないのだろうと、ルディンは感じていた。


 ただ――出会う場所が悪かった。


 だからこそルディンは思う。

 今より振るう自身の剣は、決して復讐の為のものではないと。

 

 これは生存競争。自身が死ぬか彼女が死ぬか。二択しか存在しない結末に打ち勝つ為、己は剣を振るうのだと。だから――



「――謝らなくて良い。いやもっと言うとな……口を閉じてくれ」



 ルディンはマリアへとそう告げる。



「もう何も聞きたくない。感情を、動かしたくないんだ」


「……」



 ルディンの目の前にまで近付いたマリアは、剣の届く範囲でありながら、傷付いた少年の一挙手一投足に注目していた。


 自らが切り伏せたガフ=コフィンという少年。彼よりは総合的に劣るであろうルディン=シュトラウスは、しかし、あの瞬間――己の千刃から致命傷を避ける事に成功していた。不器用過ぎる躱し方ではあったが……その事からも、マリアはルディンを警戒する。



 二人に、無言の間が訪れる。



「――ッ!!」



 先手を取ったのはマリア・ナイトであった。彼女の小さな口から鋭い呼気が吹かれ、腰の回転と共に右手に持った仕込み刃をルディンの首元へと振るう。


 必殺の間を狙い、放たれた剣。


 その速度故、刀身すらも視認出来ぬ剣を、ルディンは己の聖剣でもって受け止める。



「!」



 驚愕は一瞬。刃を滑らせ、瞬時に次なる一撃を狙うマリアへと、ルディンは意気を飛ばす様に叫ぶ。



「エグリゴリィ――ッ!!!」



「くッ!?」



 言葉と同時に、聖剣より広がる光。


≪――聖剣、覚醒――≫



 無機質な音声が聖剣より響くと、ルディンの背後より緑光が顕現する。菱形が連なって出来たソレは左右に広がり、背より生える様に展開する所から、まるで翼の様にも見える。



 光の翼は障壁となり、ルディンの身体を覆う。マリア・ナイトの剣は光により遮られ、届かない。



「これはっ!?」


「うぁああああッ!!!」



 手に伝わる未知の感覚に驚くマリア。その隙を狙って、ルディンは己の聖剣を振るい――障壁を素通りした袈裟切りを、彼女へと浴びせた。



「……ッ!!」



 斬られる瞬間、後退する事で致命傷を避けたマリアだが、その動きには先程までの精彩は無い。


 ――いけるッ!!


 振り抜いた剣に確かな手応えを感じながら、ルディンは即座の追撃を敢行する。初めての聖剣覚醒。その能力に慣れていない自分では、此処で決められなければ勝機は無いと自覚していた。



 ――殺す!! 生きる為に、俺は殺す!!!



「ッ、うぁあああァ――ッ!」



 態勢を崩しながら、絶叫するマリア。

 ルディンが勝負を決めにきたという事を彼女も理解していた。


 生きる為、前のめりに居合いの構えを見せるマリア。

 土壇場で彼女が選んだのは己の必殺剣。


 サウザンド・ブレード。



「!!」



 ――躊躇ったら負ける! 前に!!



「――前に出ろォッ!!!」


「千刃ッ!!!」



 剣と剣が交差する瞬間――。



 ――閃光が、二人とその周囲を削った。



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