1-7
キートランドには四つの地方が存在する。
大雑把に紹介すると西にクレイ地方、東にタイダル地方、北にコイル地方、南にヒート地方。
つまり、太陽の霊峰のあるクレイ地方は今僕のいるタイダル地方と全く正反対の場所にある。
それをどう移動するかと言うと、
「太陽の霊峰付近までは六百マニーね」
「すいません、ありがとうございます」
「転移する時多少酔うかもしれないので気をつけてくださいね。それでは行ってらっしゃい!」
僕は灰色の作業着を着たお兄さんにお金を渡し怪しげな紫色の渦が巻くゲートに飛び込んだ。
これが転移ゲートと言われる空間移動という魔法を使って作り出された地方を行き来するための手段。
時間にしてコンマ二秒の出来事。しかし空間移動すると唐突に自分の見ていた景色が変わるため脳が混乱し酔う人が多い。
一時的なものなので少し経てば戻るけども独特の気持ち悪さ故にトラウマになる人も少なくない。
一瞬にして変わる空気と景色。
地元、だからあまり違和感を感じない。それでいて懐かしく気持ちのいい空気と言いたいがクレイ地方はそんな綺麗な場所でもない。
昔ガス開発に力を入れたお偉いさんのおかげで空気は少し淀んでいる。
「智也―――」
前の方から聞き覚えのある声が聞こえてきた。と思っていたら一瞬にして目の間にオリアナの姿が現れた。
突然美少女が目の前に現れたことで僕は一歩後退したが、そのせいでバランスを崩し千鳥足にようにちょこちょこと後退していき尻もちをついた。
「ぷっ……ふふふ」
「頼むから笑うなら隠さず笑ってください……」
「ごめんって……ふふっ」
…………………………………………………………………………
「ふふふ、あーおかし、じゃあ行こうか」
「………そうですね」
絶対いつか一泡吹かせる。
太陽の霊峰へのゲート前へ着いた。
一人で何度か来たことはあるがパーティーで来るのは初めて。
大丈夫、と自分に言い聞かせ深呼吸をする。
「なに深呼吸なんかしちゃってんの、行くよ」
「ふぅうう――のわっ!」
息を吐いているタイミングで背中を押されゲートの中へ僕は入っていった。
~ 太陽の霊峰 1F ~
ゲートから無理やり捻じ曲げられ生まれた空間から吐き出されるように不思議なダンジョンの内部に入る。
そのためどこに自分が着地できるかなんてものはわかったものではない。
白いトゲトゲした岩の壁に囲まれた大広間のような場所。
ここが今回のスタート地点のようだ。
「さて、じゃあ階段探そうか」
そう言うとオリアナは大広間の壁の間にできた通路に向かって走り出した。
「ちょっ、待って下さいよ、それよりまずアイテム収集が先でしょ」
「は? 攻略しに来たんだからさっさと階段見つけて登って終わりじゃないの!?」
駄目だ、この小娘はダンジョンのなんたるかを全く知らないようだ。
「ダンジョンというのはアイテムが豊富に落ちている、これを回収して換金することでお金を稼ぐことが大事なのだよオリアナくん」
鼻を高くし僕はダンジョンについて語る。
「なにいってんのよ、そんなことしたらお腹空いて動けなくなるじゃない、階段を探してる途中拾ったアイテムを換金すればいいじゃない、それと魔物からドロップするアイテム換金すれば十分お金は足りると思うのだけれど」
……
「もしかして今までそんなちんたらした攻略の仕方してたの?」
……
「だから半年経ってもランク一の冒険者なんだ」
「……はい」
言われてみればそうだと関心してしまった僕を今すぐ殺したい。
でも理にはかなってるし、実際お腹を空かせて動けなくなったことは何度かある。
ダンジョンの何たるかを知らなかったのはどうやら僕のようだった。
「そんなこと言ってる間に魔物来ちゃったじゃない……」
そう言われオリアナの指を指す方向を見ると「山賊ゴブリン」の群れがこちらに向かってきていた。
