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正しいゾンビイの作り方

作者: 雪河馬

ワタシハシンダノダ。


クルマにはねられて体がポンって空に舞い上がったのは覚えてる。

そのときは、イタイというよりもカルイって感じ。

わたしはほんの5グラム程度のタマシイになり

抜け殻のワタシは地面に頭から叩きつけられた。

いつもそうだ。前を向いて走ろうとすると

大きな石につまづいて転んじゃう。

わずか16年のわたしの人生よ、さようなら。


そのあとの記憶は途切れ途切れのバラバラでパッチワーク。

泣いているお母さんや友達の姿が見えた。

わたしのカラダが紅い蛇の舌に舐められて崩れていった。

最悪の状況の中、いいこともあった。

同級生の彼が来てくれた。

ちょっとカッコイイなって思っていたんだけど

かれは無口でわたしは内気だし、話す機会がなかった。

彼に最期に逢えてよかった。

もっと話しておけばよかったな。

意識がぼやけていく、眠い。


次の記憶は不思議であいまいな記憶。

気がつくとわたしは土の中にいたんだ。

まわりは真っ暗で何も見えない。

わたしはもう、3グラムくらいになっちゃった。

こうやって最期はゼロになって消えるのかなと思ってたら

突然光が差し込んできて、光の先に彼の顔が見えた。

いつもと同じ無表情だけど、すごく暖かく優しい波動を感じる。

彼は左手を土の中に突っ込んで、わたしをすくい上げてくれた。

暖かい手の中でわたしは気持ちよくって、また眠っちゃった。


どれくらい眠っていたのだろう。

研究室みたいな暗い部屋の中で私は目覚めた。

緑色の液体で満たされたビーカーの中にわたしは浮かんでいる。

ビーカーから右手を伝って白衣を着た彼の顔が見えて少しホッとする。

彼さえそばにいてくれたら怖いものなどない。

彼はピンセットで変な肉片のようなものをつまみ上げてビーカーの中に入れる。

気持ち悪いよお、これなに?

ビーカーをかき回し始める。

やめて、目が回っちゃうから。

「これはね、八百比丘尼(はっぴゃくびくに)の身体の一部。」

八百比丘尼ってなんだろう?

「八百比丘尼はね、人魚の肉を食べて不老不死になった女性といわれているが実際は違う。」

「本当は徐福(じょふく)さんの薬によって不老不死になった人、僕の母なんだ。」

その、なんとかびくにが彼のお母さんだとすると彼も不老不死なの?

彼のお母さんの身体って、お母さんは死んじゃったの?

頭がぐるぐるする〜。複雑なこと考えるにはあたまが不足してるんだ。

「僕はハーフで、完全な不老不死じゃない。でも普通の人よりは遥かに長生きだ。」

彼は、わたしの思考に答えた。

「母は、今も生きているよ。ただ・・・・、昔の母じゃない。」

「戦争で焼夷弾に焼かれて母の身体はバラバラになった。今は元に戻ったけど・・・。」

一瞬、瞳が曇った。

「僕は一人で目立たないよう生きてきた。」

色々大変だったんだなあ。だからあんなに大人びて見えたのか。

実際わたしよりずいぶん歳上だったし。


彼は陶器の皿に入った香木に火をつける。

煙はあたり一面を覆い尽くし、ビーカーも煙に隠れた。

「これは反魂香(はんごんこう)といって、魂を肉体に呼び戻す成分が入っている。」

肉片は溶けていき、水がピンク色に変わる。

更にかれは机の中から青い小瓶を取り出し、ビーカーに注ぎ込む。

「これはレトロウイルスを使ってリプログラミングされた君の細胞の培養液。」

私の細胞?。やだあ、いつの間に。ちょっとひくんですけど・・・。

「髪の毛1本でも残っていれば作れるんだよ。これを仙薬と混合する。」

彼は苦笑した。うーん、思っていることがすべて伝わるってちょっと恥ずかしい。

「徐福さんの時代には細胞再生という技術はなく、死者を蘇らせることはできなかった。」

わたしが死んでから彼は大学の研究室に入り、細胞のリプログラミングを研究していたらしい。

「だいぶんと徐福さんに助けてもらったけどね。やっと完成した。」

5年かけて彼は死者の再生技術を発見した。

そして、彼はその技術でお母さんを再生した。

さすがのわたしにもすごいことだとわかる。

彼は死から人間を解放したのだ。ノーベル賞ものだ。

「それはないよ。だってこれは、神の摂理に抗うことだから。」

彼はコンピュータを操作しながら言った。

確かにそうだよね。人が死ななくなったら人口が増え続けておかしなことになっちゃう。

「でも、摂理に反しても、僕は君を死なせはしない。」

彼は情熱的な瞳で言った。あ、この人こんな顔するんだ。

気持ち悪いと思ってごめんなさい。すっごくうれしい。

でも、死なせないってのは無理だと思う。

わたしもう、死んでますから。

彼は笑って訂正した。

「そうだね。よみがえらせるっていうほうが正しいよね。」

わたしの3グラムの魂を中心として何かが伸びていく。

「君の身体が再生するまでにあと5年かかる。それまでお別れだ。」

そうなんだ。すぐ戻るわけじゃないんだ。

「それと、まだ技術的な問題があっていろいろ副作用があるんだ。君はゾンビとして生まれる。」

ええ〜〜〜、ソンビってあの人の肉を食うやつですかあ。それは絶対イヤだ。

「見た目だけでふつうのものを食べるよ。映像の逆回転だと思ってくれればいい。」

彼は私の不安を取り除くよう、説明してくれた。

リプログラミングされた細胞は記憶の最後の状態、死んだ時の状態で再生される。

そこからは不老不死の秘薬の効果で徐々に細胞が再生されて、最後には正常な状態にもどるそうだ。

「そのためには君が生きたいと強く願わないといけないよ。意思の力が細胞を動かす。」

彼の言葉がぼやけて聴こえる。視界もなんだか二重写しだ。

「ちょっとの間、お別れだ。」

彼は私の体をバスタブくらいの水槽に移した。

「実はもうひとつ、副作用があってね。君は目覚めた時、記憶を失ってしまう。」

それは嫌だな。だってわたしは、もう彼に恋をしているから。

「母の記憶も戻らない。でも、いつかきっと解明してみせる。」

その言葉を信じよう。

たまらなく眠たいけど、もう少しだけ彼の顔を見ておきたい。

そんな想いは伝わっているはずなのに、彼は気づかないふりをする。

「それじゃ、おやすみなさい。」

彼は水槽の蓋を閉め、暗闇に満たされた。

薄れゆく意識の中で私は思った。

次に目覚めた時、彼に向かって大きな声で言おう。


おはようございます!



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