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日記片 -ある殺人者の記録-

日記片 -ある殺人者の記録- 解答編

作者: 舞平旭

解答編になります。


まだ読まれていない方は、「問題編」からお読みください。

2017年4月1日


今、恐らくこれで最後であろう日記片を読み終えた。

冷たい汗が全身を包み込み、鼓動が高鳴っている。


全ては・・・全ては私のせいだったのだ。

自身の愚かな振る舞いが、全ての元凶なのだ。

軽い嘔気をもよおしたが、必死に耐えた。

自分の犯した罪に驚愕し、書く手が震えている。

しかし、私は全てを今、書き留めておかなければならない。


もう時間がないのだ。



『真理亜』と呼ばれた『高橋幸子』を私は良く知っていた。

3年日記は彼女から貰ったものだ。

結局、半年ほど付き合って別れた。

主な理由は、妻に一目惚れしたからだった。

妻と付き合っていたわけではなかったが、私は二股みたいな器用なことはできない。

妻のことが好きになった以上、幸子と付き合っているわけにはいかないと判断したのだった。

また彼女は美しく、才気に満ちた女性だったが、かなり子供っぽいところがあった。

私はよく振り回され、そこにもやや辟易していた。



しかし彼女がお腹の中に、私の子供を宿していたとは知らなかった。

なぜ彼女は私に認知を求めなかったのだろうか。

彼女は産む気だったのだろう。

そして私に相談すれば、当然堕ろすように説得される。

そこで、堕ろせなくなるまで秘匿しておくことにしたのではないだろうか。


そう考えると、大学病院うちの産婦人科に診察に来た理由も、自ずと判明する。

それは妻に会うため。

二人にとって、いや、三人にとって最悪な出会いは、幸子によって意図的に創り上げられたのだ。


日記片からは、まだ産むか堕ろすか悩んでいたようにも読み取れるが、これは妻の主観が混ざっている。

第一、堕胎だたいのために大学病院までくる女性は少ないし、そもそも疾患関連以外の堕胎は行なっていない所も多い。

やはり、幸子は初めから産む気だったのだ。

そして間違いなく、彼女は別れた原因が妻にあると知り、妻に会いに来たのだ。


この最悪な出会いの結果、妻は幸子を愛してしまった。

妻が同性愛者であったことは、私を大いに打ちのめした。

結局、妻は私をこれっぽっちも愛してはいなかったのだ。



果たして妻に接近した幸子には、どんな企みがあったのだろうか。

今になってはその詳細はわからないが、私と妻の関係が親密ならば、お腹の子の父親が私であることを妻に暴露し、別れさせようとしたのではないか。

そしてあわよくば、自分と私の復縁を望んでいたのかもしれない。


信じたくはないが、日記片の記述が真実ならば、そう考えるしかなかった。

この日記片が狂人の妄想ならばどんなに良いだろうか。

しかし残念なことに、日記片は間違いなく、事実に基づいて書かれているのだ。

例えば、私に対する記述だ。



麻布のフレンチ・レストランで出会った男も、妻が尾行中に目撃した男も、共に私だ。

まさか己のことが書かれているとは思わなかったので、さっきまで全然気がつかなかった。


あの時、レストランで妻と幸子が一緒にいたのを見た時には本当に驚いた。

なぜ二人が知り合いなのか気になり、料理の味も、ワザワザ誘った連れの女との会話もまるで覚えていない。

こちらを向いていた幸子も私に気づいていたようで、始終俯いたまま、早々に席を立ってしまった。


私は彼女が妻に私のことを中傷していないか不安でたまらず、その晩に幸子にメールをした。

彼女は直ぐに返事をくれた。

恐る恐る開いたメールは予想に反して気さくで、妻は昔からの知り合いだといい、逆に何故知りたいのか尋ね返してきた。

私は彼女の言葉にすっかり騙されていた。

何度かメールをするにつれ、私は知らず知らずのうちに、幸子に妻との恋愛の相談をするようになっていた。


私は愚かだった。


私達の関係を、別れた男女が良い友人になるような事だと安易に納得してしまったが、お腹には私の子供がいたのだ。

それを私には告げない女が、他の女との恋愛の橋渡しをしようとする筈がない。



妻がストーカー行為をして私達を目撃したのは、メールのやりとりを少しした後のことだった。

彼女から会って話したいと、時間と場所を指定してきた。

幸子とはそれきり会っていないが、その時の彼女は妙にテンションが高くて馴れ馴れしく、私は少し引いてしまったのを覚えている。

あれは妻の尾行に気がついていたからではないだろうか。


考えれば考えるほど、幸子の策略が私を悲しくさせた。

全ては私の罪なのだ。



だが幸子は、私はともかくとして、妻を本当に傷つけようとしていたのか。

多くの状況が彼女の自虐的な謀の存在を示しているが、私には未だに信じられない。

日記片には、幸子の態度の変化が記述されている。妻と親しくなるにつれて、心の葛藤があったに違いない。

しかしお腹の子供はどんどん成長していくのだ。

いつまでも騙し続ける訳にはいかなかったのだろう。

全てを告白しようとした幸子は、妻に殺されてしまった。

妻はこの時、幸子から全てを懺悔されただろう。

そして恋が破れただけでなく、プライドもズタズタに引き裂かれた・・・自殺を考えるほどに。


しかしその矛先は、自分にではなく、全ての元凶である私に向けられた。

偽装結婚をしてまで、私への復讐を決意したのだ。

それは彼女が生きる糧として。

そして1月10日から始まり、私の誕生日である4月1日で終わる二つの物語の語り部として。

私と自分の贖罪のために、日記片を送りつけて。


しかし私はそんな妻を、今も心から愛している。



妻が料理ができたと私を呼んでいる。

今度は本物の牛肉であることを期待したい。


【了】


参考文献

聖書(口語訳)

厚生労働省「人口動態統計」 1996年~2013年

Wikipediaなど、インターネットの情報も利用させていただきました。

少しはお楽しみいただけましたでしょうか。


今後も頑張って書きたいと思いますので、よろしくお願いします。

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