人の手は便利だという話
それは、でかい魔道具を作ってた時だった
具体的には拠点の前の森を少し剥がして更地にした所を使うほどには
マオによるとギルド三つ分だとか
何個分って知らないので例えられてもわかんないよね
じゃなくて途方にもないことが判明した、一人じゃ何年かかるやら、ゴブリンの手も借りたいとこだ
「って言うわけよ」
「…うーん、そうねぇー」
マオは手を腰にあてたり組んだりして考える
わざわざ秘境の地に拠点を用意してもらってるから知られる人も選ばれないといけない、つまりは助手が欲しいなんて無理を言ってるのは承知の上ってこと
「やっぱり真面目な子がいいかしら」
「うん、まあね」
「面白い子もあり?」
「単純作業も話し相手がいればね、面白いなら尚良」
「力仕事は前提として」
「それは非常に助かるな、実はこの前作ったやつ重くて試しをしてなかったから」マオは軽々しく持っていったけど
「わたし的にもコウ的にも華のある女の子がいいわよね」
「う、んまあ?そう、なるかな?」
「不都合があったら消せるとなおいいわよね…」
「うん…うん?」なんて?
「じゃあソエルに頼むわね!」
そう言ってマオは駆けていった
最後なんて!?
◇
「そんな訳で紹介します、人型魔法生命体です!」
「よろしく!」
「よろしくおねがいします…」
「よっろしくー!」
「あ、よろしくね」
「え、なんて?」
人型なんて?
「人型魔法生命体!」
マオが連れてきたのは四人の少女
端から赤青茶緑の髪の子
挨拶の感じだと喜怒哀楽…というか四属性か、怒はいないし
「そのとーり、見た目どーり四属性っ子です!」
「火がつかえるぜ!」
「…」(だばだばと水を部屋にぶちまける)
「土だしていーの?」
「かぜよっ!」
まるで見通したかのようなマオの紹介に人型…四人が反応する、常識的なのは茶髪の子だけだな、うん
火が風で揺れて水に触れて消火される
危うく火事だよ?
「じゃあちょっとソエルとお出かけの予定になってるから私はここらで」
そう言ってマオは部屋から出ていく
最近マオはソエルさんとなにかしているみたいだけど…
「あ、その子たちに手出したら許さないからね」バタンっ
いや出さないよ…
「なっ、てーだすのか?」
「あや、変態さんでしたかー」
「そ、そんな…」
なんで緑の子は近づいてきたんですかね?
自分の背が低いのもあってほぼ変わらない身長差なんだよなぁ…
「えっと…コウくん」
モジモジしながら手を取ってくる緑の子
うん、うん?
生命体とは結局なんだろうか、なんというか、この子から脈?はない、人の手ではない、そんな感じだ
「失礼」
「あっ」
緑の子の心臓があるだろう所を触る
…心臓、というより、ずっと震えている、起動中の魔道具のイメージだ
カシャり
「!?」
赤髪の子がその瞬間を切り撮る魔道具を使う
絵を飾る額縁のようなフレームで起動させるとその瞬間が絵のように残り続けるという物だ、サイズはそこそこ大きい、魔素が無いと絵の部分は霧散する
自信作…だがなぜ撮った
「ふふっ、証拠絵画ね」
青髪の子が怖いことを言う
「おー、撮れちった…」
赤髪の子がくるっと回して絵を見せてくれる
…自分が緑の子に迫るどころかガッツリ触っているところだ
ちなみに胸部の上…いや、言い訳は無理だな、柔らかかったです
「これは手を出してますよね、言われた直後でしたよね、節操ないですね」
茶髪の子が追撃、ジト目だ
完全に嵌められたのだがマオからのビンタの一つや二つは慣れたもんだ
「どう見ても人だよな…」
「いえいえー、あくまでも生命体ですよ、食事はエネルギーにするので必要ですけど排泄しませんし生殖機能もないです、残念でしたね」
「とってもエコ」
「ひゃー…でもな、感情やら思考やらはあるから…」
「機能がないなら、つ、追加すればいいんですよ…ね?」
いやなんで緑の子だけ好感度たかいん?
エネルギーにしたのに排泄系がないのをエコだけで済ませる青っ子もなかなかよ
赤髪は顔を隠して指の隙間から見るのはなんというか…人だよ
「そうですね、マスターの指示的に主人の命令は受けるよう聞かされてますが…そっちの方面をお望みで?」
茶髪の子の目が鋭くなる、軽蔑の目だな
「いや、そんなことは無い」
マスターがソエルさんで主人が自分かな?
「…そーですか、相変わらず胸から手は離してないですが、とりあえず私たちに名前をください」
いやー、この細腕のどこにこんな力があるのか緑の子に手首を取られてから動かせないんだな、これが
…あたってますあたってます、あと距離感的に眼福
「名前ねぇ、得意な魔法は?」
得意魔法から名前…
あー、これ聞くのはミスかな?
