1-3
「私と、探検隊を組んでほしいんです」
「えっ」
「……えぇぇぇえええええええええええええええええええ!?!?」
僕のえっという声をかき消すようにポロンさんのえええ! という叫び声が店内に響き渡った。
こんな大声がポロンさんでも出せるんだ、と驚きながら僕はポロンさんにしーっ! とh人差し指を口に当て合図を送った。
ポロンさんは戸惑いを隠せないようだったが周りにお辞儀をし、小声で話し始めた。
(この女の子、誰なの?)
(いや、知らないですけど)
バシッ! と背中に平手が飛んできた。
(知らないわけ無いでしょう!? パーティーならまだしも探検隊よ!? 冒険者としての人生を一生共にしようって言ってるのよ!?)
(そんな事言われても知らないものは知らないですし……)
事実僕はこの女性とは一切関わったこともなければ見かけたこともない。
「あの……申し遅れてすいません、私 オリアナ=アニマと申します」
丁寧に会釈をし、僕を見つめている。
その吸い込まれるように綺羅びやかな金色の瞳はまるで一粒の宝石のように輝いていた。
「あっ、どうも」
呆気にとられながら会釈を返す。
「あの、大変恐縮なんですけど、僕たちどこかで会ったことありましたっけ?」
オリアナは首を横にふり、
「いえ、私が一方的にあなたを知っているだけです」
ますますどういうわけなのかわからなくなってきた。
僕のことを一方的に知っている……もしかしていつの間にか名の通る冒険者になってたのか僕!?
「今日の十二時頃、アイアスの森のゲート前でこれを拾ったんですよ」
オリアナが手に持っていたのは僕の個人情報が記載されているカード。
咄嗟に僕は下げていたかばんを漁るがギルドカードは見当たらず、どうやらあの全力ダッシュの時に落としていたらしい。
「あっ! ありがとうございます!」
差し出していた手からギルドカードを受け取ろうとするとオリアナは手を上げ、
「これを返してほしいなら私と探検隊を組んでください」
と要求を出してきた。
戸惑っている僕をポロンさんがどうしょうもないという顔で見ていた。
「あのさぁ、確かにこんな大事なものを落として気づきもしない智也くんにも落ち度はあると思うよ? でも流石にこれはひどい……というかせこくないかな?」
先程までのちょっとおちょくっていたような顔から一転、ダンジョンに潜る前に僕にアドバイスをする時……いや、それとはまた違う真剣な表情、口調。
ポロンさんとオリアナの睨み合いはその場に緊迫した空間を作り上げた。
「あのぉ、前進んでもらってもいいっすかね」
後ろに並んでいた軽装の冒険者が気を利かせてくれたのか声をかけてくれた。
ナイス! 冒険者さん!
「そうね、話はギルドでしましょ、今は、智也くんの買い物が先」
「えぇ、手続きもその場で済ませたいので丁度いいです、私は外で待っています」
最後の最後まで睨み合いを続け、オリアナは店の外に出ていった。
「あぁ、なんか、お前も大変だな」
「えっ、あっ、あはは、そうですね……なんかすいません」
「まぁ気にすんなって、頑張れよ少年、この後が修羅場だ」
「あ……ありがとうございます」
――一時間後
ようやく会計の終えた僕とポロンさんは外で待っていたオリアナと合流し、そのままギルドに向かった。
両手に花というのはこういう時に使うものなのか、とりあえず、冒険者になってよかった! と初めて思える瞬間が訪れていた。
右にはギルドの受付嬢の中でもずば抜けて人気なポロン=ミールさん。
左には紫色のビキニとスカートに上着を羽織っただけで、スラッとした体のラインが美しく、そして肩甲骨ほどまで伸びている艶のある藍色の髪が彼女の全体像をよりスレンダーに魅せているオリアナ=アニマさん。
これが互いに仲が良ければ最高なのだが、互いに目を合わせることもしなければ、無言。
非常に気まずい雰囲気でギルドまでのあと三十分を過ごさなければいけないのか……
「はぁ……あの、オリアナさんってなんで冒険者になったんですか?」
「えっ?」
「いや、なんか僕おかしなこと聞きました?」
「いや、そんなことは……冒険者になった理由、ですか」
そう言うとオリアナは何歩か無言で進んだところでまた口を開いた。
「ふくしゅ……いえ、夢のためですかね」
今、なにかいいかけたような……
でも今は触れるべきではないとなんとなく察した僕は話を続けた。
「夢、ですか、なら僕と一緒ですね!」
「一緒ですか」
「はい! 僕は金持ちになりたくって冒険者になったんです!」
その言葉を聞いたオリアナは唖然としたように目を見開いている。
「金持ちになりたくて、ダンジョンに潜って、一文無しになって、そんな時にポロンさんと会ったんですよ」
僕は、ですよね! とポロンさんの方に顔を向けると、ポロンさんは少し考えるフリをして、
「そういえばそうだったわね、浅瀬の海岸のゲート前で死んだ人みたいに座ってたところを私が声かけたんだっけ」
「そうですよ! あの時ほんとに救われたんですから、ポロンさんは僕の命の、人生の恩人です」
「なら、ダンジョンに行く前に私の言うことくらい聞きなさいよね」
肘でちょんちょんと脇腹を突かれる。
痛くは無いがくすぐったく、反射的に僕は体を縮こませた。
その一連のやりとりを見ていたオリアナの顔が少しばかり柔らかい表情に変わっていたように感じる。
「金持ち……ですか」
「金持ちです!!!」
僕は自信満々に答える。
「まぁ、金持ちの冒険者なんて、今の所三%くらいしかいないんだけどね」
「そうなんですか!?」
「そりゃ、ダンジョンに潜るたびにアイテム補充しなきゃいけないんだから余程高価な宝を手に入れない限り一回あたりのダンジョン攻略で得られる利益率は高くならないわよ」
「はぁあああああ、なんかやる気なくなってきたなぁ」
「こら、ここまで色々手助けしてあげたのにそれはないでしょ?」
「はい……」
こんなやり取りを続けているうちにようやくギルドに到着した。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
なんか前回は三人称視点主体なのに今回は主人公視点で話が進んでいるのでなんか進みが遅く感じますね!
これも小説の難しいところなんだなと痛感しています。