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~ 太陽の霊峰 2F ~
階段を登って出た場所は一度も見たことがない小さな小部屋、壁や床の雰囲気に変わりは一切見られない。
しかし落ちているアイテムは全く違う。
すぐ目の前に落ちていた杖、鑑定してみると火の玉を八発繰り出すことができる杖のようだ。
これは1Fで見かけることのなかったアイテムの一つ。
不思議なダンジョンの特徴、潜る日、階層によって落ちているアイテムやフロアの地形が変わる。
「ここは十字通路が多そうね、別々に行動してちゃっちゃと階段を見つけちゃいましょ」
そして特徴その二、階段に登ろうとするとパーティーのメンバーが自動的に転移させられる。
これで別々に行動しても階段さえ見つけられればはぐれることはない。
オリアナが言っている十字通路というのはダンジョン内の端に部屋が設置されていて、中央から部屋までの通路がいくつもの十字路になっている通路のこと。
部屋から部屋までの移動距離が長いのと、通路が多く魔物に挟み撃ちにされると身動きが全く取れなくなるため冒険者の中ではかなり嫌われている地形。
山や塔に多く見られる地形でもある。
「じゃあ僕は初めの十字路を左から進んで行くことにするよ」
「りょーかい、じゃあさっさと見つけちゃいましょうね」
僕は壁と壁の間の通路に向かって走り、数メートル進んだ先の十字路で左に曲がった。
オリアナは右に、このまま真っすぐ行った部屋が階段だったらとてつもない遠回りになるが確認できる部屋の数はこのやり方のほうが多い。
試行回数で攻めていくスタイル合理的で好きなスタイルだ。
また数メートル進んだ先で十字路にさし当たった。
ここを左か右か真っ直ぐか、かなり悩ましいところではあるが、
「直感で左!!」
左に進む通路に向かって走る。
すぐ部屋につくがアイテムが落ちているだけの部屋。
落ちていたアイテムはオレンジの果実。
空腹が半分ほど満たされるのと移動速度が少々上昇する食料アイテムの一つだ。
3Fで一度休憩が挟めるこのダンジョンにおいてはあまり必要性を感じないが、別のダンジョンに潜るときは20Fまで休憩無しなどざらにあるため一応回収しておく。
先程の十字路に戻ろうとした時、魔物が目の前から歩いてくる姿が見えた。
1Fで出会った山賊ゴブリン、どうやら一匹だけの様子だ。
僕は部屋への入り口の通路の壁に隠れるように身を潜める。
入ってきたタイミングで不意打ちし一発で殺す。
段々と近づいてくる気配を感じ取り忘れぬよう全神経を集中させる。
………
……
…
足が見えた瞬間――
僕は通路側へ回るように拳を突き出す。
殴った感触が手に残っているため手応えはバッチリ。
瞬きするまもなく灰になった山賊ゴブリンからなにか固形物が落ちていった。
どうやら山賊ゴブリンの持っていた石の斧がドロップしたようだ。
僕もオリアナも使わないため手荷物になると判断、スルーでまた十字路に向かって僕は走り出したと思ったら、足がよろついた。
疲労だとかけつまずいたとかの物理的な感覚ではなく平衡感覚が急に崩されるようなそんな不思議な感覚に陥った。
そしてすぐ目の前にはオリアナがいて階段があった。
「私の勝ちね!」
パーティーでの攻略が初めてということもあり階段に吸い寄せられるような体験を味わうことがないため恐らく脳が混乱したのだろう。
しかし、これに慣れるのも大変そうだなぁと僕は思いつつオリアナに「ありがとう」と伝えた。
~ 太陽の霊峰 3F ~
今度も小さな部屋、そしてすぐ側にはオレンジの果実が落ちている。
一応拾っておこうと歩いた時、カチッ! という何かが踏まれたような音が鳴った。
「まずい!!」
突然オリアナは僕の腕を取り瞬間空間移動、部屋の隅の宙に浮いた。
