第84キロ それぞれの思惑
「あからさますぎですよ!!」
俺がメイへの感情を持て余しているうちにヤリッパとかカリッパがどうなるか決まったらしい。無期懲役的な刑になったようだ。
カリッパの家はカシッパが正式に後をつぐとかなんとか。何かあればシタッパがサポートするらしい。それにしても本当に名前がややこしいな。
そんなことを考えているとサラマンザラが机をバンッと叩いた。それにびっくりする。
「自覚した途端に避けるとか!ありえないですよ!!チョコレートフォンデュも大惨事ですが、悲しみのドロップでリアルに飴を雨のように降らせたいんですか?!」
「知らないけど!!とにかく、無理!!まだ自分の感情に慣れない!!」
サラマンザラが大げさにため息をつく。
俺たちはまだ、事態の完全収束まで城に滞在している。けど……
「そもそも二人とも同じ屋根の下で二人暮らしじゃないですか!どうするんですか?」
その通りである。研究所めいじつに俺たちは二人きりで住んでいる。いや、ニジとかリーダー、ミズタマン、トントン……そもそも大樹自体生きているので二人きりじゃないような気もするけど。
とにかくこのままの状態じゃ、研究所での生活すら色々危ないかもしれない。
「とにかく、少しでもかっこよくなる!!」
雪の国で体重を気にするような環境じゃなかったけど、戻ってきたのなら積極的にダイエットである。痩せればかっこよくなるのかは分からないけど、健康的にも見た目的にも痩せることは大切である。痩せて健康度が上がれば、ワンチャン美容効果とかもある気がしなくもない。とりあえず俺はスクワットを開始した。
「お、俺、実に避けられてる気がする……。」
抑えようとしても抑えきれずポロリと一つ悲しみのドロップが地面に落ちる。実はこの場にいないのでドロップを拾い上げて食べてくれる人はいない。
それでもこの場にいる人物は俺を慰めてくれようとは思っているようだ。
「ひ、否定はできませんが、変化が悪いとも限りませんよ!!」
慌ててフォローしてくれるのは花子である。
「例えば幼馴染から恋愛対象の女の子になるのなら良い変化ですし……。」
「でも避けられてるってことは、嫌われてるかもしれないだろ……。」
その可能性が否定できないからこんなにも苦しいのだ。むしろ好かれるよりその可能性が高い気がする。俺の言葉に花子は何とも言えない表情をする。
「実の目の前でヤリッパを潰そうとしたから、ドン引かれたのかな……。」
目の前の花子の表情が擁護できない感じの表情になる。
……これは花子にドン引かれているな?
「よし。皆で慰安旅行に行きましょう。」
今まで黙っていたフィールがいきなりそんなことを言い出した。
「今回のことは結構大きな国益になったんですよ。王もそれくらいは許してくれるでしょう。」
いきなり、どうしてそうなる?
そう思いながら口を開こうとすると
「だってこのまま研究所に帰ったら気まずいですよね?」
と言われた。
……確かに。
「お二人に下手なことをされると災害になりそうですし。黒いドラゴンのことも調査中で急ぎの仕事もないですから!」
旅行行くなら今です!とフィールに熱弁される。
「それにメイちゃん、実君の水着姿とか気になりません。」
「正直言って気になる。」
というわけ俺たちは旅行に行くことになった。
「ちなみにどこに行くんだ?」
「そりゃあ、有名観光国。お菓子の国ですよ!!」
俺は感情屋のフィールに縛り上げられていた。
「なんで俺なんですか?!」
「決まってるでしょう。実君が変だからよ。」
「なんで俺?!」
縛り上げるなら実さんの方が良いと思う。ボンレスハムみたいに多分なると思うけど。
「実君を縛り上げるのは重そう……いやちょっと可哀そうだし?自重で肉に感情の紐が食い込みそうだし……。」
その後ぼそりと、
「下手なことするとメイちゃんに潰されるし。」
と呟いた。
それが本音か。
いや、前半の理由もわからなくは無いが。まあ、彼女になら話しても良いだろう。
俺はため息をついてから口を開いた。
「実さん、メイさんへの想いを自覚したんっすよ。」
彼女はその言葉に静かに頷いた。
「そんな気はしてたわ。」
彼女と一緒にため息をつく。
「面倒ね。」
「ですよね~。」
さっさとくっついて欲しいけれど
「どう転ぼうと、暴走するとヤバいから……。」
付き合うことになってもチョコレートフォンデュになりそうである。
「そろそろチョコレートの日だし、いい機会ではあるけれど……。実君、感情を分かってないからね……。」
「そうなんですよねー……。」
感情を零さないし、感情の意味も分からない。
メイさんも感情には疎めで、特にチョコレートの感情についての意味を知ったのは最近のようだけど……。
「普通ならもうすでにバレバレだし、両者ともにチョコレートまみれな気がするんですけどね~……。」
俺たちは顔を見合わせてため息をついた。