失敗から垣間見た世界
ものすごく痛い
ここ数年で一番痛い
痛みで気がついたら朝というか昼でマオはとっくに出かけたらしい
昨日はビンタを受けた瞬間に意識を刈り取られたことは覚えている
すごい痛い
「…あっ、おはよーございます」
視界は昨日来たチヤがポーション作製台で器用に料理をしているのが見える
頭上から覗き込んでくるミドリ
どうやら膝枕から目が覚めようだけど…これ大丈夫?今日も夜にビンタされない?
「あの、ミドリ」
「あっ、大丈夫ですよ、今回の私はちゃんとマオさんに許可貰いましたので」
「あっそうなの…今回の?」
「はい、前回の私は初日で亡くなったようですね、何したのか…」
あー…?
「…あぁ、二人目の私に違和感があるんですね、うーん、話すと長いのでまたいつか、とりあえず新しい私は前回よりパワーアップしたのです」
えっへんと胸を張るミドリ
正直なところ頬が熱いくらいに痛いのと膝枕が居心地いいので長話でもいいのだが
「大丈夫ですよ、一人目が教えてもらった魔法陣の勉強は残ってますし、コウさんへの敬意も残ってますから」
敬意、敬意ねぇ?
「なんで敬意抱いてるんだ?」
「…うん?だって風魔法の原初なんですよね」
へぇーそうなんだ
「うーん」
ここでそうなの?なんて聞いたら敬意はなくなってしまうのだろうか
…このままでいいや
「ご主人、ミドリ、ご飯が出来ました」
チヤが呼びかける、よくちゃんとしたキッチンじゃない所で料理できるなぁなんて感心した
◇
人の手が増えるというのは本当に素晴らしいと感じる、今回のことは本当にそう感じた
特にアオはやって欲しいことを先にやってくれるのもあり
もう教えることは何もない…
みたいな感覚に陥る程だった
さて、そんなこんなで作ったものだが…
「それが?」
設置型のためお披露目形式だ
マオとソエルさんも一緒だ
「うん、別の世界、いわゆる異世界かな?それに繋げるための魔道具…道具というか施設だけど」
時間と空間に干渉していざ別世界!というものだ
一応過去も未来も行けるけど、その時代に見合う程度の代償がかかる
過去なら記憶、未来なら存在とか
怖いけど今回はソエルさんが指定してきた座標だ
何でもフェル?という人の空間らしい
…個人の空間ってなんかいいなぁ
「じゃあサクッと開けちゃいますねー」
見た目はソエルさん希望で台座に扉が刺さった感じ
少し歪だが厚みのあるほぼ円の台座
その中央に丸太のような太さが二本、上も丸太のような棒で繋がっている
名前をあえて付けるならゲートとか?
ほとんどが魔法陣で構成されているため丸太のような太さにしないと収まりきらなかったのだ
バチバチと丸太に囲まれたトビラ部分の空間が歪む
「…なにか変な匂いしない?」
マオがそんなことを呟く
変な匂い…?しないよ?
アオがそそくさと近寄ってくる
あー何かあったなコレ
「ご主人、座標がズレてます」
「ヤバいやつじゃん」
コクリとアオ
「アカ!ミドリ!直ぐにゲートを閉じて!チヤ!失敗だ、魔力供給用の魔法陣を抜いて!」
三人に指示を飛ばすがゲートは既に開き始めている
じわりと見え始めた先の世界は…
「…黒い砂漠?」
ヴォンという音と共にゲートが開く、魔力が切れて閉じるまで繋がったままとみる
「…これは酷い臭いですね」
「うん…」
さすがに自分も分かる、例える…例えるなら、向こうの世界は死んでいる、
腐った何かを燃やすような臭いだ
「空が、黒い」
暗く、黒い何かが降っているのが見える、こちらにその黒いものが入ることはないようにしているが気分は滅入る
ブツんっと暗闇が広がった、徐々に暗闇が小さくなりゲートの反対側、自分たちの世界が見えてくる
「…やばい世界だった」
自然と口元を覆ってしまう
空気もやばい
マオもえほえほとむせている
ソエルさんも不愉快そうな顔だ
再びアオが来た、四人は嫌そうな顔はしていない、生命体というのが何かあるのだろうか
「いざ魔力が流れた時に魔法陣が変容した…と思います、座標を固定する魔法陣なので何度も確認したはずですし…」
「熱で直に魔法陣が崩れたかもしれない、反発程度ならすぐにでも直せるけど…いや、組み直しだから無理か」
本日の異世界への扉を開くことは失敗に終わった
◇
ソエルさんとマオに謝りまた完成したら繋ぐことに
四人は一度ソエルさんの元へ戻るらしい、数日でまた来るとか
マオもソエルさん達について行く用だ、大きな魔道具は初めてだから何か起きるか分からないので自分は残ることに
「そもそも魔法陣が積み重なって形を作るのは耐久性に問題が発生してたのか…」
座標を決める魔法陣を確認したところ恐らくは重さで潰れて歪んでしまったと見える
魔法陣は魔力が流せる模様なので
唱えれば造られ
魔力が残せる軌跡で書ける
魔力を流せるものなら作れる
循環させる関係上で円になるが…
紙に描き何枚も重ねて立方体にした魔法陣の束は割と余裕で出来る
手の平台の魔法陣の塊は簡単な爆弾として使えるし
火と土の魔法陣を重ねてポンだ
今回のは建造物に近かった、そのため耐久性に優れるように魔力を流せる金属で魔法陣の束を作ったが…
結果的に重くなりすぎて、下が耐えられなくなる…と
本末転倒だな
魔法陣の金属部分に軽くなる魔法陣をちまちま彫るか?…それこそ何年かかるか分からないな
うーん、最近はすこし調子に乗っていたかもしれない
失敗が少なかったのもあるが、生み出す魔法陣が片っ端から成功したのもあるな
捻ると噛み合って水が出る魔法陣…マオが蛇口と名付けたやつ
それの応用で火を出すやつ
四属性の抵抗と少しの反発、魔素を利用した半永久的に動くやつ…マオ名付けでコイルだったかな
相手の思考を勝手に文字に起こすメガネ…は理論上出来てたけどマオに取られたからわかんないや
うーん、大きな失敗はないな
調子乗って…
…魔法陣を組み込んではいるが
魔法陣ってなんだってレベルでどうでもいいもの作ってんな
あー、アオにちょっと話を聞いときたいな…ソエルさんのところ行くか?
…いくかぁ
◇
木々は高く周りは少し薄暗い
マオとコウ以外に住む者のいない森は少し肌寒いと感じる気候だ
拠点から森の方へ…全方面森だが、進むとひっそりと祠がある
祠と祠を繋ぐ転移が可能な代物だ
「…えっとなになに?そのまま触ればギルド付近、赤い石をはめれば領主、茶色い石はソエル…ね」
祠の傍に捨てられているような置き方をされている木の板の文字を読むコウ、祠の真ん中に置いてある石の像が転移を可能としているのだろうと予想がつく
茶色い石をはめ込み、その姿は光に包まれた
読んで下さりありがとうございます
そろそろ終わります
この作品で書きたいことは書けてますし
この作品では書きたいシチュエーションがかけないので