第93キロ 諦められない想い
「また溢れてますよ!!」
花子が慌てたように言う。
自分の感情のチョコレートを相手に渡すなら、しっかり制御して渡せるようにしなければいけない。花子は制御が上手く、市販の箱を用意して、感情のチョコレートをまるで市販のチョコレートのように見せかけることに成功していた。
ちなみにフィールは以ての外だ。義理チョコですよ、と言いながらひょいひょいチョコを作り出していた。
「もういっそチョコレートフォンデュ……いや、チョコマウンテンにして『これが私の気持ちです!』って渡しちゃえば?」
「恥ずかしいに決まってんだろうが!!」
「大丈夫。実君だけは気づかないですから。」
確かに気付かなそうだけど!!!
他の、意味を知ってる連中からしたら丸わかりじゃないか。感情にはカロリーがないから、実は喜んでたくさん食べてくれるだろうけど。
「もういっそ一日中傍にいて、ずっとチョコを垂れ流しにして食べたいだけ食べさせればいいんじゃないですか?」
「は?」
「いいと思います!チョコバイキングですね。」
「ええー?」
いや、でももう手段はそれくらいしかないのでは?溢れる思いがチョコレートとして具現化して止まらないわけだし。
「開き直ってチョコパーティ開いてやる!!」
そうと決まればさっそく準備だ!!
「うわぁ……。」
俺もそう思ったけど、声に出してない。声に出したのはフィールである。
「元婚約者に会ってその態度はどうなんだ。」
「元婚約者にあったからこんな顔してるんだろ。」
後ろで花子がえ?婚約者?!とか言ってるがそんな甘い関係じゃないからな。
「今回、お前がここにいると聞いてチョコの日にチョコを渡そうと思って来た。だが、ここで会えたのも縁だろう。一日早いが俺のチョコレートを受け取って」
「いらねえ。」
「取り付く島もありませんねー。」
ウィリデに背を向けて歩き出す私にフィールがそう言いながらついてくる。花子も戸惑いながらもついてきた。
「お、おい!あのデブがいないんだから受け取ってくれたって良いだろう?!」
「お前のことは振ったはずだ。それにあいつの名前は実だが?」
ついてくるウィリデに振り返らずに答える。
「あいつと上手くいってないなら俺だって」
「俺が実に振られようが、上手くいってなかろうが、それとお前は別問題だ。」
俺は里で言ったはずだ。ウィリデを好きになることはないのだと。
「俺がお前を、メイを好きなのは仕方ないだろう……。」
何処か辛そうな声色。あんなにはっきりと振ったのにこの男はまだ俺を諦められないらしい。
「確かにそれはお前の問題だから、俺の知ったことじゃない。」
思うだけなら、そう悪いことでもないと思う。けれど
「俺に付きまとったり、迷惑をかけたりすると、俺はお前を排除しなきゃいけなくなるんだよ。」
思うなら、思うだけにしろ。関わってくるな。俺は十分にその意思を伝えているはずなのだ。
ウィリデはぐっと唇を噛みしめて立ち去った。
「相変わらず容赦がありませんね。」
フィールがへらへら笑う。
「思いを返す気が全くないのに、受け取れるわけがないだろう。」
俺はこれでも誠実な対応をしたと思う。
ウィリデさんは一途なのでここから先もメイさんを想い続けると思います。