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第83キロ  素数を数えるようにたんぱく質について考える

サラマンザラが伸びているヤリッパを拘束する。

それを確認して、少し気が抜けた。


(…………。)


うん。駄目だ。落ち着いたら、自覚したことを思い出してしまった。

何かが胸の中でじわじわ湧き出してくる。


「なあ、実。」

「ふぇっい?!」


メイに話しかけられて思わず飛び跳ねてしまう。


「どうしたんだ?大丈夫か?」


怪訝そうにメイが顔を覗き込んでくる。俺はそれを必死でかわす。


「なんだよ?怪我でもしてんのか?……顔が赤い気がするな……。風邪か?霜焼けか?!」


メイは心配そうに俺の顔を正面から見ようとしてくる。


(待って?!待って!待って!!なんか!なんか無理なんです!!マジで勘弁してください!!!!顔が赤いとかそういう問題以前に、心臓が痛くなって死ぬから!!デブの心臓にこれ以上負荷をかけないでください!!)


迫ってくるメイをどうにもできないので、必死にサラマンザラに視線で助けを求める。

サラマンザラはため息をついてからヤリッパをマッチョンに引き渡してこっちに来てくれた。


「霜焼けとかかもしれないですね~。あれですよ。そういうので腫れると余計太って見えるじゃないですか。そんな姿を医者以外に見られるのは恥ずかしんじゃないですかね。」


なんか微妙に悪意を感じるが、せっかくの助け舟だ。俺は全力で頷いて同意を示す。

するとメイは渋々といった感じだが引いてくれた。物理的に距離が出来て少し安心する。


因みに冷たさでダメージを受けて腫れてるならどっちかと言うと凍傷です。

霜焼けは寒さとかが原因で血行が悪くなって、血行不良によってダメージを受けて腫れるんだとかなんとか。

だから霜焼けは寒い時期だけじゃなく、寒暖差が激しい時期にもなりやすいとか。

詳しくは小林さんにどうぞ。


俺に考えられることなんて、病気でも怪我でも、体の発熱でもたんぱく質を摂ることだけだ。

もちろんたんぱく質をしっかり体に回せるようにビタミン、ミネラル、炭水化物も忘れてはいけない。


え?たんぱく質を分解したり合成したり代謝したりしていくのにビタミンとミネラルは分かるけど、どうして炭水化物が必要なのかって?


以前、アミノ酸プールについて話した時に……そこまでは話してないか。

とりあえずメイと距離をとりたいので現実逃避がてらその辺りのことを羅列しよう。

あれだよ、数学系の人が虚数を数えるのと同じ……。

あ、素数だな?どうやら俺は大分テンパっているらしい。


生きていくことには優先順位がある。血液中のカルシウムが足りなくなると骨を溶かして、そこからカルシウムを持ってくるのと同じ感じ。骨の強度よりも血液の成分維持が大切なのだ。

では、たんぱく質を回す場合に体を作るより優先されることは何か。

人間が生きていくのに一番大切なことだ。


そう……エネルギー!!


カロリーやジュールで単位が示されるエネルギーだ!!

うん。自然界でも色々大切なあれである。

ほら、生物学的に光エネルギーを吸収した植物を草食動物が食べて~それを肉食動物が食べて~の食物連鎖もエネルギーが関係してる感じである。


肉体を作るより大事ってどうなんだと思われるかもしれないけれど、体成分の合成・分解・体温維持・最低限の臓器活動の維持・基礎代謝・身体活動などなど、生きているということに必要なことなんだよ。

体の一部が欠けたり、筋肉が無くなったりするより大事!

で、体を作るたんぱく質はエネルギーが足りないとエネルギーに回されるのである。


つまり十分に炭水化物とかでエネルギー摂らないとタンパク質が筋肉とか怪我の治療に回されないのである。

たんぱく質を効果的に筋肉とかに回すためには炭水化物とかも必要って事です。

因みにこの効果がエネルギーのたんぱく質節約作用だったりだったり……。


「というわけで、ビタミンCの合成工場を雪の国の首都に作ることになりました。」


フィールの声にハッとする。

いつの間にかフィールやマッチョンが雪の国と交渉を進めていたらしい。メイが錬金術での合成の方法を向こうの技術者たちに教えている。


(やっぱりメイって、自頭がいいっていうのかな……。)


可愛くって頭も良い。

人に教えるのも上手い。

そんな彼女の近くにデブでチビな俺がいても良いのだろうか。


確かに栄養学の知識はあるけれど、少しは人より覚えていることも多いけれど、それでもそれは特別なことじゃない。

この世界に栄養学がないから重宝されているだけなんだ。

異世界転移者って意味では特別だけど。


メイがふいに後ろを振り返る。

金の髪がさらりと揺れて、金の瞳が俺を捉える。

その瞬間顔の温度が上がることを自覚してしまう。

顔が赤くなるのを恐れて思い切り目を背けてしまう。

だから俺はメイがどんな表情をしていたのか分からなかった。


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