第88キロ お菓子の海の生物
「で?サラマンザラは?」
「え?」
「泳がねーの?」
メイが海から出てきながら、髪をかき上げて言う。太陽の光をバックにしててすごく眩しい。
「……えーと……。」
サラマンザラは何か気まずそうにしながら目を逸らす。
「もしかして……。」
この反応は
「泳げなかったりする?」
俺がそう言うとサラマンザラが固まった。
「へーえ?そうなんだ。」
メイが俺の横でニヨニヨ笑っている。
「良いんですよ!俺には竜がいるんですから!!」
そう言えばドラゴンライダー的なものだった。
「サラマンザラの竜は泳げるの?」
「泳げるかどうかは微妙ですけど、水とかを嫌う様子はなかったですねー。」
サラマンザラは何かシュノーケルとマスクを持ち出した。
「とりあえずダイビングとはいきませんが、きれいな海を見てキャッキャッするのも良いんじゃないですかね!!」
サラマンザラが俺は深い所には行きませんけど!!と宣言する。
「まあフィールも屈強な戦士も護衛としての役割もあるんで、二人を見守ってるので安心してください。」
確かにチョタコやアメイカが存在する海の生態系は微妙に気になるところだ。
「まあ、俺も一通りは説明できるから説明してやるよ。」
メイがサラマンザラからシュノーケルを受け取る。俺はお言葉に甘えることにした。
「いないな。」
浅瀬にも何かいると思ったけど何もいない。死海とかあんまり知らないけど、特殊系な海って生物がそんなに住めないとかやっぱりあるのだろうか。
「おお、見ろ実。果実魚が泳いでるぞ。」
メイに言われてそちらを見やる。そこにはカラフルな魚が泳いでいた。
「あれは果物の味がするんだ。このお菓子の国の周りに多く存在していて、温かいソーダの海で生まれ育ち、大人になると冷たいソーダの海に移動する。」
「うーん……。それって……」
シロップ漬けってことじゃないか?
果物の味がすると言うと、赤がイチゴとかリンゴで紫がブドウ、黄色がバナナって感じだろうか?この世界の果物の名前がそれで合っているのかは分からないけれど。
海の中を見下ろしながら泳いでいく。
カラフルな何かが海の底から生えているのが見える。ワカメとかみたいに揺蕩っている。
「あれはこの辺の海藻だな。色んな種類があるけど、そのまま食べたり乾物で食べたりするぞ。」
メイはそう言うとグッと潜水して海藻を根元から採ってきた。
「陸に持って帰って洗って食べよう。」
足が付かないところに来て大分進んだ。
自分の身長の3倍くらいの深さのところまでやって来た。
「ん!!」
メイがシュノーケルをしたまま、俺のことをパシパシ叩く。そちらを見ると何か黒っぽいものが地面をゆっくり進んでいた。
(うわあ……動いてる。)
チョタコだ。市場に並んでいることがあるから分かる。にゅるにゅると動くチョタコはどちらかと言うと流動体のようだ。食べる時は普通のチョコっぽかったんだけど……。
「チョタコは生きてる時はああいう風に動くぞ。」
「へえ……。」
「チョタコは基本的に冷たいソーダの海にしか生息していないからな。見れてお得だな!!」
「お得というかラッキーというのでは?」
あたたかい海だとチョタコは溶けるらしい。
で、冷たいチョコの海は無いらしいので、冷たいソーダの海にしかいないということらしい。
「ちなみに踊り食いも可能で、その場合はあのにゅるにゅる感が味わえる!」
「生チョタコ……。」
うーん……あんまり食べて見たくない気がする。
「まあチョタコは温めれば溶けるんだけどな。」
「うん。食べるならそっちにするよ……。」
そんなことを話しながら海の中を眺める。ソーダの海とは言うけれど、炭酸によって視界があからさまに悪くなるほどじゃない。むしろ普通の海より透明度が高く感じるくらいだ。
(いや、炭酸が入ってると水の透明度が高く見えるんだっけ?)
そんな話を以前何処かで聞いた気がする。
「見ろ!実!!」
メイがはしゃいだ声で呼びかけてくる。今度は何を見つけたのだろう。
そちらを見て、俺は目を見開いた。
ある程度近くをひらひらと優雅に泳ぐ姿。
あの部分は何という名前だったか。みみとか呼ばれていたような気もする。
生で見たアメイカは七色の光を反射しながら泳いでいた。
飴細工としても精巧だと思っていたけれど、生き物としてはもっと細かく見える。
綺麗な、生きる飴細工。
「すごいな!こんなに大きなアメイカが、浅瀬側に来るなんて珍しいんだぞ!!」
メイが興奮気味にそう言った。
「うん、すごかった。」
暖色が多めのオーロラのような生き物だった。
感嘆の息を吐く俺を見て、メイは嬉しそうに笑った。