第89キロ 告白の練習
陸に戻って洗った海藻を食べる。
実はチューイングガムとかなんとか感想を言いながら食べていた。
そんな俺は少し怒った感じのフィールに呼び出された。
「メイちゃん!このシチュエーションを活かさないでどうするんですか?」
サラマンザラもそんなことを言っていた気がするが
「急にできるわけないだろ。」
フィールは不満げだ。
「滞在中にチョコの日もあるんですから、行動を起こさないと。」
「チョコの日……。」
「というわけで!告白の練習をしましょう!」
「はあ?!」
フィールが信じられないことを言い出す。
「好きなんでしょう?実君のこと。」
「っ……。」
言葉を詰まらせるのに、ポロリとチョコレートが落ちる。本当にこの感情は、制御が効かない。
「理不尽も、不条理も、世の中にはありふれてる。それがいつ、自分に襲ってくるか分からない。その時に後悔したって遅いんですよ?」
言わなければ後悔するでしょう?
フィールは静かにそう言った。
俺以外の誰も知らない。けれど実は、異世界からやって来て、いつ帰ってしまうかもわからない。彼からしたらこの世界に来たこと自体が理不尽で不条理なことかもしれない。
そうだとしたら、実が帰ることは、いなくなってしまうことは、理不尽でも不条理でもない、正しいことなのかもしれない。
「……そうだな。」
「ん?」
「伝えられる時に、伝えたい……。」
「はい!!」
フィールは良い笑顔で頷いた。
とはいっても……。
「告白ってどうするんだ?」
「そりゃあ、好き好き大好き愛してる~って感じですよ。」
「はあ?!」
なんだその恥ずかしセリフは?!聞くだけで恥ずかしなって顔が赤くなる。
フィールは可笑しそうに笑いながら
「とりあえず言ってみてくださいよ!ほらほら~。」
フィールに急かされて、口を開く。
……が
「っ……き。」
「言えてませんよー……?」
だって、恥ずかしい。本当に本当に、そう思ってるんだもん!!
息を吸って、勢いをつけて口を開く。
「っ好き!!好きっ……。」
フィールの顔を見る余裕もない。
俯いて必死に想いを口にしてみる。
実への想いを。
「大好きっ……!!」
必死に胸に溢れてやまない想いを。
息がつまって、すごく言いにくいけど、口にする。
「愛してる……っ。」
痛いほど苦しい胸に手を当てて、必死に言い切る。
いつの間にか視界が涙でぼやけてしまっていた。
言い切って、ようやくフィールのことを見れる。
練習でもこんなに苦しいなんて、本番は死んでしまうかもしれない。
「……フィール?」
フィールは固まって何も言わない。
真顔で、動かない。
何かおかしかっただろうか。不安になっているとフィールが大きくため息をついた。
「あー……うん。私じゃなかったらヤバかったですね。」
どういうことだろうか。
「ほら、私感情屋なので。感情をコントロールするのが仕事ですから。」
「はあ?」
フィールは私の反応に苦笑した。