大した力はないが群れて行動するため早めに処理しないと手に負えなくなるのが山賊ゴブリンの特徴、主な攻撃スタイルはその手に持った石のハンマーでの殴打。
「やるわよ、私達の連携プレイ」
「連携プレイって……」
一瞬にして姿を消したオリアナ、僕は戸惑いながら辺りをキョロキョロする。
「上よ! 援護するから智也は地上からどんどん攻めていって!」
「おっ、おう」
予め知っていた戦闘スタイルに合わせた動き方をしてくれているのだろうか、少なくとも僕が近接戦を挑む上で自分が邪魔であることを理解した上での行動に驚きワンテンポ遅れながらも通路からわらわらと部屋に入ってきた緑色の人型生物達に目線を向ける。
入ってきたゴブリンは四匹、群れると言っても同時に三匹がいいところという情報を考えるとどうやら一階全体のゴブリンが集まっていたようだ。
「ぐえっ!」
通路から入ってきた二匹目のゴブリンが勢いよく落ちてきた水の塊に吹き飛ばされた。
オリアナの魔法だとわかるのは言うまでもない。
それに続くように僕は少し離れていた場所から先頭のゴブリンめがけ一気に距離を詰める。
威嚇するように斧を振り回しているゴブリンの背後に回るため僕の十八番の技を使う。
死滅の谷で死にかけ、見ず知らずの人から受け取った力。それを最大限に活用できる移動技、電光石火
体内にめぐらされた電気を足元に集中させ光の如く移動しゴブリンの背後を取る。
「ぐぅ!?!?」
間髪入れずに繰り出した電気を纏わせた足による回し蹴り。
後頭部を強打されたことで意識が飛び、そのまま倒れ灰になるゴブリン。
「前!」
その声が聞こえる頃には既にゴブリンが飛び上がり斧でこちらに襲いかかってきていた。
オリアナは魔法の使用によるクールダウンタイムにより空中にいることだけで精一杯。
僕がこいつを仕留めたいが態勢が回し蹴りのせいで大きく崩れている。
「ぐぎゃあ!!!」
確実に自分の攻撃が当てられることを確信したゴブリンが奇声をあげた。
「エレキベール!!」
石の斧による強打を左腕で受け止める。
本来ならかなりの強打だが電気の衣が腕を覆い、ダメージを最小限に抑えた。
「ぐッッ!!」
しかし相手の武器は石、流石に咄嗟の防御ではかばいきれず更に態勢を崩した。
「溜まったわ、大魔法行くわよ……」
空中にいたオリアナが呪文の詠唱に入っているのが見える。
「たゆたう水、永久を吹き過ぎゆく風よ、我が力となりて渦潮を巻き起こせ!!!」
両腕を大きく広げると広間内の空気の流れが変わった。
ゴブリンとゴブリンの間にできたスペースにオリアナの魔法によって発生した水が螺旋状に回転している。
三回転ほどしたところで勢いが急激に大きくなり天井すれすれまで高く巻き上がった渦がゴブリンたちを巻き込み、瞬きをしているうちに灰となった。
やがて渦は消え、いつの間にか地に降りていたオリアナが嬉しそうな顔をしてこちらへ走ってきていた。
「やったじゃない!! 打ち合わせもしてないにしては最高の連携プレイよ!!」
「あっ、ああ」
大半はオリアナの魔法で吹き飛ばしたんだけどなぁなんて思いながらうなずくように返事をした。
「それにしてもすごいじゃないあの移動速度!! 一体どうやってるの!?」
「あれは電気を足に纏わせて移動してるんだ、直線上の動きしかできないけど速度は誇れると思ってる」
それよりもあの渦潮と詠唱、恐らく風魔法と水魔法を同時に操っているような詠唱の仕方をしていた。
僕の知識不足なだけな気もするため深くは触れないが恐らく彼女は冒険者としては初心者だが、魔法使いとしての力は先程から二回見せられた瞬間空間移動合わせかなりハイレベルのように感じる。
初の戦闘、ゴブリン相手に大げさな戦い方をした気もするが、確かに戦闘がかなり楽になった気がする。
そんな高揚感を胸に抱き、僕はオリアナと共に他愛もない会話をしながら歩いていった。
ここまで呼んでいただきありがとうございました!