そして一秒も経たずして僕が踏んだ地面から周囲を破壊するような爆破が巻き起こった。
隣接していた壁は穴が空き、落ちていたオレンジの果実も消し炭。
小部屋で起こった爆発は爆音と惨事を残した。
「危なかったーー、なにしてんのさもう! ダンジョン内のアイテムを拾うときは常に罠の警戒を怠らない! これじょーしき!」
地上に降りるとオリアナに軽率な行動を指摘された。
ダンジョンの特徴その三、ダンジョン内にはいくつもの罠が設置されており基本的に設置されている地面を踏むと作動する。
この警戒を怠ると今のように、たった一つのアイテムの為にダンジョン攻略失敗なんてことが起こる。
恐らく一人では回避できなかった罠、スラスラとダンジョン攻略が進んでいる慢心から生まれたとは言え本当に命拾いした。
「ごめんなさい……」
「まぁいいけどさ、次からはちゃんと、確認するように!!」
怒ったことをわかりやすく主張するように頬を膨らますオリアナ。
意外とかわいいとか思っていたりしていて、少し見とれていると
「なにじっと見てるのさ、いやらしい」
見透かされていた。
とりあえずまた通路から部屋移動を行う。
今回は十字路ではなく入り組んだ通路の途中途中に部屋がいくつもあるスタイル。
比較的に探索が楽な地形になっていそうだ。
僕を先頭に後ろにオリアナという縦一列で通路を進んでいく。
「にしてもやっぱ二人だと攻略が楽でいいね~」
「そうだね、今の所戦闘も難なくこなせてるし、助けてもらえたり……」
「おいおい、テンションが下がることを思い出させないでよ~」
しかしあの爆発、そして爆音、太陽の霊峰。
なにか忘れているような気がしてならないでいる。
重要なことが、なにか……
そう思っていた矢先、僕が歩きながら考えていた重要なことが起こった。
「嘘でしょ……」
目の前には蜂の群れ、しかも一般的な蜂のサイズの六倍はある蜂「キラービー」
その蜂達を見て僕の脳裏にあのときの風景が浮かんだ。
初めてここに潜ったときの風景を……
ビクビクしながら歩いていた時、本来罠を踏まない魔物が混乱状態になっており罠を踏み、同じような爆発が起こった。
その時の痛み、今でも思い出す。
キラービーの群れに目をつけられ、為すすべもなく周りを囲まれ、毒針を刺され全身に毒が注入され麻痺感覚に陥ったところをワラワラと集まってきた「オオアリ」に貪られる。
僕の全身から流れ出る血を美味しそうに吸い取るヒルの群れ。
この一連の流れ、トラウマの一つ。
「いっ、嫌だ、僕は……嫌だ!!!!!!!!!!!!!」
その場で頭を抱え僕はしゃがみこんだ。
痛みだとかそういうものが恐いわけでもなんでもない。
体から湧き出てくる恐怖心による防衛本能が僕を勝手に動かしている。
心臓の鼓動がだんだん早く、大きく。
呼吸もだんだんと荒くなっていく。
「ダメだ、ダメなんだ、やっぱり僕には……」
体の震えが止まらず足もすくんでいる。
このまま戦っても無理だ、絶対に前の二の舞だと脳が信号を送っているのだろうか。
少なくともこのままここで震え上がっていても何も変わらない。
またゲートに戻されるのは確定だ。
――やっぱり僕には、無理なのか
頭の中で諦めの言葉がよぎった。
「なにしてんのさ」
誰の声だろう、この声は
聴いたことのある声だ、可愛らしい声
「そんなとこで震えてても何も変わらないよ」
わかってるよそんなこと
でも動けないんだ
「前に何があったとか知らないけどさ……」
じゃあ僕に関わらないでくれ、頼むから
「今は私がいるじゃん」
…………………………………
あぁ、そうだ。
この声は僕の仲間の声。
昨日はじめて会って、急に探検隊になろうなんて言い出した露出の激しい魔法使いの女性の声だ。
名前はなんだっけ……
オリアナ……
「さぁ、立ち上がって、私と戦うんだよ」
アニマ………
ここまで読んでいただきありがとうございました!