全部なんちゃらボール系統が返ってくる気がする
「ヒートクロック」
「エンドウォーター」
「クリエイトロック」
「ウィンドナイフ」
…おう?知らない魔法しか返ってこなかった
「どんなだ?」
「燃やしていいのがないよ」
「やると燃えます」
「広さがないかなー」
「見ます?」
緑の子だけうふふ、とゾクリとする目を向けられながら
両手を胸の前で丸を作るようにする
一瞬風が吹いた
それにより解放されたので距離をとる
「…!?」
「あぁっ」
緑の子から本能的に恐怖を感じた
「…すぅー、与えるってことは元からないのか?互いにどう呼んでたんだ?」
なんだろう、下手に距離を詰めると首を落とされるような予感は
「そりゃー、色ですよ、髪の」
「アカ、アオ、ミドリ、私はキイですけどね」
「嘘言ってる…チヤの方が可愛いと思うんだけど」
「コウはどう呼んでくれるの?」
迫る緑の子
「…アカアオミドリチヤって呼ぶヨ…」
ズズいと迫るミドリがその、なんだ怖かった
「勝手に触っていいから色々と把握しておいで!」
とりあえず逃げる!
そう言って自分は寝室に逃げた
◇
「…別に、ただ逃げたわけじゃない、視界を共有する魔道具の試験をするためだったんだ、うん、そうだ」
ブツブツと言い訳をするコウ
ベッドに寝転び目を閉じ、瞼に少しごつい円盤を当てている
どうやら視界共有の魔道具を使い四人の様子を観察するようだ
「声を届ける試験もしたかったんだ、うん、一人じゃ出来ないし、計画ドーリダヨ、ウン…」
ほとんどが一人で過ごしているため視界共有をしてもそれがリアルタイムかなのか今まで分かっていなかったり
「どれどれ…見えてる、聞こえてもいるな…」
隣の部屋で四人は思い思いに動き始めていた
アオは片っ端からじっくりと観察をしていく
ミドリは書類の下などを、まるで何かを探すように漁っている、ついでに目がやばい
アカは椅子にダラりとすわり
チヤは窓から差し込む光で日向ぼっこしている
「…自由だな」
そのつぶやきが声を届ける魔道具から発せられたようだ
「っ!コウさんの声がしました!」
ガシッと全体が小さい網目の球をミドリがみつけだし、確保する
「おぉう…」
「ふっふーん!その反応からするにどこかから見てますね!?なんならこれですか?あ、どこかというか隣からですけど…変な魔道具ですねー!」
テンションが上がり、まくし立てるように球に話しかけるミドリ
「ミドリ、それ見せて」
音を届ける魔道具をミドリから取り上げるアオ
「あぁっ!私のコウさんがっ」
いや、お前のじゃないが
アオは魔道具に興味があるようだ、同じ形の別のところにある魔道具に切り替えるとアオが食い入るように見ているのがわかる
チヤはチラチラと見ていてアカは寝ている
性格までバラバラだともはや人なんだが…心音は駆動音のようだったしなぁ…きになる、心臓部は直接見てみたい気さえする
「はっ!コウさんが私の事考えてる気がする!」
ミドリが唐突に立ち上がりキョロキョロと周りを見る
何だこの子…
魔道具越しに目が合った
「ひぅ…」
「はっけーん!そんなとこにもいたんですね!」
全員が見れるようにそこそこ距離があったはずなのに見つけられるという
怖い怖い
「ふふん、もう離しません」
そんなこと言いながらミドリの胸に押し込まれる魔道具
全面肌色だ
…切り替えよ
さて、そんなことしたあと
全員に首から下げれるようにした球を渡すことにした
本来の目的である手伝いだが、魔道具作成の技術は皆無だったので教えることに
四人とも飲み込みが早くアオに至っては投げ出した設計図段階の魔道具を完成まで仕上げる程には理解している
他の視点って大事なんだなって思ったね…
◇
「それで、これはなんなの?」
夜、帰ってきたマオの前に正座中だ
横にはミドリも正座してる
他の三人はマオ側に立ってる
マオの手には瞬間を切り取る例の魔道具
「…絵画の魔道具でございます」
「…」
ミドリは若干震えてる気さえする
後ろでまとめたポニーテールがフルフルと震えている
「あぁ、例のデカすぎて使い勝手が悪い…って評価の」
いぐざくとりー…
「じゃあやっぱりこの瞬間があったんだ」
「ありましたねー」
チヤが追い討ち、目が鋭い
アオとアカは立ってぼーっとしている
マオからはなんか黒いオーラが見える気がする
顔が怖い
「…とりあえずビンタでいい?」
ニッコリと微笑むマオ
パァッンっ
◇
ミドリはマオのビンタに震えるしか無かった
人を気絶させる…というかベッドの方に吹き飛ばすビンタがこの世にあるとは…と
同期の三人はご主人のコウさんの方に向かっていく
一瞬でもマオの腕の魔道具が起動したのに目を光らせている余裕なんてなかった…と今はただ俯いている
「それで、えっとミドリちゃんだっけ?」
マオの声にミドリの体がビクリと反応する
…この体に、恐怖を感じる機能はなかったはずだと先程から反復しているが、これはどう見ても恐怖を感じている、ミドリは混乱していた
「あなたたちはねー、いつでも消せちゃうの」
「え…」
顔を上げると目の前にマオの顔があった
…黒い、笑顔
「…うそ、ですよね」
マオの手がミドリの頭に伸びる
「なんで」
ガシッ…とマオの手がミドリの頭を掴む
あぁ、軽い遊び感覚でからかうのではなかったとミドリの後悔は虚無に消えていった